第22話 槍の夜⑩


 「人類はふたつ史実はひとつ。価値と価値を知る者は理を謳歌し、想像は時に勇気と試練を呼び覚ます! 顕現解放、ボス部屋コロッセムウ!!」

 

 口上を述べたあと激しい雷の嵐に包まれたギントであったが──、

 

 「うにゃーー」

 

 何かが起きる訳でもなく、地面に伸びて唸りを上げた。

 

 「へへへぇ、魔力ぎれたわ」

 

 脂汗をかいたギントが舌を出したまま床にへばりつく。これまでの無理がたたったのか、或いは単純に魔力が尽きたのか、どちらにせよ限界はとっくに超えていて起き上がれそうにない。

 

 「なんでこない……?」

 

 こんなチャンスは滅多にないが、アサシンたちは罠の可能性をみてるのか慎重に行動する。

 

 「まだだ……、慎重にすすめ。慎重に……」

 

 じりじりと、その距離は縮まる。

 

 

 ☆

 

 

 ギントが人知れずピンチになる少し前のこと、爺やとスピネルは書斎で会話を弾ませていた。

 

 「あの男は今頃、王としての器を発揮している頃でしょうか」

 「なんの話? タミくんに何かあるの?」

 「試練です。これもまた一つの」

 「試練? 妙に周りが静かだけど、まさか……!」

 

 ハッとしたスピネルは耳をすませ、周囲から生活音がしない違和感に気づいた。──否、少し前から気付いていたが、問題には思わず流していたのを思い出す。

 

 「なりません。貴女様では殺されます」

 

 立ち上がっただけで、静止を促されるされるスピネル。そんな言葉を振り払って進みたいが、立っているだけで矛先を向けられている気がして動き出せない。

 

 「……どいて。助けに行かないと」

 「大国の死はすなわち国家崩壊の意。過去にあった数々の終わり。テロに始まり革命やクーデター。飢饉に伝染病に他国からの侵略、属国化。そして泊地化など。その時が来るまで一体何が起こるか分かりませんが、愛する民たちは幸せを見失うことは確かです。そんなことも忘れてしまわれたのですか」

 

 大国主は決まった寿命を持たないが、別に不死ではない。刺されれば死ぬし、国の崩壊が原因で死ぬこともある。祖国に多大な恩恵を与える代わりに、大国主は国の大きな弱点そのものとも言えた。

 スピネルは全てを忘れたわけではないと首を横に振る。

 

 「死ぬほど危険な状態なら、なぜタミくんをひとり行かせたの! それが試練だから? ふざけないでッ! タミくんはもう十分過ぎるくらい試練を乗り越えて王様になった。それを試練だなんて……! これ以上の苦しみを与えることはこの大国主が絶対に許しません!!」

 

 チェキスというボードゲームでは、マスターがチェックメイトされると幾ら強力な駒を持ち合わせていようとゲームが終了してしまう。それと同じ要領で大国主の死が国家を終わらせる。

 そんな事は分かってる──。けど、だとしても、ここにいるトレジャーランド・サファイアジェットスピネルはたった一人の人生に固執した。彼を見殺しにする理由にはならないと前に出た。

 

 「いくよ、もう。……行くからね!」

 

 爺やは心底申し訳なそうに目を瞑る。気持ちだけは汲んでいるようだ。

 

 「ひとりに愛を注ぐのは勝手ですが、その身勝手な愛に国が壊されてはたまらない。また彼を独りにしたいのですか?」

 「……ぅ」

 

 その言葉は確かに響いてしまった。ぐうの音も出ない。

 

 「ならば契約の呪文だ……ルーダー!」

 

 だから爺やを無理やりにでも動かすことにする。

 

 「……あの男がそんなに心配ですか?」

 

 その言葉には少し怒気がこもっているように思えた。互いの右手に真っ赤な帯が巻き付くように浮かび始める。

 

 「ルーダーとは、ゲームの勝敗で運命を決める賭け事。我が国ではそれを有効にしておる。説明は不要か」

 「宣言した側が掛けの内容を設定し、された側はそれに見合うゲームを用意する。両者その条件に納得いかぬ場合、第三者及び第三国を交えて内容を擦り合わせなければならない。……でしたか?」

 

 爺やが語る基本ルール。しかし今回はその段階から少し違っていた。

 

 「変則ルールとして國がゲームの設定を行います」

 

 スピネルは賞罰決めよりゲームの内容決めを選んだ。

 

 「よろしいのですか? ルール変更はひとつにつき一回、相手の要件を呑まねばなりませんが」

 

 ルーダーの原則をねじ曲げるには、相手にひとつ有利な条件をプレゼントしなければならない。もちろん却下されればそれも無効になる。

 

 「キミの正体を誰にも・・・・・・・・・話さない・・・・。でどう?」

 「……聞くだけ聞きましょう」

 

 爺やはなんとなく引き合いに出されるだろうなと理解した上で、それを了承した。

 

 「ルールは簡単、ジーヤちゃんがタミくんを護衛し守りぬけばジーヤちゃんの勝ち。タミくんが攻撃を受け、ケガをしたら國の勝ちだ。題してぇ〜タミくん護衛ゲーム! 意図的に傷付ける行為等はもちろん禁止ね」

 

 そのほか、期間はもう一度入れ替わるまでや、ギントの不注意によるケガや自傷行為は大国主が気付かなければスルーとし、病気や体調の変化による出血は無効という細かなルールが盛り込まれた。

 

 「あの男が死んだ場合も貴女様が勝つのですよね?」

 「ルール的にはまあそーゆーこと。さて、条件の設定の時間だ。ゲームの難易度に見合うモノをよろしく頼むます」

 「では……私が勝ったら貴女の持つ権能をひとつ私にお譲りください。私が負けた時は、あの男を殺さないと約束しましょう」

 

 爺やはそれほど悩むことなく賞罰を設定するも、スピネルはしかめっ面になる。

 

 「それじゃ賭けにならないよ。さっきも言ったようにタミくんが死んだ時も國の勝ちになるなら、殺さない約束が守られたとしても、結局タミくんは死んでることになる。条件が吊り合ってないよねこれ」

 「では……何を聞かれても嘘を付かない。貴方様の味方になるでどうでしょう」

 

 それを聞いて安心したように大国主は深く頷く。

 

 「それならアリ! 契約を反故にした場合、待っているのは確実な死──。それがルーダーだ。覚悟はいい?」

 「二言はありません」

 「それじゃあ契約成立の音頭を取ろうか」

 

 

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