第16話 お菓子の家の破壊/討伐

お菓子の家ヘクセンハウス

【森の中に出現するお菓子でできた家。その正体は、魔族による罠や、擬態した魔獣。後者はミミックや化け魔獣などに近い魔物とされる。】


 ツムグはクエスト現場である〝修道の森〟にある、修道院の人たちに挨拶をしている。


「旅の方々ですね。お待ちしておりました…」


 白い服の上から黒い衣と頭巾を纏った修道士が答える。同じ聖職者であるテインも会釈して、ウチも軽く会釈する(ツムグと腕を組みながら)。修道士は簡単に挨拶を済ませて、早速本題に入った。

 今回のは出現が確認されただけらしいから、罠か魔物かは不明らしい。ただ、子ども達が危険と知らずに近づいてしまう前に処理をして欲しいとのことだ。

 お菓子の家ヘクセンハウスはウチらの村の近くにも出てきたことあったと思うけど、その時は村民が駆除したっけ。


「こちらの方です。」


 森の奥の方に案内される。先頭を修道士が歩き、後をウチらが歩く。彼が、ところでと口を開く。


「テインがやけに元気だけど…」

「あ~」


 まぁ、その理由は明白だろう。ただ、どうやら彼はお菓子の家ヘクセンハウスを知らないよいだ。


「魔獣であれば、お菓子の家ヘクセンハウスは美味ですからね。」


 優しい声で、修道士が答えた。ツムグは少し引いている。


「罠だったら見てくれだけだけど~、魔獣なら食べられるよ~」

「食べて大丈夫なのそれ?」

「平気だよ~。蟹とか海老に近いかな~」


 殻のところはほとんどお菓子で、内臓とかは普通に筋繊維。ただ骨のところは甘い出汁が取れるし、臓器は調味料になるから嫌いじゃないんだよね~


「そろそろですね。あちらです。」


 修道士が止まり、指を指す。その方向にはポツンと一つ、小屋がある。すると、それを見たツムグが目を大きく開き驚く。


「え、和菓子!?」

「あ、そうみたいですね。」


 今回のお菓子の家ヘクセンハウスの見た目は、屋根が最中、壁はおそらく羊羮、柱は煎餅かな?窓は飴で、屋根の上には饅頭かなにかが並べられている。

 ワガシ?というのは分からないが、おそらく外来種だ。ツムグのふるさとのお菓子なのだろうか。


「ん~…あれ魔獣だね~」

「?そうなのか?」


 小屋の周りを見ると、地面から生えている草が少し萎れている。お菓子の家ヘクセンハウスが魔成や魔力を吸っているのだろう。あの魔獣は、樹人族ウチみたいな植物と動物の中間だ。まぁ、樹人族ウチは正しく言うと、精霊と植物の中間なんだけど。

 その旨をみんなに話す。『大蛇オロチ』使って樹木でぶっ壊してもいいんだけど、お菓子食べたいし。


「では、今から結界を張ります。」


 お菓子の家ヘクセンハウスが魔獣の場合、結界を張って囲むことで炙り出すことが出来る。また、周囲に漂う邪気や幻覚を祓うことができる。まぁそんなことしなくても、多分テインには効かないんだけど。 


「【我が光】、【魔のけだものに】、【牙を向け】…」


 右手に儀式用の金貨を持ち額に当て、左手で印を結びながら小屋を指し、少し物騒な詠唱を呟く。簡略されてるけど儀式ありだから、おそらく魂札ライセンスらない結界術だ。

 修道士の足元は仄かに光る。そして小屋を中心として、地面に魔法陣が展開される。数秒後、うっすらと半球の幕が作られ、小屋を覆う。


「えぇ、確かに魔術を用いた罠の反応はありませんね。あとは、よろしくお願い致します。」

「はい。」


ミシッ…


 お菓子の家ヘクセンハウスが、少し揺れる。おそらく、結界術に反応したみたいだ。活発に行動するタイプなら、このまま逃げるか襲ってくるかだ。


「スペル、修道士さんの護衛をお願い。テインは〝アドベンチャー・モード〟で俺とあれの破壊。」

「いいよ~」

「はい。」


 ウチは修道士を樹木で囲み、テインはツムグに纏い着く。修道士は落ち着いて結界を維持している。

 彼は小屋の方に歩いていく。


ガシャッ


 が、小屋が突然大きく動いた。

 小屋自体がムクリと立ち上がる。下から10本弱ほどの根っこのようなものが生えており、足のように小屋を支えている。ただ、結界からは出ていないようだ。


『記録用に写真も取るんでしたっけ?』

「あぁ、そうだった。」


 写真の撮影は魂札ライセンスに組み込まれた光の魔術を用いて行う。でも、ウチの端末は樹人族のもので種類が違う。と思っていたら、ツムグがアポートを使い、纞伝来帯レデンライダに着けていた自身の魂札ライセンスを渡した。


(あれ~?ツムグって基礎魔術とか使えるんだっけ?)


 と思ったが、彼はそのまま小屋へ歩いていく。その光景を写真に収める。お菓子の家ヘクセンハウスの写真と、それに向かっていくツムグの後ろ姿の写真。こっちはなんか凄くヒーローっぽい。

 相手はゆっくりとあしをあげ、窪んだ地面から出てくる。彼は風の低級魔法術を用いて、そのあしを攻撃する。だが、流石に押されはしない。

 歩いて結界内にはいる。修道士の術もあるが、テインを纏っているので相手の影響は受けていないみたいだ。


「こいつって臓器とかあるんだよな?」

『え?はい。』

「じゃあ…」


 ツムグはテインの翼を使って、小屋の扉に近付く。ノックをして、「お邪魔します」と扉を開く。どうやら、室内にしっかりと空間があるタイプのようだ。先程も言った2つの理由から状態異常はないみたいだ。飴の窓から中の様子を伺うと、彼が見えた。拳を振り上げ、魔術を使って地面を叩く。

 数秒後、お菓子の家ヘクセンハウスが苦しみ出す。なるほど、あれは『オーバーワーク』かな。鈍い打撃ダメージが臓器に直接流れていき、その痛みに苦しんでいるんだろう。

 彼はそのまま室内で数回地面を叩く。お菓子の家ヘクセンハウスはあまりの苦しみに暴れ出す。小屋のところを大きく揺らしたり、あしを激しく動かしたりしている。結界により多少弱体化しているとはいえ、十分危険だ。ウチは植物を使って、飛んでくる破片を防ぐ。

 しばらくしたあと、お菓子の家ヘクセンハウスは大きな音を立てながら倒れた。


「状態がかなり良いまま倒せましたね!」


 テインが変身を解き、喜びながら確認しにいく。確かに、下の内臓部分を中心に攻撃したのでお菓子のところはあまり壊れていない。倒れた時に地面にぶつかった方は割れてしまっているが、壁が羊羮なのでショック吸収をしたみたいだ。

 修道士の周りの樹木を解いて、二人のところに向かう。


「これもらっても良いですか!」

「えぇ、構いません。例え魔獣とて、命あるもの…食すことができるのなら、そうして供養しましょう。」


 ツムグが『収納インベントリ』から布を数枚取り出す。

 屋根や窓を砕いたり、壁を紙で包んだりして布に仕舞う。鮮度が高いので、『収納インベントリ』にはまだ生物として扱われるから、返りは手持ちかな。

 残ったところには、修道士とテインが白魔術を施した。


 そして、ある程度回収したあと、修道院に戻ってきた。


「本日はありがとうございました。これで安心して子ども達と森に向かえます。報償の方はギルドの方から出ると思いますので…」


 死体の残った部分は、大人達が解体して森の肥料になる。まぁ、それが理由で再発することもあるんだけど、どっかの食いしん坊がかなり回収したし、白魔術もかけたし大丈夫だろう。

 今、ウチらは修道士に挨拶をして帰ってる最中だ。テインが微笑みながら、嬉しそうに歩いている。その様子をツムグがじっと眺めている。


「?どうしました~?」

「……なんでもないよ。」

「そうですか?」


 多分、ツムグはウチとおんなじこと考えてる。

 さっきの修道士、凄く礼儀正しくてしっかりしてたな~と。

 テインのことをみながらウチはなにも言わず、風呂敷の中の煎餅をパクッと一つ食べた。



お菓子の家ヘクセンハウスの破壊/討伐】

結果:達成

成果:魔獣 お菓子の家ヘクセンハウスの討伐

討伐:1体

回収:煎餅、羊羮(餡)、最中、飴 等

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