プロローグ6 純白の冒険者:ワガミ・ツムグ

 〝異世界人〟

 異世界から来た者、異世界に住まう者。その者達の多くは極めて強力な力を有しており、なぜか総じて世界を救おうとしたり、魔王を倒そうとしたり、やけにモテモテだったりしているそうだ。

 また当然、2つの世界がある場合、どちらが異世界かは互いに反対だ。


☆☆☆☆☆☆


【トッコンデャンキィ】

【自然発生した高密度の魔成の塊で、一定以上の魔力に引き寄せられるため、生物等に特攻トッコウする。接触した場合、魔力と魔成が根こそぎ吸われ、生物の場合体力ごと持ってかれる。

 その際にはデャン!という音を立てながら吸われたあと、口や関節からキィ…という音が鳴り最悪の場合は死ぬ。

 分類上は生物ではなくただの物質、あるいは現象で、疑似モンスターであり通称、綿飴とも呼ばれている。】


 真っ白な髪は逆立つヘアースタイル、もしくはオールバックと表現できる形に整えられ、額が露になっている。ケアがしっかりされているようで、肌は白く美しい。

 くっきりとした眉毛と少し長い睫毛、つり目よりの鋭い目付き、ハセラと同じ辺りにある涙黒子と高く整った鼻、少し髪に隠れた耳。むっと閉じた口は何故かいやらしい。

 背丈はダッシュと同じくらいである。服装は白い燕尾服のようなアウターを、黒いシャツの上から着ている。グレーのズボンを履いており、白い手袋と黒い靴も含め全体的にモノトーンカラーだが、銀の星形のタイピンを着けたマゼンタのネクタイが目立っている。動きにくそうな格好だが、しっかりと冒険様に特注された服装で、風通しが良く、ある程度の伸縮性もありつつ丈夫で、吸汗性能や防臭機能もある。

(https://kakuyomu.jp/users/milklupia/news/16817330657850318809 )


 彼が歩いて奥の部屋に近付く。中には仄かに光り、フワフワと浮遊する魔成の集合体があり、ゆっくりと彼の方へ近づいていく。

 少年は手袋を深く引き、ぐっぱぐっぱと指を動かしたあと、掌をトッコンデャンキィに向ける。


「『ショット』、『煙幕』。」


 煙が勢い良く放たれ、トッコンデャンキィの内側へ流れていく。『ショット』で強化しても、もとがただの流動物の煙なので威力はないものの、濃度の中和には十分なようだ。煙により侵食され、濃度や密度が下がっていく。

 続けて、先ほどのスペルと同じように掌に玉を作る。その玉を、しゃがんで地面に優しく押し込む。


「『華帝災園ガーデニング』。落葉性木本“ジメジメツル”、〝囲んで〟。」


 狭範囲で発動したの蔓は綿飴を包んだ。10本ほど蔓の先端がトッコンデャンキィの中に刺さっていく。地面に触れたまま、さらに詠唱する。


「『魔成強奪マナスティル』。」


 蔓を媒体として、今度はダッシュが使っていたスキルを発動する。これにより魔成が吸収され、濃度は比較的安全な段階まで下がり、やがて少しの魔成の霧と煙幕だけが残った。


「よし、ありがとう。〝戻ってくれ〟。」


 立ち上がりながら礼を言うと、球体を成していた蔓達は、もともとあった壁や地面の方に引っ込んでいく。

 右腕を曲げ、拳を握りながら左に構える。


「『活性化ガッツフレア』、『大攻水』。」


 体が一瞬、仄かに黄色に光った。虚空を叩くように右腕を伸ばし、手を開く。先程の煙は空気中の水分に引っ張られる。腕を伸ばしたまま、掌を向ける。


「『ウィンド』。」


 手から放たれる風によって、煙幕と魔成は綺麗さっぱり霧散していった。少年は振り返り、仲間たちのもとに戻っていく。


「クエストの内容は『発生したトッコンデャンキィの駆除』だったね。」

「一応『奥も確認しておくこと』って一言もあるから見ておこっか。」


 さっきまで喧嘩してた二人が、クエストの説明が書かれている紙を一緒に見ている。


「あ、い、今っ…見てきたっ…」

「あぁ、マジ?」


 ダッシュがしれっと見てきていた。ボロボロな本をかかえながら、先ほどアンデッド達がいた所に歩く。


「いっ、『収納インベントリ』…アンデットたちっ、のっ、いっいい、衣類も遺品で、だから、持ってくっ…」

「あぁ、そうだな。手伝おう。」


 彼とダッシュは掌の上に魔法陣を展開する。アンデッドの遺品であるネックレスや靴を拾い上げると、その魔法陣の中に入れる。テインが二人に近付いて「服畳みますね!」というと、彼は「頼む」と返して、ダッシュ頷いた。

 一方、クロルとハセラは武器を構え、スペルはクロルに抱きつきながら周囲を見渡している。


「そういや奥はどうだった?」

「人は、だれ、もいなかったっ…モンスター、とかも、いなかっ、た、たから…あ、でも、文献が、何個か…一応もっ、持ってきた…許可が降りたら、これも、もっ、貰う…い、いい、いいかな?」

「あぁ。むしろそれが良いだろうしな。」

「うん…あっ、あ、ありがと…」


 少し恥ずかしそうに返す。テインは畳んだ衣類にアンデッドたちの残滓が残っていないか確認しつつ、汚れを払ってからダッシュに渡す。


「じゃ、帰ろっか!」

「僕が前に行こう。クロル、殿しんがりお願い。」

「は?なんでアンタが指示」

「頼んだぞー。」

「うん!」


 クロルから離れ、彼の元に近づきまた抱き締める。そして抱きついたまま、ねだるようにぴょんぴょんと小さいジャンプをする。

 

「おんぶおんぶ〜」

「はいよ~」

「ん〜…んふふ〜」

「じ、自分は、帰りは歩く…」

「平気ですか?」

「ん…た、多分…」


 精密性の高い技量の狙撃手のクロル。

 凄まじい身体能力の剣士のハセラ。

 桁外れた魔力を宿すスペル。

 天からの運気を持つテイン。

 幅広い知識を有するダッシュ。


 そして、それを束ねているのは…

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