第四十一話 検閲所にて
アイダムは私たちの集落と比べて、いや比べなくても十分立派な国だった。
ちょっとしたマンションくらいはありそうな高い城壁がここから見える範囲にズラーっと続いている。
しかもよく近づいて見てみると灰色の石レンガ造りの城壁でその緻密さ・技術力には圧倒された。
本来は外部からの影響を考えたら私たちのところもここまでとは言わなくても壁くらいは立てた方がいいんだろうなぁ。
そのままガタガタガタと舗装された道の上を進んで更にアイダム国内へと近づいていく。
入り口にあたる門のところに到着し門を挟むように立っていたいわゆる門番の2人を横目にアイダム国内へと遂に入ることに。
思ったよりスッとアイダムの中に入れたけど、私たちだけで来国していたならここで時間を食っていただろう。
馬の手綱を引いていたのがヒイラギだったからかそれとも何かシンボルマークのようなものでも付いていたのか。
私たちには別に分かりようもないことだけど、まあ何かあったんだろうね。
門を通り抜けた後はヒイラギの事前の知らせ通りに検問所に向かった。
そこには淡い赤の長髪が奇麗な女性がいた。
来ている薄い茶色の制服との対比で更に目を惹かれる。
「あんたがここに来たってことはそこにいるのは噂の使者たち?」
「ええ、そういうことなんで検閲もちょっと緩くしてもらえたりすると嬉しいなぁーって」
その女性はフフッと声を漏らし笑顔を浮かべた
。
検閲所にいるからこの人も検閲官なんだけど、ここの門番も含めて改めてここが人の国だっていうことが遅ればせながらも今ここで現実として私の頭に到来した。
現実…現実?なんかちょっと変な感じするな。
「アタシも毎日何人も何人もここで検閲してるからたまには楽したい気持ちが湧かないこともないけどね。でも、私情とここでの仕事は切り分けなきゃいけないのよ?まあ?今回は公式な来賓として来てもらってるからある程度は信用させてもらってるけどね」
「ありがとうございます。そしたら皆さん、一旦荷物の確認をするのでそれぞれの荷物を持ってこっちに来てもらっても良いですか?」
ヒイラギに言われるがままに私たちは各々が持ってきた荷物を持って、その女性の所へ行き1人1人検閲を受ける。
「ふんふん。特に怪しいものとかは入ってないね。…本当に入ってないね。大体こうやって来賓で来る方たちって自由時間とか私的な行動の為に色々持ってきてたりするもんだけど、なんかこう質素って言うかシンプルって言うか」
「あはは…。いかんせんアイダムに関して全く情報が無かったもんで…。最悪、ヒイラギさんがいれば何とかなるかなって」
正直な話、一番の理由はそういう余暇の時間に使うものとかがあそこにあると思えなかったんだよなぁ。
「……よし。全員問題無し。問題が無さ過ぎて逆に怖いくらいだね。特にそっちの女性なんかは本当に必要最低限のものしか入ってなかったから心配なくらいだよ」
女性はアイラの方を向いてまたもちょっと笑いながら言った。
「この荷物だともしかしたら困ることも1人くらいは出そうだから、何かあったらここにおいで」
女性は机の上に置かれていたメモ用紙を1枚手に取ったと思うとそれに何か文字と絵?を書いてそれを私に手渡してきた。
「はい。そこに書いてあるのはアタシの家の場所だよ。仕事中はここにいるから来たところで何も出来ないけど暗くなり始めたくらいに来てくれたら多分アタシ家にいるからさ」
「え、良いんですか?」
「良いの良いの。アタシもここで何百組以上も検閲の仕事をしてるけど、ここまで何も隠したりしていなそうな人は初めて見たし公的にも私的にも十分信頼できる人達だと思ったからね」
「ありがとうございます…」
「またそんなこと言って。プライベートではほとんど他人と関わり持たないような人が言うセリフだとは思えないですよ。大方、今のうちに唾でも付けとこって思ってたりしてるんじゃないですかぁ?」
ニヤニヤしながらヒイラギは女性のことを揶揄った。
「えぇ?ま、まぁそういう気持ちが全く無かったかと言えば嘘になるけどさぁ…。でもアンタだってこの人たちの何か魅力みたいなものは感じただろ?個人的にここで繋がりを持っておくのは得策だと思ってだけだよ」
「ま、その点に関しては僕も同意見ですけどね。そしたらユキさん、後でアイダムを見て回る時についでにその家の場所も案内しますね」
「あ、ありがとうございます」
ヒイラギはここまで乗ってきた馬車を所定の場所に返すために数人の兵士と共に一旦私たちと離れた。
流石に来賓と言えど国の管轄の場所に外部の者が入ることは出来ないし、私たちの後にも何組か検閲を受ける人たちがいる関係で私たちはひとまず検閲所に備え付けられている控室へと向かうことになった。
検閲所から控室へ向かうためにドアノブに手をかけた所で(あれ?そういえば私、お姉さんの名前聞いてなくね?)と気づいた。
だから、私はドアノブにかけかけた手をかけることなく女性の方へ体を向けて
「そういえば、お姉さんのお名前って何ですか?」
と聞いた。
「あらら。そうだね、名前言ってなかったね。私の名前はメア。これからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
今度こそドアノブに手をかけて私たちは控室へと向かった。
ドアを出る時にメアの"またねー"という声を背中越しに聞きながら。
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