第14話 魔術継承帯革【纞伝来帯《レデンライダ》】
「知らない天井だ…」
ツムグが目を覚ますと、知らない天井が彼の目に写った。正しくは、新居の天井…ここは新居の一室だ。部屋のなかにはベッドがひとつあり、クロルとダッシュが眠っている。ベッドの右側の床には布団が敷いてあり、ハセラと、彼女に抱き締められているテインが眠っている。
そしてツムグ自身はというと、ベッドの左側にハンモックを立て眠っていた。彼に覆い被さるようにスペルも眠っている。
昨日、彼らは皆で食事を取った。その後、ダッシュとスペルがこの一室を綺麗にし(掃除で舞った埃を除き)、今晩は皆で寝るということになった。
現在、朝の六時。
彼はまだ眠るスペルの頭を優しく撫でる。彼女はそれが心地好いので、眠りながらも彼をさらにぎゅっとする。
『もしかしてツムグ起きました?』
テインから彼にテレパスが届く。彼も同じく、テレパスで返す。どうやら、目が覚めていたようだがハセラがスヤスヤと眠って抱き締めているので起きるに起きれないようだ。
『ツムグも…起きた?』
さらに続けてダッシュがツムグにテレパスを送る。彼女も同じく、クロルに抱き締められて起き上がれないようだ。
『傷は大丈夫ですか?』
『あぁ。いつもよりぐっすり眠れたからな、』
『一応、後で診るね。』
『うん。』
普段、彼ら三人はもっと早くに起きて行動しているが、連日の大仕事もあり本日ばかりは長く眠っていたようだ。
そして、もうひとつの理由としては…
「ツムグ~…ちゅ~しよ~…」
「僕そんなに重くないよ…うぅん…」
「すぅ…すぅ…ん~ふふ……」
動けない。
☆☆☆☆☆☆
現在、朝の八時過ぎ。
皆が目を覚まして、テイン、スペル、クロルが順番にシャワーを浴びた。その間に僕は朝のトレーニングを行い、クロルがシャワーを浴びたあとに僕も浴びた。
それぞれが自室で荷物を整理して、クエストの準備をした。(なお、先ほどの部屋はダッシュの部屋として
僕らはツムグに、先に出て待ってると言って外にいた。彼が玄関扉を開けると「来たよ!」、「誰が渡す?」、「作ったダッシュ?思い付いたスペル?」、「全員で一緒に…」、などと僕らは少し恥ずかしそうにしていたり、どこかワクワクしていたりしながら話していた。
「えっと、どうしたの?」
彼が問いかける。「じゃ、じゃあ…」、「うん、そうしよう」と言って彼の方を振り向き、僕が持っていた木箱を見せる。
長辺が五十センチメートルほど、短辺が二十センチメートルほど、厚さ十センチメートルほどの木箱。
スペルとダッシュはツムグの両隣に立って、「ツムグが戦うときに、少しでも負担を減らせるように~」「あと、ひ、日頃の感謝も、込めて…」と言う。そしてテインも、「私たち…まぁ頑張ったのその二人なんですけど…私たちからプレゼントです!」と続ける。クロルと一緒に片手を木箱の上に手を添える。
「せーの、で開けんぞ」
「うん、えっと『せーの』の、『の』で開けるの?『の』のあとで開けるの?」
「え、あぁ…『の』のあとにあける。」
「わかった、せーの、はいって感じね。」
「うん。『の』のあとな。上に開けんだからな?スライドじゃねぇかんな?」
「流石にわかるよ。」
「あの、早く開けて貰っていいですか?」
苦笑いしてテインが突っ込む。そして、せー『の』で二人とも蓋を開けた。
箱の中には白い布が敷かれており、その上にはグレーのベルトが一本と、白い魔道具のようなものが二つある。彼がこれは?と問いかけると、両隣の二人が彼に真っ白のカードと、紋様が刻まれたカードを数枚彼に手向ける。
「新しく作った装備。これは魔術が入ったカード…〝
「え、俺のアイデンティティーよ。」
「でも使えるのはスペックにSがある人だけ~。
二人は楽しそうに説明する。それに加え、このシステムは、例の文献やクローバーたちからの情報を元にしているとも伝えた。彼は彼女の名を聞くと、少し嫌そうな顔をしたが、すぐに明るく嬉しそうな微笑みを浮かべ、ありがとうと言った。
僕らは少し照れて頷く。木箱はダッシュが収納した。
「試しに使ってみて…
魔道具を組み立て、ひとつのベルトにする。腰に巻くと、腹部のあたりにはガラス張りの面がついた装置が、右側には
「えっと、真っ白のカードを真ん中に入れて…この状態で魔術を使用か…じゃぁ、さっそく。〝
彼が魔術を使用するも、魔力がベルトに収束されていく。拳で空を打っても、なにも起こらない。セットされていた真っ白のカードには、新たに紋様が刻まれた。
「んで、これにセットして…」
「腰と掌で挟む感じで…」
新しく作ったカードを右の装置に差し込み、面の部分をグイッと押し込むように触れる。すると、ベルトは言葉を発する。
「〝
「うぉ、俺の声…」
「その状態で殴ってみて?」
彼が虚空を打つと、打撃が飛んでいく。おそらく成功だ。
「おぉ…」
つまりこれは魔力を前払いする装備。本人はもちろんだが、スペルやダッシュもかなり喜んでいる。突然、僕らもなんだか楽しいというか、嬉しいというか、良い気持ちだ。
「こんな感じで使える~」
「名前は、
「独特な名前だな。なーんか聞いたことある響きだけど。」
ダッシュはポケットから紙を取り出し、彼に渡す。中には、
「テインのスキルの白い羽、スペルが樹人族の魔術を使って分離した木片、みんなから取った魔成と魔力、特に生命力が強いハセラのをメインに『絶対自分空間』の要領で固体にして、クロルの上級の炎でこの三つを熱合成して作ったベース体…あとは全員の細胞の情報もほしいから、みんなの髪の毛とか血とか汗とか涎とかもらって合成して…スペルの樹人族の言語形式とテインの魔法陣の形式、あとは自分の作ったプログラムとかもろもろ組み込んで…」
スラスラと説明していくダッシュ。
彼はえっ?と驚いた表情をして、所々が聞き間違いではないかと聞き返す。
「あ、ツムグの髪の毛と汗と涎は寝てるとき取ったよ~…血は治療の時とか~…」
が、スペルが取り方を含めてはっきりと言った。彼は前居たところにそういうやついたわ、とか、飯にいれてくるやつのもいたわ、とかなんか凄いこと言ってる。
「事前に準備しておいて、スキル封じとか大型クエストとかで使う用だから……他にもいくつか機能あるけど、今日は着けて戦ってみて。」
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