第四十二話 入国

控室のドアを開けて中に入ると、そこにはこれでもかと言わんばかりのTHE・控室があった。

普通の大きくもなく小さくもないテーブル。

それに合わせてこれまた大きくもなく小さくもない椅子やソファ。

名前はよく分からないけどどこかで見た事あるような花を始めとしてインテリア。

質素だけど外部からの人々を迎え入れるに最低限十分な物や内装が施されていた。


「凄いわね。ちゃんと対外向けの基礎が出来ているわ。これほどまでの規模の国家を運営しているのなら当たり前といえば当たり前なのかもしれないけどね」

豪華な内装(別に検閲所を豪華にする必要はないのだけど)ではないが、お嬢様のアヤを納得させるのだからアイダムが検閲所に至るところまでも徹底しているのが分かった。


その後、"いやー、お待たせしました。それじゃ、行きましょうか"と相変わらずメアと負けず劣らずのどこか軽い雰囲気のまま帰って来たヒイラギに言われて、私たちは遂にこの夢の世界で初めて外国に足を踏み入れることになった。


ヒイラギに誘導されるままアイダムの事務処理的な空間を抜けると、アイダムという国が私たちにその顔を見せてきた。

ここまでの公的な雰囲気とは異なりそこには人々の活気が溢れていた。

住居が立ち並び右を見れば野菜を売っている者、果物を売っている者。

左を見れば衣類を売っている者もいれば何やら武器を売っている者。

アイラ達の集落でも各々が自分の家の前で思い思いの手作り品を並べていたが、そもそもここはそれとは規模が違う。

集落と国の絶対的な違いを十分に実感した。


それを私たちですら感じているのだからそもそもこれほどの規模の人の熱量をこれまでに見たことも無かったアイラは、今日で一体何回目になったのかも分からないけれど立ちすくんで呆然としていた。

これまでの景色やら不思議なキラキラとは違って、ここでは圧倒的な人の数、活気がとめどなく押し寄せてくる。


「これは…凄いねぇ……」

あんぐりと口を開け、その手に添えられた片手はわずかに小さく震えている。

今日だけで一体過去最高のリアクションを更新するんだろうか、アイラは。


「そしたらとりあえず皆さんの荷物を預けに行きましょうか。ここから数日はそこで宿泊してもらう予定になっていますので」

そう言って動き始めたヒイラギに私たち全員は直ぐについて行く。

というかこんな初めての土地でヒイラギとはぐれたらと思うと。


……まぁ、アヤとユイは多分大丈夫そうだけど。

特にアヤは好奇心の塊みたいなものだし。

ほら、もうアヤの目、なんかキラキラしてるし。


ヒイラギについて行って私たちは更にアイダムの中心に近づく。

右を見ても左を見ても人、人、人、店、店、人。

お祭りの出店とまではいかないにしろ、私たちの所よりは店がひしめいている。それもアクセサリーとかそういうものだけじゃなくて八百屋みたいに食べ物を売っている店も少なくない。

その中にはどこかで見た事あるようなものもあれば、初めて見るようなものも売られている。

あ、あのサンドイッチみたいなもの美味しそうだな。

………。あの焼いてあるもの何だ…?生き物の丸焼き…?足7本位見えるんだけど。


この国でも大通りに分類されるであろう区画を抜け、さっきよりも少しは賑やかさも落ち着き始めた頃にヒイラギは私たちに話しかける。

「今でこそ気楽に会話していますが、私たちの感覚で言えば皆さんは国賓として本国に来てもらっているわけです。なので、数日の間、こちらで宿泊してもらう施設に関しては公的に信頼度の高い施設の方をご用意させていただきました」

そう。あの村でこそ、今でこそこれほどまでに気楽に話せているけれども、客観的に見れば私たちは国の遣いと国賓。

いくら気持ちが打ち解けようともオフィシャルな面を気にする必要がある。



なんかここでも格の違いをまざまざと感じさせられるなぁ。


……べ、別に対抗しているとかそういうことないんだからね!



ヒイラギについて歩いていくと周りとはやや雰囲気の違う建物に辿り着いた。

「着きました。ここが皆さんに泊まって頂く宿になります」

外壁は赤茶色を基調としており、等間隔に取り付けられた窓。

その数からもそれほど部屋数は多くなさそう。

決して絢爛とはしておらず、それでも上質な雰囲気が伝わるそんな宿。


宿に入ると支配人であろう男性が入り口で待っていた。

「ようこそ、おいでくださいました。本日は最大限のおもてなしをさせていただくために準備の方を進めてまいりました。何か不都合やご用命がございましたら何なりと従業員の方へお申し付けください」

流石、国賓に向けて用意された宿なだけある。



私とユイとアイラが唖然としているのを横目に

「ええ、皆様の最大限のおもてなし、ありがたく頂戴するわ。それで早速で申し訳ないのだけれど私たちが宿泊させてもらうお部屋の方に案内してもらっても構わないかしら?」

と、支配人に臆することなく尋ねていた。

「はい。皆様に宿泊していただくお部屋は2階となっておりますので、ご案内させていただきます」

アヤだけが唯一この中でごく自然に当たり前のように動いていた。

「?。どうしたの?荷物もあることだし一旦部屋を見に行きましょう?」

改めてアヤがお嬢様だってことを再認識した。

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