第333話 タテ割の寮の風呂

ヨコ割からタテ割りに再度編成替えした、自由の森のある寮。

理想に酔った児童指導員のいる、その現場。


男女、小中高生皆有。


そうなると、風呂の時間もいちいち決めねばならん。

ましてその寮には、定時制高校に通う男子児童を集めている。


その風呂の時間割の中に、定時制高校に行く彼らの時間が書かれていた。


定時制


その言葉に、後の作家氏は、煮え湯を飲まされたような思いを抱いていた。

そのように思われます。

そんなこと、周りの他の子らも、とっくに気付いていた。

彼のもとに、何か抗議しないのかという声さえ上げた子もいたほどだ。

だが、彼は静かに、そんな声をたしなめるかのように、一言だけ。


ま、(定時制高校に)行っていることは「事実」なんやし。


そこまで言って、そこから先の言葉を飲み込んだ。

周りの子らは、それ以上、何も言わなかった。


だが、彼の怒りは、理想に泥酔したかの職員には、確実に届いていた。

もう、まあまあなあなあは、彼には通じないだろう。

とにかく黙って、この時期が過ぎるのを待つしかない。

その場限りの場当たりであっても、やり過ごしていくしかない。


お互い、その場限りの場当たりをあてがいつつ、

それぞれの道を進むための準備をする。

そんな2年間も、もうすぐ終わる。ってか?


1988年・昭和63年の早春。

かの職員自身、理想への酔いは急速に冷まされていた。

ってか?

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