デートと家政婦


「...明日、何着てこう...」


私、白井 透は人生で初めての異性とのデートに緊張していた。


「いや、デートじゃないっ!お詫びよね!お詫び!」


誰に聞かれているわけでもないのに、言い訳じみたことを言ってしまう。


「動揺しすぎでしょ...私...」


鏡の前に立ち、赤面している自分に気が付く。


「ラっ!ラク様と出かけるからっ!だからこんなに緊張してるのね!しょうがないわね!」


鏡の前で、自分に服を合わせる。


「海斗...どう思う...かな...」


不安になる。


「ちゅ...ちゅーとかされちゃうのかな...」


すでに緊張している。


「明日は早め行って、心の準備しとかなきゃ...」


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「早く着きすぎたか...?」


時計をチラ見すると、約束の時刻より30分ほど早い時間を指していた。


「まぁ、いいか」


不機嫌だった透の機嫌を取るためにリスナーと相談した結果、一緒に出掛けるという結論が出た。 まぁ、当の本人がその配信を見ていたわけだが...


「お、お待たせ。 待ったかしら?」


「いや、待ってないが...」


不覚にもドキッとしてしまった。


白のワンピースを中心に、色白の透と調和するような主張の少ない仕上がりで。


でも、なぜか惹きつけられてしまうような...


「な、なにか変だったかしら...?」


不安そうな目で見上げてくる。


「い、いや、すっげえ似合ってて、見惚れてた。」


「そ、そう。」


あれ?デートってどんなことすればいいんだ?リスナーに内容を相談すんの忘れてた!


「ごっ、ごめん...俺内容決めてなかった...」


「っふふ...w」


透が笑い出す


「エスコートなんか期待してないわ 海斗って女の子と遊んだとかなさそうだし。」


「失礼だな...」


「まっ!とりあえず安定はゲーセンね!」


「乙女がそれでいいのかよ...」


「いいのよ!ラクのゲームセンスも見てみたかったしね!いこっ!」


楽しそうに笑う透の顔には、もう緊張などなかった


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「あーもう海斗強すぎ!もう一回!」


ゲーセンにある対戦型レースゲームで、透をボコしていた。


手加減しようと思ったのだが、透は先回りして手加減はしないように。と釘を刺してきた。


(とことんゲーマーだな、こいつも)


通算5回目の勝利を収めようと、スタート位置について集中する。


その時、隣から声がかかる。


「ねぇ、海斗。」


「ん?」


画面から目を離さず返事する。


「優しく...してね...?」


普段の透からはとても想像ができない甘い声。 


透の吐息が耳にかかる。


「えっ」


意識が数秒飛んでいた。 その間に透は勢いよくスタートダッシュを切っていた。


「おいっ!ずるいぞ!」


すでに大きな差をつけられている。


「勝てばいいのよ勝てば!」


汚い奴だ。 


「そっちがその気ならっ!」


俺は直線に差し掛かったタイミングで透の耳に顔をよせる。


「ちょっ!海斗!?」


「透...今日も可愛いな...」


普段なら絶対に出さない、吐息系ボイス。


配信の時、おふざけのつもりでこの声を出したら思いのほか好評で登録者が一気に増えた。 あれ以来、妙に恥ずかしくて配信ではやってないが...


「あわわわあああ...///」


やっぱり、ファンのこいつには効果バツグンだ!


足がアクセルペダルから離れ、減速する。


その隙に透を追い抜く。


「そ、それはずるいって~!!」


透がそれでついた差を追い抜けるはずもなく、勝負はあっけなくつく。


(やばい、そろそろ負けてあげるべきだったか?)


大差で勝ってから申し訳なさが出てくる。


どれぐらい悔しがっているか、恐る恐る確認する。


「次、別のゲームしよっかぁ~」


悔しくなさそう...というか、なんかご機嫌か?





「あっ!このぬいぐるみ、かわいい~ でもこっちも~」


対戦型ゲームの次はクレーンゲーム。 透は学校ではクールという印象だが、意外とかわいいものに目がないらしい。


「海斗!これ取って!」


「はいはい...」


透はクレーンゲームが苦手らしく、普段自分ではなかなか取れない景品を俺が取れることにご機嫌だ。 


(ま、楽しそうだし目標は達成してんのかな?)


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「ついつい取りすぎちゃったわね...」


「取ったのは俺だけどな...」


「まぁ、まぁ、それはいいの」


そういって透は手を差し出してくる。


「手を繋ぎたいのか?」


「そっ!そうじゃないわよ!荷物!私も持つから! 別に...海斗が繋ぎたいっていうなら繋いでもいいけれど...」


だんだん声が小さくなって最後の方が聞こえなかったな...


「いや、いいよ。 透の家まで運ぶ」


「それは申し訳ないわ。 少しでも運ぶわよ」


「別にいいんだけどなぁ~...じゃあこれ」


そういって俺は大きなクマのぬいぐるみを渡す。


「うん。いいんじゃないか?可愛いし」


「かっ!かわ...//」


クマのぬいぐるみを抱き寄せ、顔をうずめる。


「~~~///」


「そ、そういえば、壁ドンとキスはどうしたのかなぁ~?」


強気の姿勢で透が攻めてくる。


「しようか?」


そう聞き返す。


「いっ!いいっ!///」


ぬいぐるみで顔が見えなくなるほど抱きしめている。


「困るならきくなよw」


少し流れる、無言の時間。


配信者故、無言の時間は少し気になる。


「そういえば、腹減ったなぁ」


そんな当たり障りのない話題を出す。


「あ~...そうね...海斗、いつもどんなもの食べてんの?」


「そうだな...カップ麺とか?そっちは?」


「自炊...だけど...海斗、そんなんだと体壊すわよ?」


「まぁ~今んとこ大丈夫だし、自炊もめんどいしな」


透は少し考える仕草を見せた後、意を決したような表情で提案する。


「わ、私が作りに行ってあげようか?晩御飯」


そんな提案をしてくる。


「ん~透がいいなら魅力的な提案だが...」


「い、いいのっ!それに、ほら!ラク様が倒れるとリスナーも困るじゃない!?だから代表?みたいな感じで私が作る?みたいな??!」


「ははっ」


透があまりに焦るので思わず笑いがこぼれる。


「なによ...」


少し不満そうな目でこちらを見てくる。


「いや、透って優しい奴だなっておもってさ」


「ま、まぁね」



そんなことを話している間に透のマンションに着く。


「荷物だけおいて、海斗の家行くからそこで待っといて。」


透は俺の手から荷物を奪い、家の中に入る。


数十秒もしないうちに透が出てくる。


「おまたせ。行きましょう」


そういって歩き出す。



「そういえば私、あなたの家知らないわね」


俺は今までの下校を思い出す。


「そういや、お前いつも先にマンション入るもんなぁ」


「で、どこ?近いの?」


「向かいのマンションだ」


「...」


透がフリーズしている。


「どうした?」


「いや...あこがれのラク様がそんなに近くにいたことに驚きで...」


「そういうもんか...あ、あと俺の部屋汚いぞ」


「まぁそうでしょうね、配信でも言ってたことあったし。 まぁ掃除してあげる」


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「思ったよりね...」


「面目ない...」


俺の部屋は自分の配信用スペースは綺麗だが、それ以外は服が散乱していて、普段使うことのないキッチンは全く関係のないものであふれかえっていた。


「はぁ...まぁいいわ。 あなたは部屋でゆっくりしてて」


「え?俺も手伝うよ」


「あのねぇ、こんな散らかす人間が掃除にいたら足手まといよ」


その言葉を聞いて妙に納得してしまった。 確かに、足を引っ張る自信しかない。


「お言葉に甘えて...」


そういって俺はそそくさと部屋に行く。


見慣れた部屋のベッドにダイブする。


普段と違うのはだだっ広いマンションの一室に俺以外の人がいて、その人が掃除をしているということだ。


(なんか...誰かいるって...安心...する...な...)


そう思いながら俺は眠りに落ちる。




「...斗!海斗!」


そんな声がして目を覚ます。


「もうご飯できたわよ。 ほんっとに自炊しないのね...食材があまりなかったから簡単なものしか作れなかったわ」


「あ、あぁ。ありがとう」


眠い目を擦り、俺は立ち上がってリビングへ向かう。


「なんだこれ...」


そこには綺麗な部屋が広がっていた。


(こんなに綺麗で広い部屋を見るのは引っ越した直後以来だな...)


そんなことを思いながら俺は食事をしようと席に着く。


「「いただきます」」


透と向かい合わせに座り、食べ始める。


「...どう?」


不安そうな顔をしてこちらを見てくる。


「...うまい」


こんなに温かみのある食事はいつぶりだろう。


すくなくとも、高校が始まってからは食べてないな...


「そっか...よかった」


安心したように透も腕を動かし始める。


付け合わせの味噌汁にも手を伸ばす。


「うまい...」


思わず声が漏れるほどのおいしさだった。


俺は思わず、一つの提案をしていた。


「透、俺に毎日味噌汁を作ってくれ!!」


「...へっ!!?///」


透の顔は、赤面していた
























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