第13話後編
三人が買い物に言ってから、二時間ほど経った。新天地とはいえ、同じ街の別地区というだけだ。よほど荒れた地区というわけでもないようだし、コミュ力お化けのツムグもいるのだから問題は起きない思う。あのメンヘラも、僕らの中ではツムグに次いで社交性を持っているし(僕らが低いというのもあるけれど)、ダッシュも社交性が高いわけではないものの知識人かつ常識人だ。前者二人がナンパでもされない限り平気だろう。
現在、庭の方ではスペルが植物の手入れを行っている。無造作に生い茂っていた草花は整えられ、見違えるように変わっていた。
室内の方は、僕とテインで進めている。まず布団は室内の空き部屋に干して、僕が拳で連打した。かなりの埃が舞ってしまったが、ダッシュ曰くこの部屋でやってくれればあとで処理するとのことだ。
床や壁で、僕が届くところは粗方片付けたつもりだ。掃き掃除をしてから、三回繰り返して水拭きと乾拭きを行った。
天井や高い位置はテインが進めてくれた。高くへ飛行したあと、空中で一瞬アドベンチャー・スタイルになり、魔法陣の結界で足場を作っていた。僕も乗ろうかと聞いたが、重量制限があるのでと断られた。
(僕そんなに重い?)
さて。ある程度終わったので、次は台所の手入れをしたい。布団を連打した部屋以外は窓を開放して換気をしている。風呂場や台所も同じく換気をせねば。
ちょうどその頃、スペルが戻ってきた。手伝うと言ってくれたので、流しの方をお願いした。蛇口を捻ると、ちょろちょろと水が出てきた。もともとの水圧なのか、年季なのかはわからない。スペルはちょっと手入れしてくると出ていった。数分後、この小島全域を包むほどの大きな魔法陣が展開される。何事だろうかと驚いたテインが彼女のもとに急ぐ。彼女がなにやら説明すると、テインは納得した素振りを見せる。そしてその魔法陣に、自身も魔法珠を落とす。すると魔法陣は、再び強く光る。
二人はこちらの方へ戻ってくる。
「えっと、何したの?」
「ん~…ここの水道、回りの湖の地下に染み込んだ水を汲み上げてるみたいだから~、テインと簡単な結界張っといた~」
「もちろん、ダッシュの体質を考慮してですけど。」
精霊種族の末裔と、天使との亜人…あまり魔術に詳しくはないが、多分さらっと凄いことしてると思う。
「大体きれいになったね~」
「ですね。ツムグ達も、もうそろそろ帰ってくるでしょう。」
彼らが来るまで、細々とした作業を進める。水雑巾で窓を拭いたり、使わない掃除道具を片付けたりと。
三十分もしないくらいで、小島の入り口の方から彼らが帰ってくるのが見えた。テインが出迎えに行く。スペルもトテトテ歩いて迎えに行く。
「おかえりなさい三人と…も…」
「うん……た、だいま…」
野菜が入ってる紙袋を提げたダッシュが返す。後ろにはツムグに肩を貸すクロルと、頭から血を流していたり、鋭い傷跡と打撲傷があったりしているツムグ。同じく二人とも両手に買い物袋を持っている。どういう状況だろうか…
「テイン、ツムグの手当てを手伝って貰って良い?」
「は、はい!とりあえずホールでやりましょう…」
ダッシュから頼まれたテインは、彼をクロルから受け取る。ツムグは態度自体は平然としているが、かなりの重症に見える。彼は回復呪術を使えたと思うが、おそらく傷口に何かが入ってしまっているんだろう。テインはともかく、その状態で傷を治すと内部の破片や細菌により後遺症が残ることがある。
「どうしたの?魔物とかと遭ったのかな?」
「えぇ、あぁ。」
ちょっと気まずそうにしている。一旦買い物袋を受け取り、台所に置く。ホールの方では、ダッシュが医療品を準備していて、テインは彼の傷口を診ている。そして改めて話を聞く。
「ツムグと肉屋の店員さんが知り合いだったみたいなんだけど…」
「あぁなるほど。大体わかった。」
スペルも「あ~」という納得の言葉を漏らす。クロルは諦めたような声色で、「取りあえず肉は買えたから…」と続ける。後ろの方でツムグが「ワイン瓶は流石に硬ぇ」と言っている。
「アタシらでご飯の準備しよっか。」
「ん~」
☆☆☆☆☆☆
この屋敷の台所は、それなりの広さがある。
レンガ造りの火の元。下には薪をいれる所があり、上には焜炉が二つ。換気扇もちゃんとしていて、水道もあるから安全だ。魔道具とかはないみたいだ。
「脳筋、切んのお願い。」
「あぁ、わかった。」
ハセラはまな板と包丁を準備し、クロルから野菜と肉を受け取る。クロルは薪の準備をして、フライパンの準備をする。
「テインはお米お願いね!」
「は~い」
ザルにお米をぶちこみ、水ですすぎながら研ぐ。研いでいると徐々に白くなっていった水が、今度は徐々に薄まっていく。
「肉はこれくらいで良いかな?」
「あー、そんくらい。」
「野菜はどれくらいにする?」
「えぇっと、良い感じに。」
「良い感じかぁ。」
いつも喧嘩しているこの二人だが、実際は波長が合うのか冷静に会話も出来る。同い年だし、お互いはっきり言い合えるから落ち着いてるときは落ち着いてる。ツムグもよく皮肉も交えて仲良しっていってるし、ウチらもそう言う。
「あれ、マッチか火打石ある?」
「僕はないな…」
「ん~…ダッシュが持ってると思うけど、ツムグの手当てしてるし~」
「そっか。じゃあアタシのでやるか…」
クロルは壁に立て掛けておいた弓を取る。焜炉に向け構え、矢の切っ先を向ける。
「『
放たれた燃える矢によって着火された。『
「え、強くない?火事に成らないようにね?」
「お前こそ包丁握りつぶすなよ。」
「『キュアー』したから平気だよきっと。」
「クロル~、ウチも初級魔法で火ぃ出せるよ~?」
「あ、そーじゃん!ごめん。」
鍋に米をぶちこみ、水をぶっかける。ツムグが言ってたやり方だと、掌で米を抑えるようにして計ると良いらしい。手の甲くらいが良い塩梅。
「そういえば8合でよかった~?」
「いいんじゃん?夜はまた炊けば良いし。」
肉と野菜を炒めながら、クロルが答える。ハセラは水道で研ぎ石や洗剤を並べて、使い終わった食器や器具を洗っている。ウチは使わない食材をしまっていく。
「米って一時間くらい炊くよね?クロルがかなり先に終わらない?」
「まぁ、ツムグもあれだけ怪我して直ぐ食べようとは思わないでしょ。」
「怪我をしたらご飯を食べるものだと思うけど…」
「そういうやつ脳筋っつーんだよ。」
「え、僕はあんまり怪我しないから…」
「そういうことじゃねーわ。」
広間の方を見ると、ちょうどツムグの治療も終わったみたいだ。ダッシュがハセラに、布団は終わった?と聞く。ハセラが頷くと、ダッシュは例の部屋に行く。
『
「『
舞っていた埃達が一気に落ちていく。概ね沈み終わったあと、魔方陣が収束していき、その上にあった埃達も引っ張られていく。やがて埃のボールみたいなものができて、彼女はそれを拾いゴミ箱に捨てた。
「今のなに~?煙の共鳴術~?」
不意に話しかけたので、彼女は少しビクッと驚いたが、今の魔術について説明してくれた。
「共鳴術だけど、一応〝煙〟じゃなくて〝重力〟の共鳴術……煙にかかる重力だけを強める…」
「あ~そっちか~…他の部屋もやるの~?」
「あ、いや、今日はここと、どこかの寝室一部屋だけ…魔力の消費凄いから…」
彼女はそのまま手を洗いに行った。ウチも手伝いたいけど、煙の虚無魔法術は生憎持っていない。換気と簡単な水拭きだけしておこう。
なんとなくツムグの方を見た。ツムグが回復のためにテインを纏っていたが、テインがご飯の匂いにつられてしまったため、操り人形のようになってしまっていた。
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