第57話 家族だ仲間だ! さあみんな、一緒に!

 文教地区と言われる地域から、郊外の丘の上に移転した自由の森。

 移転した先では、「家庭らしさ」だの「家族」だの、そんなゴミのような言葉、もとい、美辞麗句が念仏のごとく飛び交った。

 職員会議で、毎日の朝礼で。

 そして、入所児童という名の子どもたちの前で。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 松田聖子の新曲、「夏の扉」が歌番組から流れてきます。

 昨年の今頃は、「青い珊瑚礁」だったっけ。

 シングルレコードは、600円から700円に値上がりした、ちょうど端境期。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 幹部候補生の若い男性児童指導員は2名。

 彼らは、3つの寮の一つずつ、それぞれ入って担当した。

 もう一つは、やむを得ない。保母たちだけで何とか回す。

 ある意味その寮って、「母子家庭」なのでしょうかねぇ?

 人手不足は、仕方ない。みんなで何とかフォローしよう!


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 かの児童指導員は、いろいろ思いついては実行していった。

 彼は、幼少期より、剣道をしていた。

 そこで彼は、集会室で週3回ほど、剣道を始めた。

 各寮の小学生らを、希望者を募って。

 ひたすら群れさせ、ひたすら集めて、何かをしようとした。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 かの少年は、そんな彼の職務姿勢を、既に疑問視していた。

 彼は後に、小説家となった。もう彼は、入所児童ではない。

 元少年は、移転後の自由の森には「いない」設定に、した。

 移転と同時に、親族に引取られた設定にしたのだそうです。


 なぜかって?

 言うまでもないだろう。


 丘の上の自由の森時代の自分をモデルには、死んでもする気はない!

 特に移転後の10か月は、思い出したくもない、黒歴史でしかない!

・・・、ってよ。

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