1ー8 戦闘準備


 あの後、ツムグはアウモスから受け取った魔術を登録した。また彼は僕とテインに魂札ライセンスを向け、僕に近接系ブルーの共鳴術『斬雷鳴ザラメ』を送信した。テインにも『幽叩イットノック』と『霊感』を送信した。


(彼女はもともと使わずとも見える気がするんだけど……)


 堕悪系ダークの魔術については獲得された前例が少ないので、使い方の詳細はダッシュとスペルが本や調査書を基に教えてくれるそうだ。

 皆が荷物を整えていると、部屋の扉を叩く音がした。


「すみません皆様、ハチです。少しよろしいですか?」

「は~い。」


 彼が扉を開ける。


「いらしていただいて早々なのですが、クエストについて歩哨ほしょう達と話し合いをしてほしいのですが……」

「わかりました。」


☆☆☆☆☆☆


 一階のフロントに行くと、3名の歩哨が待っていた。2~30代の男性が二人と、女性が一人。茶色のブーツとジーンズを履き、裾が長めの赤い服の上から革のベストを着ている。肩や肘、手首、膝には装甲があり、腰には剣と細めの棍棒を携えている。そして右の上腕辺りには、歩哨であることを示していると思われる布が巻かれている。白い生地に、緑の刺繡で弦の意匠が施されている。

 おそらく隊長であろうか、代表であろう男性がツムグに声をかける。


「旅の方々、お越しいただき感謝致す。」


 ツムグは彼に会釈を返した。僕らも同じく会釈する。


「俺は歩哨隊長を務めている、ソダートと言う。こっちの女兵は巡回部長のパトラレ、こっちの男兵は記録部長のラポト。今回村側の代表は我々と、ハチ様が担っている。よろしくお願いしたい。」


 後ろの二人は手を後ろに組んだまま、浅く会釈をした。


「あぁ。俺はこのパーティーのリーダー、ワガミ・ツムグ。好きに呼んでもらって構わない。」


 彼は続けて僕らの方を指す。


「赤いのが〝拏煥ナガン〟のクロニクル、紫色が〝黎明れいめい〟のダッシュ、青いのがハセラ、緑のがスペル、黄色がテイン。よろしく。」

(少し雑じゃないかな?それで言うと君、白い奴で覚えられるよ?)


 彼はソダートさんと握手をした。ソダートは握手を返すと、彼にクエストの話をしたいと持ち掛けた。

 ハチさんが僕らを事務所の方に連れて行き、対面席に迎えあう形で座った。三人ずつ座れる席で、僕ら側はツムグを真ん中にクロルとダッシュが座った。僕、テイン、スペルは後ろに立って話を聞く。

 記録部長のラポトさんが、書類を見ながら話し始める。


「ではまず、私から報告を行います――」


 説明ではこうだ。

 ここ一か月ほど、毎晩続けて〝お化けかかし〟が出現している。

 お化けかかしは、捨てられた案山子や手入れがされていない案山子に魔成などが集まり、魔獣・魔物化した物のことを指す。ゴーレムなどに近い存在だが、所詮は似て非なるただの化け物だ。

 出現場所は北の地区辺りだそうだ。戦闘能力自体は高いわけではないものの、子どもや老人にとっては十分危険な存在だ。


「お化けかかし以外にも、〝スカルタニップ〟や〝ゴーストクロー〟、あとは腐敗作物アンクロプスなどの農業地域特有の魔物や魔獣が確認されています。お化けかかし以外は毎晩出ていませんが、ここ一か月では例年の倍近く出現しています。他にも討伐した際の詳細がありますので、こちらをお確かめください。」


 説明を聞いたダッシュが、書類を見ながら顎に手を当て考える。数秒悩んだ後ツムグの袖をつまみクイクイと引く。書類を見せながら、彼に聞こえるくらいの小さな声で見解を述べた。彼は彼女の方に首を傾げつつ、書類の方に目を向ける。


「―――わかった。」


 『テレパス』を使わないのは、彼女の意見であるということを相手にわかりやすくするためだろう。今回はあくまでも、彼女とクロル宛での依頼だ。

  続けて、パトラレさんがテーブルに地図を広げながら話し始める。


「そちらの記録にもあると思いますが、出現が確認されているのは北地区、隣の村との間にある村間そんかんの池辺りです。」


 ヴァテンダの村は、南北に長いひし形のような形で、集落の面積はおおよそ12m²おど。南西と南東には山があり、村を囲んでいる。


「巡回は北地区に集中しているものの、他地区にも歩哨たちを配置しています。」

「ここ最近魔物の出現数が徐々に増えつつあり、村長タンボさんや令息ノーチさんに連絡を相談したところ、あんた方への依頼になったって感じだ。」


 三名は説明を終え、ツムグたちに何か気になった点はないかと聞く。


「まず、ダッシュの意見だ。お化けかかしについて……お化けかかしは、一定期間放置された結果、魔物や魔獣に転じるってことでいいんだよな?」

「えぇ。」

「その発生元になったかかしは、どこにあったんだ?」


 お化けかかしは、発生自体は珍しくない。だが一か月もの間、毎日一体だけが夜に現れるというような、規則的な出現がすることは不可解だ。


「それが不明でして……調査隊を湖の方に出兵したのですが、みな成果は上げられなかったようで。帰還した者たちは皆、それに加えて毎晩の出現もあり疲弊しきってしまったのか、ここ最近ずっと集中できていないみたいです。」


 パトラレさんや他の二人も、目の下に隈がある。一か月も毎晩こんなことが続けば、精神的にも肉体的にも負荷がかかるものだろう。


「その調査も含め、ご協力をお願いしたい。」


 ツムグは頷いて、書類に目を通す。


「じゃあ今日の晩、実際に北地区に行きたい。俺たち六人が行くから、数名の歩哨たちは休憩か他地区へ配置してもらった方がいいと思うけど、どうする?」

「えぇ、ではこのあと連絡しておきます。」

「時間は何時頃になる?未確定なら、時間が近づいたら直接ここに来てもらえればいいんだけど」

「そう、ですね……調整で少し変わるかもしれませんが、ここからですと北地区まで大体20分ほどですので――」


 ある程度話した後、僕たちは解散した。

 部屋につき、ツムグはダッシュと書類を見ながら話し合いをしている。スペルとテインは、今晩のクエストのために早めに食事をとれるよう準備している。

 僕も何か手伝いところだけれど……


「おい、お前は刀の手入れでもしとけ。」

「え、あぁ……って、あれ?手入れの道具持ってきたっけ……」

「バカかよお前。いいよ、アタシの使え。」


 クロルとともに、武器の手入れをすることにした。

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