第15話 新種ミミックの調査
【ミミック】
【宝箱等に擬態した魔物、あるいは魔成などの蓄積により魔物化した宝箱等の総称。とある数世紀前の学者により概ねの分類が行われた】
【G種:目や牙や舌を持つ典型的なの魔物】
【F種:G種に近いが目を有してない魔物】
【K種:宝箱付近の壁や床に擬態する魔物】
【D種:箱や棚を殻にする甲殻類の魔物】
この前、綿飴のクエストを受けたダンジョンの別エリア。先日のエリアよりも舗装が整っていて、少ないが灯りもある。
ハセラが前方を歩き、ダッシュとアタシはその後を横並びで歩く。
「ま、前にミミックが確認されたのは、もう少し進んだところだって…」
ダッシュがギルドで受けとった紙を見る。
歩き進めながら、彼女に聞いてみる。
「新型のミミックって、どんなやつ?」
「えっと、き、機動力がある…ってさ…」
「機動力?」
ミミックは分類がいくつかある。機動力がある、ということは固定型の三種ではなくD種なのだろうか。それとも、三種に機動力がついたのだろうか。
「し、新種だから、四種とは全然違うんだと思う……」
「そういえば、今回の調査は討伐?生け捕り?」
「えっと…情報提供だけでもいいけど、討伐で構わないって……ただ、死体は回収してだって…」
ダッシュが確認しながら説明してくれる。すると、ハセラが「待って」と言って立ち止まる。
「こっちに向かってくる足音がする…」
ギルドの人曰く、今日はこのダンジョンに来ている冒険者は他に居ないとのことだった。とはいえ、ギルドの依頼ではなく、個人やプライベートで来ている人はいるかもしれないけど。
「新種のミミックから逃げているのかな?それとも魔物か…足音は軽いかな…」
「弓構えとくよ?」
「あぁ、お願い。」
アタシは弓を構え、ダッシュは少し下がる。ハセラも鞘と刀を握り、構える。
足音が軽いという。ならば、魔物だとしても骸骨あたりだろう。ハセラがぶった切れば倒せるが…
「来た…!」
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ
「うぅぅわあぁぁぁ↑!!キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい!!!」
思わず声をあげてしまった。
通路の奥の闇からこちらに迫ってくる人型の影。黒か、あるいはグレーの体はやけに細く、そして無機質というかスベスベしすぎているというか。幼児が人の絵を描いたときのように、一切の凹凸や特徴がない。胴体からは、より細い手足が生えていてなんかもうバランスが悪い。手足の指は多分それぞれ三本で、鳥の蹄とかに近い。
そして一番キモいのは、そんな体から映えている頭だ。骸骨とか、柄のない丸い玉とかならまだよかった。だが、そこにあったのは鋭い牙と大きなベロが生えている宝箱。
細い体が生えたミミック…おそらくこれが新種だろう。
そんなアンバランスな見た目をした人型の魔物が、まぁまぁな速さで迫ってくる。流石に発狂する。
※挿し絵
(https://kakuyomu.jp/users/milklupia/news/16818093074612216996 )
「え、な、なにあれ、なにあれ!?斬っていいの!?」
「撃つよ!?えっ、撃つよ!?」
ダッシュが焦りつつ頷く。討伐しても構わないらしいので、魔術と併用して燃える矢を一本放つ。普段から動く相手でも狙うし、真っ直ぐこっちに来るなら当てやすい。
しかし、新種ミミックは走ったまま自らその矢の方に頭を近づける。
バクンッ
大きな口を開き、その矢を丸飲みした。ダメだ、頭のなかで
「おいハセラ!ダッシュのこと担げ!一回引くぞ!」
「う、うん!わかった!」
ハセラは振り返って、そのままダッシュを担ぐ。後の方にダッシュの顔があり、前の方に足が向いている。
通路を全力疾走で逆戻りする。後の足音は離れることなく迫ってくる。
『多分、F種の変異種…開けてくる冒険者を待つんじゃなくて、自分から冒険者に近づいて顔回りにある魔力含有物に噛みつくんだと思う…』
ハセラに担がれたダッシュは、揺れながらも後のミミックを見る。考察、説明してくれているものの、申し訳ないけどそれどころじゃない。
彼女は
「『煙幕』…」
「ギィェッ…ェハッ!?ガハァッ!?」
後方には煙が蔓延し、その煙を吸ったミミックは思いっきり噎せている。その隙に、弓を構えながら振り向く。
「『ショット』!」
「ギャッ…」
煙で噎せているので、今度は喉の辺りに命中。あの身体はあまり頑丈ではないみたいで、かなり深く刺さったようだ。そのままミミックは転ぶように倒れた。
「はぁ…はぁ…」
「倒れたね…」
「マジでキモすぎる…」
ダッシュが確認のため、近づきたいと言う。アタシは弓を構え、周囲を見渡す。
ダッシュは手袋を着け、屈んでミミックの身体を調べる。腕を持ち上げると、だらーんとした感じで、完全に脱力している。
「身体は…弾力があるな…魚か、タコとかに近いかな…なんだろこれ…表面は滑らかだな…」
「僕は今からこれ担いで街までいくのか…」
「う、うん、ごめんお願い…」
ハセラも足の方を持ち上げる。それあんまり素手で触ろうとしないと思うんだけど。取りあえず手ぇ洗うまで触んなよお前。
「暗いから、詳しく調べるのは後で――」
ガバッ
「――っ!」
横たわっていたミミックが、勢いよく起き上がる。口を開いて、屈んでいたダッシュにかじりつこうとする。
グシャッ
「はぁ…はぁ…あ、ありがとハセラ…」
「う、うん……」
しかし、その頭を上からハセラが殴り潰した。宝箱の部分は大破し、臓器や牙、擬態に使っていた木材部分などが飛び散っている。ハセラ本人の拳や腕には暗い赤色の血がべっとりと付いていて、その血が滴っている。
「ぎ、擬態は…ミミックの得意技だもんね…」
「うん……ただ、流石にもう動かないと思う…」
ダッシュが魔法陣から、少し大きな布と、台車を取り出す。ミミックを回収する為だ。
「ダッシュ立てる?」
「だ、大丈夫…ハセラは手、大丈夫…?」
「あぁ…大丈夫だよ。流石に早めに拭きた…い……」
ハセラの言葉が徐々に小さくなる。そのまま、ゆっくりと後の方…先程まで向かっていた方を見る。しばらくすると、アタシ達もその理由がわかった。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッッ
十余体の新種ミミックがこちらに向かって走ってくる。二足歩行で走ってくるものだけでなく、四足歩行のように迫ってくるものもいる。先程よりも更に気持ちが悪い。
「すぃ……」
「すぅ……」
「……」
三人揃って発狂したあと、ダッシュのことをハセラが担ぎ、一心不乱にみんなで出口に向かっていった。
【新種ミミックの調査】
結果:達成
成果:新種の確認、報告
討伐:1体
回収:1体
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