第253話 うわぐすりと備前焼の与えしもの

 彼が大学にスカウトされる前、小学校のクラスで、社会科見学に行った。

 彼の故郷でもある備前市。備前焼の窯元に行って、いろいろ学んだ。

 担任の先生は、備前焼について授業でいろいろ教えてくださっていた。


うわぐすりを使った備前焼もあるで。


 先生がそう言ったことを、今や小説家の彼は、忘れていない。

 備前焼は素焼きが基本のはずだが、まあ、あるのでしょう。

 

 うわぐすりに使われる物質を使って実験に使う光景を描いた映画がある。

 それは、彼と同じクラスにいた映画監督によって描かれた。

 映画監督氏がその先生のあの言葉を覚えているかどうかは、未確認。

 案外あいつ、覚えているかもしれないなとは、元クラスメイトの彼の弁。


 後の映画監督にとっても、後の小説家にとっても、

 その先生の備前焼の授業は、確実に、何かを与えている。

 彼らの元担任教師は今もご存命で、現小説家氏の自宅近くにお住まいである。

 というか、その先生宅の近くに、後に小説家が引越してきたというのが真相。

 

 かの小説家は、まさに今、その先生のことを「恩師」と書こうとした。

 だが、あえてそれを控えた。

 映画監督の同級生がそう思っているか否かの確認を取れていない段階で、

 主観のこもった言葉を使うのはいかがなものかと思ったからである。

 その確認がとれたとしても、

 小説家の彼は、その言葉を使うことは慎重になるだろうね。

 それは、かの映画監督の彼も同じであろう。


 社交辞令レベルの言葉をむやみに使うのは、

 言葉を使って勝負する創作者のすることでは、ない! ってこと。

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