第23話 槍の夜⑪
「私の正体を語らないという約束。忘れずにお願いいたします」
「もちろんだとも。
「
爺やが成立の掛け声を合わせると、お互いの右手の甲に大きな目玉が現れ契約者をじっと見つめてくる。これがゲームの成立を意味し、終わるまで決して消えない参加のマークとなる。しばらくすると目は閉じ、腕に巻き付くように光っていた光帯はいつの間にか霧散していた。
☆
「ルーダー」
その掛け声はあまりに突然だった。
「日に二度、同じセリフを聞くことになろうとは」
「おせーよバカタレ。もしかして、オレの実力を測ってたとかじゃねェよな? 爺や」
宝物庫の前で魔力切れになり、倒れて動けなくなった少女ギント。それと会話をするのは先ほど大国主と大きな契約をまとめたばかりの爺やだ。
爺やが《遊走》に乗って目の前に現れると、ギントはそれを予期していたかのようにノータイムでルーダーを宣言した。爺やはその宣言に目を丸くし、暗殺者らもシャボン玉を割って現れた新たな刺客に目を丸くした。
「召喚魔法か?」
「護衛を呼んだだけかもしれない。油断はするな」
暗殺者たちは警戒を強める。
ギントに背を向け暗殺者と向かい合う爺やが続ける。
「助けを乞い、万一に断られた時のルーダーですか。とことんまでヒトを信用出来ない性格のようで」
「生憎とオレは、オークニ様以外信じないつもりでね……。理解してくれて助かるよ」
爺やの手にはレイピアのような細長い剣が握られていた。剣身がギントの前で怪しく光る。
「悪いが特別ルールで行かしてもらう。今回ゲームはナシだ!」
「はぁ……」
またしても特殊ルールかと嘆く爺やの声は届かない。
「ンか言ったか?」
「条件の交換のみを行うと云うわけですね」
「そうだ。互いの目的を知ってるなら擦り合わせる必要もない」
ギントは額に汗を浮かべながら、鉄より重い身体を持ち上げ宝物庫の扉にもたれかかる。
「それで、条件とは?」
ルーダーとは強力な契約魔法だ。それ故にゲームをせず利害一致に向けて互いに譲歩し、擦り合わせ、約束を取り付けるなんてことも珍しくない。
過去には子供同士がふざけてルーダーをし、約束が守られなかったがために死亡したケースもある。破った時の『絶対の死』というリスクはでかい。それを踏まえた上で二人は続ける。
ギントの右腕と爺やの左腕には赤い光帯が輝いている。爺やは全身で向き直り、暗殺者らに背後を晒す。
「オレの仲間になれ爺や! その代わり、オマエの言う理想の王様ってやつに、オレがなってやるよ……!」
吐き捨てるような宣言に、爺やはひっそりとした笑顔で返した。
「断ります」
「んでだよぉぉ!?」
ルーダーはお互いの右手に紋章を刻み込む。既にその
「貴方に関する契約は、既に結んでありますゆえ」
「誰と……オークニ様か」
「とは言え貴方を救う理由は増えました。理想の王様を目指すという言葉、ゆめゆめ忘れなきようお願いいたします」
爺やは露を振り払うかのように細長い剣を振った。剣から飛び散る露は真っ赤な色をしていて、暗殺者のひとりがあとから首を飛ばした。
「……まじか」
それはまるで、血のオーケストラ。タクトを振るうとそれに合わせたように、一人また一人と首と胴が切り離され倒れてゆく。露払いは明らかに切りつけた後の行為なので、ギントは分かりやすく戦慄した。
斬る瞬間が見えないのだ。ここまで強いとは思わなかった。
──オレの目でも追いきれないなんてコトがあるのか……? 魔法も使ってる感じがしない。とにかくスゲー速さだ。
仲間に出来たことを心底喜びたい反面、あれに今後も命を狙われる可能性があるのかと思うと夜も眠れなくなりそうだった。心の中でマジメに王様やろーっと、と死なないための誓いを立てる。
「やべぇわ。オレなんかあっちゅう間に殺されるわ」
とにかく笑うしかない。
おそらく剣士としては世界で十番目以内に入る実力者だと実感する。
──こんなに強えのに、なんで執事なんかやってんだよ! 覇権取れるって。
愚痴をこぼしてる間にその場にいた暗殺者全てが死んだ。
悲鳴も、逃走も、反撃も、一切ゆるすことなく爺やは全ての首を切り落とした。歩いたのはわずか四歩。明らかに剣の範囲外の首も飛んでいる。
「大臣たちを……まずは手中に収めなさい」
爺やが振り向きもせずに理想の王様への指針を示した。
「やれなかったら?」
「殺られます。私に」
「冗談に聞こえねぇ……な!」
ギントはそう言いながら、爺やの先にある暗闇に向かって最後のロウソクを投げた。
火のついたロウソクは回転しながら飛んでいき、何も無いところで細切れになる。そこから風が舞って、大きなローブがうごめいて見えた。ローブは闇に溶けて消えるとまたスグどこかの空間に移動した。
「出てこい! いるんだろ?」
今までのアサシンとは別格の何かがいる。
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