第四音【Ο+ Coda】
Sempre
第四音【Ο+ Coda】
第四音【○+Coda】
「誘拐事件だ!たぬき!お前らも行くんだよ!!」
「えー、なんで?俺達忙しいのに」
「うるせえ!!さっさと来い!!」
隣の部署の人にそう言われ、文句を言いながらも誘拐事件の雑用に来た3人。
言わずもがな、碧羽と紫崎、そして柑野の3人なわけだが、いきなり狩り出されたことに面倒臭がっていた。
雑用として呼ぶくらいなら、庶務や事務の人を呼べば良いのでは、と思う前に、自分達でそれくらいやれ、と思うようなことをさせられると分かっていたから。
警察はすぐに動き出し、犯人からも電話があった。
すれ違いざま、男たちとぶつかる。
「あぶね。廊下は走っちゃいけねぇよ」
「うるせえ!こっちは子供がいなくなったっていう電話が何本もあって大変なんだよ!」
「あ?」
その男たちは、誘拐事件の捜査本部とは別の方向へと走って行った。
「なんだあいつら?誘拐事件の部屋って、あっちだよな?」
柑野が別の方向を指さしながら、隣で歩いている碧羽と紫崎に尋ねれば、放っておけと言われてしまった。
捜査本部に到着してしばらく、3人は思っていた通りの雑用をさせられており、2度目の犯人からの電話があったときも、特に捜査に参加するということもなかった。
どうやら犯人は車と金を要求しているようで、それを準備する時間などを聞いてきたらしい。
そこで、こんなこともあった。
誘拐されているのは一体誰なのか。
どこの親からも警察の方には連絡が来ておらず、また、女の子が誘拐されたと場所付近を捜索し、近所に聞きこみもしているそうだが、一向に見つからないと言う。
パート帰りの女性によって通報された誘拐事件だが、被害者が分からない。
捜査員たちがあたふたしている間も、3人はのんびりと腕時計の話をしたりと、至ってマイペースだった。
翌日の10時半ごろ、誘拐犯から再び電話が入る。
緊張が張り詰める空気の中、1人の捜査員が電話に出ると、落ち着いた感じの誘拐犯から車と金は用意出来たか、という確認のものだった。
この電話によって逆探知が成功し、犯人は移動しながら電話をしていることが分かった。
捜査員たちは、車と金が用意できたことを報せると、犯人はそれを受け取る場所と時間を指定してきた。
この犯人からの電話が来た時、紫崎は捜査本部に自分のパソコン一式を持ちこんでおり、それでとある調べ物をしていた。
柑野が腹が減ったというから、仕方なくお昼を食べに行き、戻ってくる頃にはすでに金と車を渡しに行くところだった。
犯人と思われる男が確保されると、3人は納得いっていない様子で自分達の部署へと戻ろうとしたのだが、その時芥子乃たちに絡まれてしまい時間ロス。
男は麻薬の売人で、車に金が置いてあるから、それを持って代わりに麻薬を置いて行け、という内容の電話があったらしいが、男の所持品からも部屋からも、電話は見つからなかった。
誰から電話が来たのか聞いてみても、名前なんていちいち聞かない、とのことだった。
ちなみに、車が爆発したそうだが、幸いにも怪我人はいなかったとか。
「恭久、巧、ちょっと頼まれてくれるか」
「なに」
「りゅうちゃんってば人遣い荒いよね」
紫崎に頼まれて、碧羽と柑野は動き出す。
そしてそれから2時間も経たないうちに戻ってくると、まずは柑野が話し出す。
「借りて来たよ、防犯カメラの録画。こんなに借りてきて、全部調べる心算?」
「んー、まあ」
「今朝、逆探知した場所の近くのアパートで、男が死んでるのが見つかったって。ドアが開いてたから管理人の人が部屋の中に入って、遺体を確認したらしい」
「そうか」
「それにしても巧」
「何?」
「なんだ、その子供は」
戻ってきた柑野の手には、小さな手が握られていた。
どうやら迷子になっているところを保護されたらしく、柑野が面倒を見てくれと頼まれてしまったようだ。
「よくね?なんか男だらけでむさ苦しいから、こういう可愛い子がいても問題ないだろ?」
「問題は無いけど、何処で寝かすんだ?巧が連れ帰るならいいぞ」
「・・・・・・今日はみんなでここで寝ようか!!」
そんなこんなで、3人はそれほど広くは無い自分たちの部署にあるソファに寝そべることになった。
翌日の10時ごろ、電話が鳴り出てみると、交番からのもので、孤児院から1人子供がいなくなってしまったというものだった。
容姿や服装などを聞いて、柑野が連れて来た子ではないかと思うと、そのことを伝えた。
すぐに迎えに来るということだったので待っていると、黄土色の短い髪の毛をした女性が現れた。
ショールのようなものを肩からかけているため分からないが、首の部分と右目の部分は包帯を巻いているようだ。
少しだけ怪しいとも思ったが、子供がとても懐いているし、虐待などをされている雰囲気も無かったため、必要書類に署名をしてもらい、そのまま帰ってもらった。
しかし、なんだか気になった。
「恭久、巧」
「わかってるよ。行こう、ゆっきー」
「その呼び方いい加減止めてほしい・・・」
女性の後を付いて行くと、ぽつん、と佇んでいる孤児院があり、そこに入ると他の子供たちが女性を歓迎した。
「おい、あれ・・・」
そのとき、碧羽は気付いた。
子供達の首には、犬がつけるような首輪がつけられていたのだ。
ちりんちりん、と鈴もついており、まるで何処にいてもわかるようにしているようだ。
女性は子供たちを引き連れて孤児院の中に入って行くと、昼食の準備でもしているのだろうか、良い匂いが漂ってきた。
その後外遊びなどをしている子供たちを他所に、女性は子供が抜けだしたであろう穴を1人で埋めていた。
「ゆっきー、腹減らねえ?」
「知らん」
「ゆっきー、自分が空腹かどうかもわからないってこと?大丈夫?」
「黙れ」
「ひっど」
14時半ごろ、あの男がやってきた。
「来たぞ」
「あーあ。りゅうちゃんのお察しの通りってことね」
孤児院に現れたのは芥子乃たちで、数回ノックをすると女性が出て来た。
そこで何やら話をしているようだが、何を話しているのかは分からない。
親しげに話しているのかと思えば、いきなり女性が芥子乃に掴みかかろうとし、それを芥子乃が避けると、部下が女性を拘束した。
男たちは次々に孤児院の中に入って行くと、そこから子供達を連れてどこかへと移動していく。
子供が残っていないことを確認すると、女性を車に押し込み、芥子乃も別の車に乗り込んで何処かへと向かう。
柑野は碧羽の方を見ると、まずは自分を指さしてその指を子供達が連れて行かれた方向を向けてから、今度は碧羽を指さし、その指を女性が向かった方へと向けた。
そして、2人はダッシュして車を追いかけた、わけではなく、碧羽は何処からか持ってきたバイクに跨り、柑野は自転車で追いかけた。
「なんで俺は自転車!?」
女性の方を追いかけた碧羽は、女性が本部にある監獄に入れられることを知った。
芥子乃は本部に戻ってきたようで、碧羽は芥子乃にみられないようにバイクを停め、女性が連れて行かれるところまでを確認した。
一方の柑野は、子供達がとある研究所に連れて行かれるところを確認する。
中に入るには色々と必要らしく、扉が開くまでそれなりの時間がかかった。
「やべ。撮っておこう」
ようやく扉が開くと、少しだけ開いた状態のままだったため、柑野はその内部へと侵入を試みる。
「なんだこれ」
そこは研究というにはあまりにも不気味な場所で、そこには異様な形のものがいた。
それが何なのかは分からないが、とにかく柑野はありとあらゆるものを撮り続け、子供達が何処に行くのかを見届けようとした。
しかしその時物音を立ててしまった。
「やべっ!」
するとすぐに反応した出又が銃を構えたため、柑野は瞬時に出口に向かって走る。
躊躇なく撃ってくる出又だったが、扉が開いていることに気付いて閉めるよう伝えるも、柑野は危機一髪逃げおおせることが出来た。
なんとか出ることが出来て安心していた柑野だが、久しぶりに生死をさまよったせいか、多少心臓がバクバクしていた。
「すぐ戻らねえと」
紫崎たちと合流すると、研究所で見たものを全て教える。
柑野が首から下げているネックレスのようなものは、なぜかフラスコの形をしている。
これも紫崎が作ったものなのだが、写真を撮ることも録画することも可能となっており、フラスコの形に関しては、柑野が理系男子だから、と頼みこんだとか。
紫崎は柑野が撮ってきたそれを受け取ると、まるでUSBメモリーのようにパソコンに繋いで、みんなが見られるようにした。
そこに映っているのは、人間とは思えない生物の姿と、無残な姿となっている子供たちの哀れな末路。
「ちょっとドジって、これしか撮ってこれなかった。でも完全に黒」
「だな。となると、俺達を始末しにくるだろうな」
「どうすんの?俺達の住んでるとこ、一般の人も住んでるし。ここだって爆破なんかされたら大変だろ?」
「・・・よし。今から急ピッチで作るか」
「何を・・・?」
「碧羽、歯科医が載ってる地図ある?」
3人が家に帰ってその夜23時半ごろだろうか、放火によってとあるビルが全焼するという事件が起こった。
「あぶねえ。だがまあ、これで裏から動けるな」
「それにしても、よく用意出来たな。歯型にしても、俺たち以外の住人分のホテルの部屋って・・・」
「自分達を守るために、一般人を犠牲にするわけにはいかないだろ?かといって、遺体がまったく出なかった、もおかしいしな」
「あとは、あの女か」
「そうだね。明日決行だ」
翌日、3人は取り調べ室が行われると思われる近くのトイレの外に待機していた。
鉄格子も壊し、周りに気付かれないような壁に似た壁も作って自分たちを擬態のように保護する。
そして女性がトイレに来て個室に入ると、壁側の個室から女性を連れ出した。
女性は驚いた様子だったが、女性がいなくなったとなればすぐに芥子乃たちが動き出すことも分かっていたため、すぐにその場から離れて廃墟へと向かう。
女性の名はなずきと言うらしく、研究所のことも色々と話してもらった。
胸には逆さまの十字架がかけてある。
そして子供達を助けに行こうと向かっている途中、女性はこんなことも言っていた。
「あの人たちに連れて来られたはずなのに、子供達、時々変なことを言うんです」
「変なこと?」
「それが・・・笛の音が聞こえて来たとか、蛇がいたとか・・・」
「?」
その女性の言っていることが一体どういうことを意味しているのかは分からなかったが、目的となる研究所に辿りついた。
「さて、開けるか」
その柑野の言葉に、なずきは驚く。
「え?でもこの扉って確か、限られた人しか開けられないって・・・」
「平気平気。俺達すごいんだから。ね、ゆっきー」
「五月蠅い」
その自信はどこからくるのかと思っていると、すでに碧羽が腰に巻いていたベルトを外して紫崎に渡しており、紫崎がそこに設置されている機械類から判断し、何かを採取していた。
「ゆっきーのベルトは指紋が取れる仕組みになってるんだって。よくわかんねえけど。ゆっきーのタートルネックの内側には声紋を感知する機械が組み込まれててそれを・・・なんかするんだってさ」
途中で説明を投げだした柑野だが、その間にも、紫崎は黙々と何か作業をし、その作業し終わったものを碧羽が受け取って機械にかざしていた。
すると、扉がゆっくり開きだす。
「すごい・・・」
扉が開くと中に入り、すぐに扉を閉めるようにセットした。
また時間がかかりながらも扉が閉まっていくのを確認すると、奥へと進んで行き、そこにある光景に思わず絶句する。
人間とはかけ離れた、という言葉では足りないくらいの姿形をした生物が拘束されているだけではなく、無残な姿で床に転がっている子供達がいた。
少し見廻っていると、なずきが何かに気付いてかけ出した。
カプセルのような透明の囲いの中に、人間のものと思われる首が浮いていた。
浮いていたというのは、正確に言うと、カプセルの中には何かの液体、きっとホルマリンの類のものだと思われるが、それが入っており、そこに漂っているといった感じだ。
縦長になっていて、首は上下に多少動く程度で、なずきが奪う様にカプセルを手にしても、さほど首は動かなかった。
「お姉ちゃん・・・」
首は目を瞑っている状態のため、決して目が合う事は無いのだが、なずきはカプセルを思い切り振りあげると床に投げつける。
それなりに大きな音を立ててカプセルが割れると、中から首を取り出してぎゅっと胸に抱きしめる。
その音が聞こえたらしく、研究所の職員と思われる男女がぞろぞろと現れた。
「し、侵入者だ・・・!!」
「おっと」
ここで暴れるのも面倒臭いと、柑野の腰についているなんかこう・・・ジャラジャラしているチェーンのようなものについている、紫崎が作った煙玉を投げつける。
その煙に職員達が咳込んでいるうちに、碧羽と紫崎が職員達の後ろの方に回り込み、銃を構える。
「くそっ!!!」
1人の職員が何を思ったのか、通常研究にはいらないだろう銃を持っていたようで、目の前にいる柑野の足の方を狙って撃った。
あまり慣れていないためか、銃弾は足ではなくその上の方の、柑野が腰に巻いている布にあたるが、銃弾を弾いた。
職員が撃ってすぐに碧羽がその職員の腕を捻って足で落ちた銃を蹴飛ばしたことで、もう抵抗など出来なくなってしまったのだが、撃った本人だけでなく周りの職員たちも驚いたように柑野を見ている。
「ふはははははは!!!俺のりゅうちゃんお手製のかっこいい腰巻だぞ!!!そんじょそこらの銃弾なんか弾き飛ばしてやるぜ!ちなみに、結構重たいんだぜ!」
「その言い方止めてくれる。気持ち悪いから。さて、とりあえず・・・」
それから時間が経ち、再び扉が開く音がする。
重たい扉の向こうから顔を覗かせたのは、口角をいやに上げて笑みを浮かべている男、芥子乃だ。
他にも典人、出又、宗良、水墨などもいる。
職員達が芥子乃たちを迎えるが、その表情はぎこちなく、おどおどしている。
不審に思った芥子乃たちだったが、それを確認する前に、その原因となる男たちが姿を見せたことですぐさま理解する。
「なんで中にいるんだよ・・・!?ここに入るには、俺達の指紋や声紋が必要なんだぞ!?研究所の奴らだってそう簡単には出入り出来ねえはずだぞ!!」
技術者を集めて、頑丈な扉を作るだけでなく、中に入れる人物を最小限に留められるようにしていた。
研究者たちは個人個人では出入りが赦されず、必ず2人1組での行動を指示されており、出入りする際にはその2人分のデータが必要となる。
「芥子乃、落ち着け」
慌て出す芥子乃の後ろで、典人が冷静に答えると、それに乗っかって、宗良も芥子乃の肩に腕を回しながら言う。
「そうそう伯馬。俺達の方が有利ってことには変わりないわけじゃん?」
不穏な空気を察知していた出又と水墨は銃を構え、いつでも発砲する準備が出来ている。
いつまでも銃を構えない典人たちを見て、水墨が一言言うと、いやいやながらも典人と、そして遅れて宗良も銃を構える。
いつもの小馬鹿にしてくる笑顔はどこへやら、芥子乃は頬を引き攣らせながらも、今出来る精一杯の笑顔を見せて口を開く。
「お前等、もう一回抹殺してやるよ」
それを聞いた紫崎は、こう応える。
「それは愉しみだ。そのまま返してやるよ」
職員達は地下へと連れて行かれ、その場には特定のメンバーだけが残る。
すると、宗良が聞いてきた。
「そもそもなんで生きてんだ?」
この問いかけに対して、誰が答えるかの確認なのか、3人は互いの顔を見て何やら合図をするが、最終的には宗良と似た性格であろう柑野が説明することになった。
「えーっと・・・」
「おい、なんでそんなに面倒臭そうな顔するんだよ」
「だってお前面倒臭そうなんだもん」
「はあ!?」
手に握っている銃が怒りなのか悔しさなのかプルプルし始めたため、宗良の近くにいた水墨が落ち着くように言う。
そんなことお構いなしに、柑野は話す。
「住人全員回って、ホテルに泊まってもらったんだよ。もちろん経費じゃ落ちねえから俺達の自腹でな。で、そん時に歯型も取らせてもらって、歯茎に似た成分のなんかよくわかんねえやつでりゅうちゃんが作ってくれたってわけ。それを部屋に置いておいただけ」
「燃やされるかどうかなんてわからねえだろ」
「分かるよ。事故に見せかけて殺したいんだから、自然災害系だろ?地震は無理だろうし、落雷とか津波も同様、となると、簡単なのは放火だよな」
「・・・・・・」
腐っても警察関係者である彼らが部屋で死亡していたとなれば、事件の可能性を調べられてしまう。
だが、丸ごと家事となれば別だ。
得意気に柑野が微笑みながら話したあと、今度は紫崎が話す。
「お前たちは誘拐事件が起こったとき、最初は特に気にしていなかったんだろうが、誘拐されたと思われる子供が、自分達が行っている研究の対象者かもしれないと思った」
ちら、と水墨を見たかと思うと、また続ける。
「お前たちは、捜査本部よりも先に犯人の居場所を突き止めていた。でも言わなかった」
互いに銃を構えながら、芥子乃たちは肯定も否定もすることなく話を聞いていた。
少しの沈黙のあと、今度は碧羽が話す。
「その日のうちに居場所を突き止めたお前達は、その男のもとへ行って、男が殺されているのを発見した。当然、殺したのは誘拐されたと言われていた子供だ。きっとあの化物から産まれた子供だろうな」
人外の生物と人間の間に産まれてしまった子供は、好奇心からなのか、きっと誰かが研究所から出たタイミングで勝手に外へ出てしまったのだ。
そして誘拐されてしまったわけだが、そもそも人間の血は半分のその子供は、興奮なのかこれも好奇心なのか、それとも恐怖なのかは分からないが、男を殺した。
男が殺されているのを確認したうえで、子供だけを連れてそこから消えた。
口元にあるホクロが特徴的な柑野が、銃と共に顔も傾けながら言う。
「翌日、お前達の誰かが、男の携帯から電話をかけた。そんでもって、あの麻薬の売人にも電話をかけた。車のナンバーまでご丁寧に教えたんだから、内部犯に決まってるよな?」
あわよくば、犯罪者であるその男を、車ごと消してしまえばいいだろうと思っていたのかもしれないが、誘拐事件においてまさかいきなり確保するとは思っていなかったのだろう、爆死することはなかった。
わざわざ取り押さえの現場に行ったのも、男の携帯を盗んで、そこに入っているかもしれないデータを初期設定に戻そうと思っていたからだ。
こちらはカメラに携帯をスっているシーンが映り込んでいた。
今回のことで、子供がこの世に存在していないことがバレてしまうことは都合が悪かったため、なずきの口を塞ぐという意味もあり、子供たちを移動させた。
あわよくばなずきを殺そうと思っていた。
利用価値があるかどうかは、その後のなずきの態度にかかっていたのだろう。
「研究所のことが俺にばれて、俺達を殺そうとした。そしてそれが成功したと思っていた矢先、なずきに逃げられてしまった。ここの場所を知っているなずきなら、ここに来る可能性が高いと考えたんだろうな」
そして、なずきを捕まえるためにここに来たのは良かったが、今の状況というわけだ。
「おかしいよ、お前等」
その言葉に反応した芥子乃が、突然、なずきを撃った。
「おかしいのは俺だけじゃ無い!!!」
反応した柑野がなずきの頭に手を置いて身体を低くさせた。
すると、なずきの髪の毛が抜けた・・・?いや、ウィッグのようなものをつけていたらしく、それが取れてしまったのだ。
黄土色だと思っていた髪は実際には焦げ茶色で、男のようだ。
「お前、男だったのか」
「・・・騙してた心算は無い」
「まあ、どっちでもいいんだけどよ」
なずきは取れてしまったウィッグなど気にせず、撃たれても尚ずっと抱きしめていたその首を見つめる。
良く見ると、なずきが持っている首は、先程までなずきが被っていたウィッグと同じ髪色で髪型だ。
「人形のくせに生意気なんだよお前ら」
ゆらゆらと、魂でも抜けてしまったかのような歩き方をしている芥子乃は、銃に込められている弾を全て柑野となずきに向かって撃ち続けた。
全て撃ち切ってしまうと、銃弾の替えを持っている水墨の方に手を出せば、無言で替えを渡してくる。
それからは、激しい撃ち合いとなった。
バラバラでいると危険だと判断し、碧羽と紫崎は柑野がいる場所まで移動すると、互いに顔を見合わせて頷く。
柑野が煙玉や涙玉を投げつけて、碧羽は研究所内の電気を出来る限り暗くしようと電光を撃って壊して行く。
典人たちはバラけながら3人に近づいて行き、周りを取り囲もうとした。
紫崎は首にかけてあるゴーグルをかけると、物影に見える熱源体に向かって銃を放つ。
碧羽が援護している間、柑野は銃を持って身を屈めながら、紫崎と碧羽の指の指示に従って移動していく。
相手がすぐ近くまで来た事を感じ取ると、いっきに詰めよってまずは蹴りで銃を払い、足を狙って撃つ。
柑野が蹴り飛ばした銃をキャッチした碧羽は、その中に残っている銃弾を自分の銃に入れ替える。
「くそっ!!!なんとかしろ!!なんで俺達が窓際野郎共に負けなきゃいけねえんだよ!!」
芥子乃の叫び声が聞こえるが、煙が晴れてきたころ、すでに出又、宗良、水墨は怪我をして動けない状態だった。
典人は未だ銃を構えてはいるが、利き腕の方の肩から血を流しているため、利き手ではない腕で銃を握っていた。
ゴーグルを外した紫崎が立ち上がろうとすると、それを狙って芥子乃が銃を撃つが、碧羽によって銃を弾き飛ばされてしまう。
「終わりにしましょうか」
「・・・!!」
すると、ゴゴゴゴ、と大きく床がぐらっと動いた。
「なんだ?」
「馬鹿め。終わるのはお前らだよ。ここで潰されて死ぬんだよ!!!」
狂ったように笑いだした芥子乃に対し、3人は互いの顔を見て、とりあえず芥子乃を気絶させることにした。
「ここを崩壊させるつもりか?」
「だろうな。バレたときのために設置してたんだろう」
「どうすんの?俺もうちょっとだけ生きたいんだけど」
そこまで話したところで、典人たちが芥子乃を連れて逃げ出そうとしていることに気付き、柑野が宗良の腕を撃った。
その場に倒れ込んだ宗良に銃を向けると、その前に典人が立ちはだかる。
柑野と典人が銃を構え合う形となっていたのだが、柑野の肩をぐいっと掴んだ碧羽が代わりに典人に銃を向ける。
碧羽を横目で見たあと、柑野は銃をしまいながら紫崎となずきのところへ行く。
なずきは未だに首を抱きしめている。
そんななずきに対して、柑野は両膝を曲げて視線を合わせるようにして尋ねる。
「・・・どうすんだ?お前」
数秒黙っていた後、なずきは答える。
「姉と一緒なら、何処にでも逝く」
「・・・・・・」
顔をあげて紫崎の方を見ると、柑野の視線に気付いた紫崎は、小さく首を動かした。
柑野はよっこらせ、と言いながら立ち上がったとき、パン、と乾いた音が聞こえてきて、そちらに顔を向ける。
「典人!!!」
碧羽に良く似た青い髪の男が、背中から倒れて行く。
碧羽の顔には多少の血がかかってしまっているが、碧羽は気にした様子もなく、銃を腰に収めた。
ぐら、と再び大きく床が揺れると、なずきの腕から首がごろごろと床を転がって行ってしまい、落ちてきた瓦礫に潰されてしまった。
瓦礫をどかせようとしたのだが、その時、出又が床に落ちた典人の銃を拾い上げて、なずきの脳天を撃ち抜いた。
そのまま崩れ倒れてしまったなずきだが、まだ意識があるようで、腕を伸ばして首を求めていた。
「てめっ・・・!!」
柑野が出又に銃を向けようとしたとき、背後に何かを感じて紫崎と同時に左右に避けた。
人外生物の拘束が解けてしまったらしく、まだ残っている子供たちを襲いだし、こちらにまで来ていたのだ。
「こりゃやべぇぞ」
「わかってる」
紫崎は、どこから持ってきたのか定かではないバズーカを人外に撃ち続けながら、一番体力のある柑野に、子供達を出来るだけ多く外に移動させるように言った。
柑野は両腕に子供を抱え、首と背中にも抱きつかせて一気に4、5人を外に運んで行き、紫崎と碧羽で人外の妨害をする。
それを5分も続けているうちに、ガラガラと本格的に崩れ始めてしまう。
両腕に子供を抱えながら、柑野は天井を見上げて叫ぶ。
「このままじゃもたないぞ!!」
「わかってる。早く運べ」
そのすぐ後だろうか、柱という柱が削れてしまったのか、研究所は一気に崩れてしまい、ぺちゃんこになった。
男が、電話をかける。
数回コールが鳴って相手が出ると、相手の言葉を待たずに言う。
「任務完了しました」
『ご苦労だったな。で、どうだった?』
「遺体が1つ見当たりませんでした。人外だった可能性があります。研究所にいた他の人外は全て始末しました」
『そうか。その見つからなかった遺体っていうのは、身元は分かっているのか』
「はい。出又奎、と思われます。他4名の遺体はすでに回収し、検体中です。なずきと名乗っていた人物に関しても、同様に回収・検体を行っています」
『わかった。くれぐれも、今の立ち位置を忘れないようにと、あいつらにも伝えておいてくれ』
「わかりました」
電話を切ると、男の頭にずし、と重く乗るものがあった。
「なんだ、巧」
「おはよー。なに?定時連絡でもしてたの?」
「まあ」
「あの人何だって?」
「立ち位置を忘れないようにだって」
「はっ。どうせ使いモノにならない窓際族だもんなー、ゆっきーおはよー」
「おはよ」
「俺達ってば、いつまでこんなことしてればいいんだろうねー」
「嫌なら辞めればいいだろ。別の強制的にさせられてるわけじゃないんだし」
「嫌じゃないけどさ。ボーナス良くないじゃん。査定に響くじゃん、窓際って。女の子たちとディナーにも行けないよ」
「わかったわかった。腕時計出して、直すから」
「はーい」
「恭久も」
「ん」
正式名称、機密抹殺事項兼人外あぶり出し担当部署、とは名づけられているものの、その正式名称を知っている者はほぼいない。
なぜなら、彼らは通称こう呼ばれているからだ。
通称“たぬき班”と。
「巧、なんでこんなに腕時計が汚れてるんだ」
「え?ああ、それ。ピッツァ食べてたら汚したんだよね。しょうがなくね?チーズとか伸びるし、トマトとか落ちるし、チョコとか溶けるし」
「ピザって言え。なんかムカつく」
「りゅうちゃんこわーい。ゆっきー、なんとか言ってよ」
「お前が悪い。全面的に悪い。全体的に悪い」
「え、え、何何?ゆっきーストレス溜まってる?りゅうちゃん、助けてよ」
紫崎に助けを求めた柑野だったが、紫崎がペンチをかちかちさせながら言った。
「何?舌抜いて欲しいって言ったの?」
「ゆっきー、りゅうちゃんてば物騒なこと言ってるよ」
今度は碧羽に助けを求めると、無視されてしまった。
10秒ほどは静かにしていた柑野だが、耐えきれずに紫崎にちょっかいを出し続けていると、紫崎はガスバーナーをぼーぼーとさせながら言った。
「何?舌焼いてほしいって言ったの?」
「ゴメンナサイ。ダマッテマス」
「全ては君たちの化かしにかかっているよ」
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