第254話 コピー人間に、なるな。

 羊の群れが、ブラウン管の中に。

 ヒツジはミユキと言っているらしい。


 インテリ然とカッコいいおじさんの、一言。

コピー人間に、なるな。

 高校生の頃のニチアサ。今みたいに、プリキュアはない。

 横浜銀蝿はすでに解散済。

 セーラームーンもまだ世に出ていなかった、そんな頃。

 時々ブラウン管から飛び出してくる言葉に、

一瞬、ビクッ!


 後の小説家となるかの少年、プロ野球本を読みまくっている。

 何かをつかむべく。この囚われの身を一刻も早く脱すべく。

 酒も飲まずに理想に酔った男性職員の言葉など歯牙にもかけず、

 彼はひたすら、本を読んだ。読んだ。そして、思考に思考を、

 自らの人生を切り開く上での糧を得るべく、必死にもがいていた。


 その番組は、野球教室だった。

 御幸毛織という紳士服のメーカーがスポンサーをしていた。

 背広こそ、最初はそんないいものは買えなかった彼だが、

 コピー人間にするような要素を、彼は、とことん排除していった。


コピー人間に、なるな。


 その言葉は今、かの小説家の座右の銘のひとつと言ってもいいほど、

 彼の心底、骨の髄まで、徹底的に染み込んでいる


最後に、一言。

あれは、ヒツジはミユキではなく、服地はミユキだったとさ。

長年の勘違い乙。


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