おまけ①【嬰記号】
Sempre
おまけ①【嬰記号】
おまけ①【嬰記号】
※
前いたところは酷いところだった。
どうしてかって、みんなおかしかったんだ。
どこかおかしいのか聞かれると難しいけど、とにかくおかしいなって思って、気持ち悪いと思ったんだ。
だからそれが嫌で嫌でしょうがなくて、僕はみんなを壊そうと思った。
あいつら、僕達のことを犬とか玩具だと思っていたんだ。
でも僕以外の奴は、それを受け入れていた。
身体を触って喜ぶ顔が気持ち悪かったし、首を締めて苦しんでいる姿を見て笑っているのも気持ち悪かったし、それから、それから。
あの子のことだけは守りたかったから、あの子を一番最初に守ってあげた。
ありがとうって言ってもらえることはなかったけど、他の奴らは嫌いだったから、全員殺してやったんだ。
あいつらは泣き叫んだし、大人もみっともないくらいに喚いていたけど、関係なかった。
五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い。
みんなこの世から消えろと思って、何を言われてもその手を止めなかった。
だから誰もいなくなって、僕は飛びだした。
※
ここに来てから、約束という言葉があまり好きじゃない。
でもまだ殺すほどじゃなかったから、何か言われたりいじめられたら、ボコボコにし返してやるくらいにした。
僕を傷つけて裏切ったりするからだ。
あの子のことだって救ってあげたのに。
でもあの子はそれ以上に僕を裏切ったんだ。
なんでこんなことになったのかは分からない。
僕だって、知りたいくらいだ。
最初の頃よりも随分僕と遊んでくれるようになったけど、まだまだ喧嘩をする。
気に入らないから、また殴った。
殺してないだけマシだと思うけど、いけないことなんだって注意された。
痛い、なんてちょっと血が出たくらいで泣くなよ、と思ったけど、そんなこと言ったら大人に叱られた。
もやもやしたけど、我慢した。
みんな楽しそうに笑っていたけど、僕だけはそこに馴染めずにいたから、余計にいじめられることになったんだと思う。
だって、みんな僕を怖がるようになったんだ。
でも耐えなきゃいけないなんて、辛い。
※
あの子と約束をした。
その子が泣いていたから、話を聞こうと思った。
いじめられているのかと聞いたけど、違うと言われた。
痛い思いをしたのかと聞いたけど、それも違うと言われた。
じゃあなんだと聞いたら、嫌なことをされていると教えてくれた。
僕は約束をすることにした。
絶対に僕が守ってあげるよって、約束したんだ。
そしたら、その子は嬉しそうに笑ってくれて、ありがとうって言ったんだ。
別に調子に乗っていたわけじゃないし、嘘を吐いたわけでもないし、本当に、本当のことしか言っていない。
でも、その子が別の奴と一緒に笑っている姿を見たんだ。
僕といる時よりもずっと楽しそうだった。
悔しいと思ったけど、何も出来なかった。
僕は大人しくして、ただただ嫌な時間が終わるのをじっと待つんだ。
どす黒い何かが胸の中にあったけど、今はまだ、このままでいようと思う。
みんな壊れればいいのに。
※
みんな優しくて、温かい。
でも、僕が人見知りだからか、みんなあまり一緒には遊んでくれない。
いや、声をかけてくれるのに、僕が何も答えられないだけだ。
恥ずかしいのとか、どうしようとか、時間が経つごとに増して行くのが自信ならいいのにって、何度思ったことだろう。
こんな性格だからか、影で僕のことをいじめてくる奴らも当然いる。
痛いとか恥ずかしいとか嫌だとか怖いとか、色んな感情が混ざっていたけど、大人に言う事も出来なかった。
なぜなら、大人はそいつらの味方だから。
1人で生きていくしかないんだって思っていた。
大人たちは子供の嘘も見抜けない。
狼のくせに、羊をしつけることも出来ない。
僕には関係ないから、今日も1人部屋で本を読む。
腹の中に、もやもやしたものが残る。
※
抜けだそうと思ったのは、いつからだろう。
わからないけど、ただ思っているのは、次の場所は良い人たちがいっぱいいるといいな、ということ。
これまでの人は、仲良くしてくれた人もいるし、そうでない人もいた。
みんな優しい人だといいな。
みんなと楽しく暮らせるかな。
色んなことを思うと期待でいっぱいだ。
僕はきっといい子でいるから。
何処に行ってもいい子でいるから。
誰と出会えるかとっても楽しみだけど、少し怖いとも思う。
だって、僕は人見知りだから。
いつも大人しいから悪口を言われたり、女みたいだなんていじめられたりしてきたけど、そういう悪い人はいないって信じたい。
これからきっと楽しい日々が待ってるんだ。
「・・・・・・」
目が覚めると、ベッドから上半身が落ちた状態だった。
「・・・なんか嫌な夢を見た気がする」
夢の内容は覚えていなかったけど、身体を起こして仕事に行く準備をする。
「ふぁああああああ・・・ねむ・・・」
生欠伸を繰り返しながら、顔を洗って歯を磨いて、その間に淹れたコーヒーと作り置きのカレーを食べて、充電していたスマホをいじって連絡が来ているかを確認する。
変な形のネックレスをつけて髪を縛ると、レザージャケットを羽織って腰に大きめの重たい布を巻く。
部屋の鍵をかけて外に出ると、同じ部署で働く男の背中が見えた。
名前を呼ぶとこちらを振り返り、挨拶を返すこともなく歩きだしてしまった。
追いかけて、肩に腕を回す。
これが日常のはずだ。
これが夢だとしたら、あまりにも酷だ。
これが日常であってほしいと願うだけなら、誰にも咎められはしないはずだと。
「物語の逆再生など容易い化かしだ」
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