第53話 赤いスタッキングチェア

 3つの寮という名の「家」には、新しい椅子がやってきた。

 椅子の入った段ボールには、カタカナでこう書かれていた。


スタッキングチェア


 子ども心にも、そのカタカナに思うところあった元入所児童氏。

 国鉄の列車食堂の椅子よりは幾分座りやすかったかな。

 背もたれと座部に張られた赤いビニールシートが、目についた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 さて、それから約5年後。

 小6だったあの入所児童氏は、高2となっていた。

 屈辱的な形で定時制高校に通っていた彼。

 ある日の朝、思うところあって、暴れた。

 彼は怒鳴りながら、その椅子を壁などに向かって投げた。


 彼担当の男性児童指導員ではなく、別の男性児童指導員が飛んできた。

 程なく、騒動は収まった。だが、それで何かが解決したわけでもない。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 自由の森の自身への対応のお粗末さに対する、元入所児童氏の心底からの怒り。

 あの椅子たちは、それらを黙って引受け、投げつけられ、やがて、廃棄された。

 昭和の児童福祉のお粗末さの責任を一身に受け、やがて、詰め腹を切らされた。

 あの頃のスタッキングチェアーたちは、何を背負って廃棄されたのであろうか。


 生き残れたのは、元入所児童氏に評定不能を宣告された児童指導員だけでした。

・・・、ってか?

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