第7話おまけ①男とおませな少女




黒市場

おまけ①男とおませな少女


 おまけ①  【 男とおませな少女 】


























  「おじさん!」


  「・・・・・・」


  「ねえ、おじさんってば!!!」


  「・・・・・・」


  「寝たふりしないでよ!!!起きてよ!!!おじさん!!!!」


  「先程からおじさんおじさんと、一体だれのことを言っているのですか」


  「おじさん起きた?おじさんが、イオ?」


  「失礼な子ですね。そもそもおじさんという歳ではないと思っていますし、私はイオではありません」


  「イオだよね?ね?ねえ、ちょっとお願いしたい事があるんだけどね」


  「話を聞いていましたか?私はイオではないし、おじさんではありません」


  「あのね、お父さんがいっつもいっつも弟のことしか褒めないの。酷いでしょう?だってね、私が先にお手伝いしても、後から真似して手伝ってきた弟のことしか褒めないのよ?それに、弟が食べちゃったアイス、私が食べたことにされちゃって、それを少ししてから弟が自分が食べたって言ったらね、正直に話して偉いぞ、って言うのよ!!!もう、私家出してきちゃったの!!」


  「・・・・・・。そうですか。それは実に不愉快ではありますね」


  「でしょう!?」


  「しかし、兄弟というのはそういうものです。いちいち気にしていたらキリがありません。さあ、気が済んだら家に帰ってください」


  「酷い!!!おじさんまでそういうこと言うの!?おじさんだったら何とかしてくれると思ってたのに!!!裏切られた気分!!!」


  「・・・・・・最近の子はませているというか・・・・・・。君、歳は幾つですか」


  「んーとね、六歳!」


  「・・・・・・」


  「おじさんは何歳?」


  「ここで私の歳は関係ありません。ほら、陽が落ちて来ますよ。さっさと帰らないと、悪い大人に連れていかれて知らない国に売られてしまうかもしれませんよ」


  「おじさんも悪い大人でしょ?違うの?」


  「・・・・・・はあ」


  「みんなね、そういうの。イオっていう奴は、血も涙もない、人じゃない!って。でもね、私は違うと思うの」


  「どうしてですか?」


  「だって、血と涙はあるでしょ?生きてるんだもん」


  「・・・・・・」


  「お父さんもお母さんも隣のおばさんたちもみんな悪い人だって言うけど、欲しいものがあるなら、お金出して買うでしょ?お金が無いなら、物と交換するでしょ?それと同じだと思うの。だからね、イオって言う人は、悪い人じゃないの」


  「・・・・・・どうでしょうね」


  「おじさんは?悪い人だと思う?」


  「・・・・・・」


  「・・・・・・?」


  「・・・・・・興味がありません。その人物が悪なのかどうか。けれど君、そういう考え方をしていると、周りから煙たがられますよ」


  「けむ・・・?」


  「仲間はずれされるってことです」


  「どうして?」


  「・・・・・・無知というのか・・・・・・。人間というのは、仲間を作りたがる生き物です。味方を欲しがるものです。どこかのグループに属していたいと思うのです。自分とは考え方や価値観、性格などが異なる場合、その枠から外します。他人を外すことはとても簡単です。自分さえ外れ者にならなければいいと思っているのですから。それは親友であっても、家族であっても、師弟であっても」


  「どうして違うとダメなの?」


  「人間とは弱く脆い生き物です。それは心も身体も。自分を守る為の一種の防衛反応と言ってもいいでしょう。他人と違うことは、恐怖となり、恐怖はやがて弱さを露出させます。それはまるで、天使が悪魔に心を奪われたかのように。神が死神に恋をするかのように」


  「おじさん、表現が難しい」


  「戦争を知っていますね?」


  「うん」


  「戦争も、人間が弱いからこそ起こしてしまう過ちです」


  「?」


  「もともと、大地も海も空も山も全て、人間のものではないというのに、それを取り合って争い、沢山の血を流します。それが“力”という圧力になることで、強さを証明しようとしたのです。戦う事だけを強さを言うのなら、それは単純な作業であって、人間でなくても出来ることです。人間は高い知能と言語を与えられたにも関わらず、それを使いこなせていません。話し合いで解決できることは極わずか。それは非常に悲しいことです。権力に逆らえばそれは反逆をみなされ、白を黒に染められてしまう。泣いている人に気付かぬふりをして生きる大人が多いですが、君はそんな大人にならないようにしてくださいね」


  「・・・・・・なんかよくわかんないけど、わかった!」


  「君、名をなんと言うのですか」


  「ウミ!!」


  「ウミ?」


  「うん!お父さんがね、ソラって言うの!でもね、本当の名前じゃないの。お父さん、本当の名前じゃないのに、ソラって名前が好きみたいで、それで私はウミになったの!!ウミって、何だろう?」


  「・・・・・・そうですね、この辺りには海というものはありませんからね」


  「?おじさん、知ってるの?」


  「ええ、少しだけ、海のある場所にいたことがあります」


  「どんなもの?綺麗?可愛い?」


  「君は、空は知っていますか?」


  「うん!あの青い上の方にあるものでしょう?」


  「ええ。海というのは、あの青い空の色を受け継いでいる、とても広大で美しい、沢山の水がある場所のことです」


  「え!ウミも青いの?あんなふうに、綺麗な色なの?」


  「そうです。空が荒れれば海も激しく波打ちます。空が冷たくなれば、海もまた凍ります。空が晴れ渡れば、海も輝きます」


  「そうなんだ!あんまりお父さんたちとそういうことお話しないから、わからなかった!!おじさん、ありがとう!!」


  「いいえ。名というのは大事なものです。大切にしてください」


  「うん!おじさんの名前は?」


  「・・・・・・私は、忘れてしまいました」


  「忘れちゃったの?」


  「・・・・・・ええ」


  「じゃあ、私がつけてあげる!!!んーっとね・・・・・・・ジョニー!!」


  「結構です」


  「じゃあ、ミュータント!!」


  「嫌です」


  「えー!!!何がいいかなー。ヒトラー?」


  「喧嘩売ってますか」


  「難しいよー。おじさん、何が良いの?エースとか!!格好いいじゃん!!」


  「・・・・・・」


  「リューク!!ギロック!!ジェシー!!バン!!ライマン!!!」


  「君は、ペットにでも名前をつけている心算ですか」


  「ダメなの?結構良いのが出てるんだけどなー」


  「名前遊びは良いですから、早く帰らないと親御さんが心配しますよ」


  「もうちょっとここにいたいよー」


  「ダメです。さっきも言ったでしょう。この辺は本当に危ないんです。早くしないと・・・・・」


  「おいおい、譲ちゃん、こんなところで何してるんだー??ヒヒヒヒ・・・」


  「一番売れる歳頃じゃねーか?」


  「こんな時間に一人でいると危ないよ―」


  「へへへへへ!!!お前が一番危ないっての!幼女趣味だろうが!!!」


  「・・・・・・あ、あの・・・」


  「怖がらなくていいんだよー。痛くないからね―」


  「いやぁッ!!!」


  「逃げんじゃねえっ!!!」


  「おい!待てよ!こいつ・・・・・・!!!」


  「・・・・・・」


  「おい、嘘だろ」


  「こいつ、まさか」


  「おじさん!!!怖いよぉ!!!」


  「・・・・・・おじさんではありません」


  「イオだ!!!こいつ、あのイオだ!!」


  「おいおいまじかよ。こいつ、上手く売れれば一生困らねえくらいの金になんじゃねえのかよ」


  「ちょ・・・やめとこうぜ。こいつ、まじでやべーって聞いたぜ?殺されるかもしれねえしよ・・・あの女は諦めようぜ」


  「何言ってんだよ。目の前に獲物が二つもいるんだぞ。ここで引けるかよ」


  「確かに、大穴だ」


  「おじさん・・・・・・」


  「・・・大丈夫です。後ろに隠れていてください」


  「てめえ、こんなところで会えるとはな・・・。くらえ!!!」


  「・・・・・・危ないですよ」


  「くそ!!!逃げんじゃねえよ!!!」


  「逃げてません。避けただけです」


  「この野郎!!」


  「てめえ!正々堂々と戦え!」


  「・・・・・・正々堂々、ですか。四対一の時点で、すでにこちらに不利な状況なんですが」


  「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ!!!!」


  「・・・・・・しょうがないですね。ウミ」


  「?な、なあに?」


  「そこの影に隠れていてください。それに、目を逸らしていてください」


  「?」


  「私は良い大人ではありません。残酷な大人の本性をみることはありません」


  「おらあぁああッ!!!!!!!」


  「・・・・・・死んで尚愚かな奴らだ」








  「ひいッッッ・・・!!!こ、こいつ・・・!!!」


  「・・・・・・まだやるのか」


  「こ、殺しやがった・・・!!!くそ!!!!」


  「・・・・・・ふう。少し血臭いな。それに汚れた」


  「・・・お、おじ、さん?」


  「・・・・・・」


  「あ、ああ、あ・・・・・・」


  「怖いか」


  「え?あ、ちが・・・あの」


  「怖くなって当然だ。俺は人を殺したんだ。早くここから去れ。そして、二度と此処には近づくな。二度とだ」


  「!!!!」


  「・・・・・・」


  「・・・おじさん!!!!」


  「・・・・・・?」


  「あ、ありがとう!!!!」


  「・・・・・・」






  「まったく、本当に最近の子は理解出来ない」


 



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