第13話 槍の夜①
「オレってさ、……まさかそーなの?」
「だろうねー。王族の婚外子的なねー」
「私と似たような境遇で間違いないかと。たまによくあることなので」
「……きちぃー!」
ギントは五十年以上生きてきて、初めて自分以外の財宝魔法使いを目撃した。それもそのはずで、資格を持つトレジャーランドの王族しか使えない特別な魔法だったからだ。そしてそれを扱えるということは……、
「オレも王族の血を引いてるってこと、か……」
ギントは父親を知らない。母親のことも、娼婦だったことしか知らない。けれどそれだけでなんとなく状況は察せられた。イスにもたれながら、頭の後ろで両手を組みただただ事実を噛みしめる。
そうかオレは、王族に不都合な存在だったんだ……と。
「嬉しいって、感じじゃなさそうだね」
「若ェ頃ならそれなりに万能感溢れる言葉だったかも。だぁも今聞いてもなんとも思わねー! なーんで王族なんかに生まれちまったかぁねえ〜」
自分が王族の血を引いていた事実を知り、ため息ばかりの元男は投げやりになって沈んだばかりの夕日に愚痴を吐いた。
「王族にとって不都合な人間から勇者にされるってウワサは本当だったんだな……」
悲しいが納得がいってしまった。なんの取り柄もない平民が突然勇者に選ばれる訳がなかったのだ。恐らくは王様とたまたま後宮に入れた娼婦の間に出来た子ども。ギントは五十数年前の真相を知り落ち込みながらも、キモチ少しだけ救われた気分にもなった。
──つーことは、オレくらい理不尽に勇者に選ばれた
勇者ギントは王族の血を引いていたせいで、大切なものと引き離され大切な時間を奪われた。
大国主スピネルは何者かに封印され、大切な人達に忘れ去られ力を奪われた。
執事爺やは父親の復讐心を引き続き、ギントの描く未来を見定める。そして必要ならばとその座を狙う。
三者三様、皆何かが欠けていて、それを埋めるため集まった。この瞬間から三人は、それぞれの目標に向かって歩める協力者になれたような気がした。独りではなく、この二人と一國なら。あるいは──。
「秘密の共有ってのは、打ち解け合うのにサイコーのイベントだな。この際どうだ、
微かに企みの笑みを浮かべながら、ギントが爺やに提案する。
「それは……私の目的にも寄り添って頂けるということで?」
「アンタの理想はなるべく叶えるよ。食う寝る遊ぶ以外に特にやりてぇ事もねぇからさ。んじゃ、これからもよろしく」
話し合いがまとまると、ギントはその輪に入ろうとしない大国主が気になった。
「オークニ様?」
「……。」
「ぐっすりでございます」
「影の立役者だもんな、おつかれさま」
その寝顔に癒されながら、ギントは優しく微笑みを返した。
コンコン──。
「陛下、チャイバルでございます。お夜食の準備が出来ておいでです」
大国主がむにゃむにゃしていると、扉が叩かれチャイバルの声が響く。話し合いも一段落したのでお腹はそれほど空いていないが、お夜食とやらに向かうギントなのであった。
☆
日が沈んで程ない、真っ暗な王城の廊下。
このくらいの時間帯になると召使いが等間隔で置かれた燭台の上のロウソクに火をつけて回るのだが、まだ一つも付いていない。
普段歩き慣れていないギントでも人の気配が全くしないことを、さすがに妙だと感じ始めていた。
「チャイバル。まだ着かないのか? 昼に食事をとった部屋は通り過ぎてるように思うんだが」
足を止め、五歩後ろを歩くチャイバルの方を振り向く。廊下は中庭側がほとんどガラス張りで、チャイバルの顔が月夜に照らされていた。妙にねちゃっとした笑い顔でコッチを見ている。
「陛下、ワタクシがご用意したのはお夕食ではございません。先程も申した通り “お夜食” でございます。その意味、もうお分かりですね?」
「……えっちなやつか。エッチなやつなんだな!?」
ギントは一瞬だけ考え込み、すぐにその意味に気付くと目を丸くした。遅れてニチャッとした笑みを浮かべる。
二人にはどこか似通っている部分があるのかもしれない。
──まてまて、楽しんでる場合かオレ。今は女の子だぞ。とは言え突っぱねて、無理に敵対するのは避けたいし……。とりあえず、チャイバルの喜びそうなこと言って労っておくか。
「さすがはオレの大臣ダー。お前のように気が利くやつが結局は生き残るんだろナー」
「それで宜しければなんですが陛下……、これまでの無礼な行いを許して頂けると有難いのですが……」
──まあ、そう来るよな。
「……極上級を用意してるんだろナー」
「も、もちろんですとも! 後宮までもうしばらくの辛抱ですので、期待してお進みください!」
「こ、後宮……」
その響きに、ギントは息を飲んだ。男の子たるもの、やはり一度くらいはその単語に夢を見てしまうのだ。
ガタガタっ──。
「ん? 何か言ったか?」
ギントがもう一度立ち止まり、振り返って聞く。
「いえ、風の音か何かでは」
音の正体は窓の揺れた音。二人は突風が吹いたと思い、窓を見上げた。
その時だった。
バリパシャーン!!
窓ガラスを割って二つの黒い物体が侵入してきた。
「おっと?」
「な、何奴!?」
それは人だった。
黒い布で目から下と全身を覆った二人組。
向き合ったまま固まるギントとチャイバルを挟み込むようにしてソイツらは立ち上がる。
「チャイバ──」
「陛下! ……私を図ったのですか!?」
むしろ説明してほしそうに固まるギントだが、チャイバルの焦りようをみて何が起こったのか瞬時に理解する。
これは闇討ち──。
オレたちを同時に狙った暗殺!
「目撃者には死んでもらう……」
そう言うとチャイバルの背に立つ男が、自分の顔の高さに合わせた短剣を逆手に持って月夜に輝かせる。たいそう腕に自信があるようだ。
「目撃者だと……? なめるなよ、こんなもの修羅場ですらないわぁぁ!!」
チャイバルはついでに殺されようとしていることに怒り、服の中からネックレスを引っ張り出した。
首元に輝くは赤色。
宝石名、レッドスピネル。
揺れるひし形が彩度を増し、チャイバルに力を宿す。
「エレメンツ “レッドスピネル” ファイヤーボール!」
敵に向けた両手のひらから放たれたのは、大食漢のチャイバルの腹より大きな炎の塊だった。中心から外側に向かって流れる渦のような炎は、敵の先制攻撃を封じるように一直線に飛んでいく。
しかし、敵は一枚上手だった。
「バカな!? 見躱しの外套だと!」
炎の塊をかき消すようにギリギリで躱しながら、同時にその勢いを利用しながら飛び上がり、一気に距離を詰めてくる。
「もらった」
その短剣が命を奪える距離に迫る。
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