第7話 一人で起こせる革命はない
息を切らし始めるアウモス。
ツムグは息を整え、確実にこのチャンスをものにする。
「
『オーバーフロー』には、『パワード』、『スピード』、『
二つ目には、遠隔技術『スコープ』、白魔術『魔除けの祈り』、援護魔法術『煙幕』、近接共鳴術『スパークリング』、生命の魔法術『フラワーシャワー』が含められている。
『スコープ』は狙撃箇所を絞る特殊な法治魔術。
本来自分と武器の間に横向きで展開し狙撃箇所を絞る。狭めれば狭めるほど体力・魔力を使うが、逆に広げるほどに自在に使える。
煙と花びらには『天晴』で浄化効果が与えられている。『スコープ』により範囲を絞りつつ、それらを『スパークリング』によって広げる。
(目眩ましだけではない…常時僅かながらに弱体化している。それに花は煙以上の浄化機能を持っている…!『スコープ』により煙が散らない…ここから出なければ…)
煙の中から打撃がアウモスへ飛ぶ。煙が少し晴れると、刀を携えたツムグが立っていた。右腕の大剣を握り、彼へ突き刺す。
彼は右手、左手の順に触れその腕を右へいなす。同時に、両足で飛び上がる。アウモスの腕の勢いを利用して、空中で姿勢を回す。両足をアウモスの顔に向ける。両手でアウモスの腕を掴んだまま、自身の腕を曲げる。
「『オーバーワーク』!」
腕を伸ばし、数瞬後に脚を伸ばす。これら流れるように行い、アウモスの顔に蹴りを食らわせた。彼自身はそのまま地面へ落ちるも、受け身を取り直ぐに立ち上がる。
一方アウモスは再びよろめく。頭部、脳へ損傷がおき、同時に痛覚が走る。
互いにもう一度距離を取る。アウモスは彼を睨む。
「っ…しかし、貴様一人では、小手先だけで」
「なに言ってんだ…一人じゃねぇよ…『アポート』!」
腰の刀を握ると、鞘を残してパッと消える。同時に、アウモスの背後にその刀が現れた。
その背後の煙に、一つの影が浮かぶ。その影は腕を伸ばし、空中の刀を掴む。
「〝一刀流〟……!」
ハセラが姿を現す。刀を掴んだ腕を振り落とし、左下に構える。アウモスに切っ先を向け、刀を突き刺す。
「〝
「っ!?」
弧を描く軌道は顔に向かうも、後ろに避けられる。
彼女はツムグの隣に立ち、鞘を受けとる。
「ありがとハセラ!その刀、借り物だからな!」
「あぁ…来てくれてありがとう!」
笑みを浮かべ、ハセラは再びアウモスに向かい駆け出す。『キュアー』を詠唱し両手で刀を握る。右に振りかぶり、切っ先は後へ、刃を外へ向ける。なぎ払うように左に振る。
アウモスも大剣を構え、刀を受ける。
刀は弾かれるも、『キュアー』の効果もあり破壊はされなかった。
『クロル!テイン!』
「「!」」
アウモスとハセラが剣を交える中、ツムグは指示を伝える。
(この剣士…あの爆撃で意識を失ってなかったか。腐敗しなかったのは『水面』が機能し続けていたのか…)
彼女は刀を鞘に納め、姿勢を前に傾ける。左手で鞘を押さえ、右手で刀を握る。脚に力を込め地面を蹴る
抜刀。刃が水平にアウモスの鎧の上を走る。傷はつかないが、僅かにアウモスを押した。
アウモスが大剣を振り上げ、彼女に刃を叩きつける。彼女は刀を構え受け腕に圧力と痛みが響くが、そのまま抑え続ける。すかさずアウモスは大剣を引き、今度は左から横に振り払う。
彼女は再び刀で受けた。少し耐えられたものの、吹き飛ばされる。しかし同時に、大きな声で叫んだ。
「行けっ!メンヘラ!!」
煙の中から、仄かに光を纏う矢がアウモスへ向かう。上、右、左、前、後、斜め…戸惑いながらも矢を払う。大剣の矢を払った箇所が、ジュゥっと音を立てながら、粒子のようなものを放っている。
周囲を見渡すと強く気配を感じる箇所がある。そこにいたのは、清く、美しく輝く聖なる装甲を纏うクロル。強く羽ばたく白い翼は、天使の翼。
『〝キューピット・モード〟!』
テインを纏うクロルが上空より狙う。
「アイツ
クロルは希望を宿した瞳と、朗らかな笑顔を浮かべながら矢を放ち続ける。
「浄化にめっちゃ弱いんじゃないの!」
アウモスはその場を離れようと脚に力を加える。しかし、見えぬ者がアウモスの行動を阻む。抑えられた場所の辺りを払う。
「流石はダッシュの魔導具!魔王軍さえ欺く!」
「剣士…!透明化は援護職の術ではなかったのか…!」
透明マントが剥がれ、ハセラが現れる。しかし、動きが鈍ったその瞬間を狙撃手は逃さない。
「『
矢は激しく燃えながら進み、アウモスの肩へと刺さる。
さらにハセラが刀を構え、下から叩くように顎へ一撃与える。
怯んだ隙に
刀を構え直し、ハセラも畳み掛ける。
(先程とは比にならない連携…剣士の相手と同時に、あらゆる方向から飛んでくる矢を…)
「ならば…『
大剣を高く掲げる。ハセラは先程それを見ていたため、後ろに跳び距離を取る。
「『
だがダッシュは、一度目にしたその攻撃の対策をすでに練っていた。
ガシャン…
崩れる大剣。奪われたのは大剣の部品だった。
『ナイス
クロルが飛び、アウモスの前方から迫っていく。
アウモスは剣を失ったものの、拳を構え立ち向かう。正面からぶつかると思われたが、軌道は逸れて右に曲がられた。
「テイン!!!」
『はい!!』
クロルからテインが分離し人型に戻る。クロルは飛行の慣性で、そのまま高く上昇していく。
ハセラが少し離れたところからスペルを呼ぶ。テインと反対側の地面から大きな
「『
「『フラワー・ジェット・スクリュー』!!」
天使であるテインが放つ、高出力の『
通常の聖属性と同等の性能と、物理威力も持つ『フラワー・ジェット・スクリュー』。
双方から同時に食らい、苦しむ声を漏らすアウモス。
一方、クロルは落下しながらアウモス見る。
ハセラは鞘に納めた刀を握りながら、地面を駆けアウモスのもとに向かう。
テインとスペルは後ろへ距離を取る。
「っし…!」
「『大攻水』!!」
クロルとハセラは共に武器を構える。
(先程メンヘラが作った傷…たとえ小さくとも、僕の破壊力があれば…!)
(あの脳筋のダメージは面積の多い身体メイン…でもアタシの狙撃力なら…!)
「『
「〝一刀流・居合〟!!」
武器を握る力を一層強める。
(急所を狙える!!)
(全体にダメージが伝播する!!)
「『ショット』!!」
「〝
上空から高火力の燃える矢を放つクロル。刀を抜きながら、飛び上がるハセラ。
クロルの矢はアウモスのうなじに突き刺さる。ハセラの刀は、スペルの魔法術が当たったところにある、矢の傷の箇所から斬り裂く。
矢は気管に、刃は肺に到達している。その攻撃は弱体化状態のアウモスに対し、かなりのダメージだ。
「ここまで飛ぶとかマジ?」
「全力を入れてしまった…刀が完全に砕けたのは久々だよ…!」
呆れたようなクロルと、刃も柄も粉砕された刀を握るハセラ。
刃の破片は現在、偶然ながらアウモスの体内に入りダメージを与えている。それに加え、『大攻水』により水分と血液を媒体に衝撃が全体に伝播しているため、内側から爆ぜるような痛みが駆け抜ける。
「えっ、お前、それツムグ借り物って…」
「あっ」
落下しながら呑気に会話する二人。ダッシュが駆け寄り、魔法陣を構える。
「『
魔法陣から現れた大きなクッションが柔らかな音を立て、二人を受け止める。
「わっ…ナイスダッシュ!」
「ありがとう」
「う、うん!」
一方、アウモスは疲労と損傷、そして気管の
「ぐふっ……ぐっ…ぜぇ…はぁ………!」
追い打ちのごとくスペルが攻める。
「息災植物〝ランマングローブ〟…〝縛れ〟~!」
病気や腐敗なども含むあらゆるに害にも耐えうる剛健な樹木で拘束をされ、身動きが封じられる。
テインは姿を人状態から球体へ変える。さらにそのままツムグに向かって飛び姿を変える。ツムグは
「っ!またあの攻撃が来る…!」
(だが…私には不死の呪いがかけられている…!例えここで肉体が朽ちようと、私の魂までは浄化はできない…!)
「あの日の悲しみがこの呪いを強くした…この呪いが…!私を強くした!」
アウモスは、まるで自身を鼓舞するかのように、同時に怒りを吐露するかのようにそう叫ぶ。
「この呪いが…っ…あの…日…?」
怒りと憎悪が増すと同時に、自身が放ったの言葉を理解できないことによる戸惑いの念が彼の中で渦巻く。
ダッシュはその言葉を聞き、勝利への一手を進める。掌を伸ばし、多くの魔力を込めて詠唱する。
「『
「っ…これは…!?呪いが!?」
自身に起きた変化を、直感的に理解する。
「『
奪われたそれは、ダッシュの手にあるカードに納められる。
「馬鹿な……これは誰も、私の故郷のっ…聖者でさえっ…仲間でさえ、見限った………?仲間っ…?」
彼の記憶が徐々に甦る。
「自分が生まれるずっと前からあった不治の病のような呪い……でもとある冒険者パーティー達が、残して行った研究データがあった……それを使って、自分が治し方を作った……!」
「…!」
その時。アウモスが驚きと同時に覚えた感情は、怒りや焦燥ではなく―
「これでっ…な、治らないっ!!ツムグっ…!!」
「ツムグ〜…お願い〜…!」
「ツムグ!!」
「ツムグ!!!」
『いきましょう…ツムグ!!』
皆がツムグを呼ぶ。
それは期待と、信頼と…その他諸々が込められた叫びだ。
「
それに応えるように、ツムグは叫び空へ飛ぶ。
「『ホーリーフィルターズ』!!」
掌をアウモスへと向ける。二人の間に複数の魔法陣が重なって展開される。
さらに、高くまで飛ぶ。そして一層加速する。姿勢を変え、魔法陣を通る。脚をアウモスに向くように落ちていく。翼を広げ、一直線に進む。
「『オーバーワーク』!!!」
アウモスは吹き飛ばされることなく耐える。だが、ツムグもさらに力を込めていく。
「はぁぁああっ!!!」
天使の羽がバサッと広がり、彼の背中を押す。
「
蹴りはさらに重く、強くなり、その貫かれていく意思のごとくアウモスへと向かう。そして遂に――
「うぅっ…!がはぁぁあっ!!!」
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