第四十話 キラキラとドキドキ
道は舗装されているという事もあってか、自分が思っていたよりも快適な馬車移動。
私の横ではユイが目をつぶって静かに寝息を立てている。
この馬車の微妙な揺れが彼の睡魔を誘ったのだろうか。
正面では先ほどまで外を眺めていたアイラが今も変わらずに外の景色を眺めていることに変わりは無いのだが、その横にいたアヤも気づけば一緒の姿勢になってそしてこちらも目を輝かせながらアイラと一緒に外の景色を眺めていた。
「2人ともそんなに外の景色を見ていて楽しいの?」
私はいくら夢の世界で新鮮な世界だとしても、言ってしまえば現実の世界でも見れそうなだだっ広い草原でそこまでワクワクして外を見るというほどでもなく、純粋に興味本位で聞いてみた。
「勿論よ!ユキさんはどうか分からないけど、私はこの世界の景色を全然見たことは無かったし、普段も習い事とかでこういった景色とは縁遠かったもの」
アヤがそういったところで馬車が先ほどよりも大きく揺れるようになった。
と、同時に先ほどまでうたた寝をしていたユイも目を覚ました。
「ああ、すいません。起こしてしまいましたか。ここから道が未舗装になるので先ほどよりも揺れが増えると思います。出来るだけ荒れ道は避けるようにはしますけどここまでの快適な道はちょっと難しいですね」
これまで走ってきた道を振り替えってみると確かにこれまでは舗装されていたはずの道が、ただの草原へと変貌していた。
「ってことはあそこから結構進んだってことですか?」
「ええ、そうですね。ここからアイダムへもそれほど遠くはないですよ」
始まりの集落から離れたこととアイダムへと確実に近づいていることが、より緊張感を高めていく。
そして、その中でも緊張感が殊更低いのが、そうアイラであった。
先ほどの馬車の揺れがあった時こそ外の景色から馬車の中に視線こそ向けたが、気づけばまた窓の外の景色に夢中になっていた。
それから数十分は経っただろうか。
揺れこそ起きるものの未舗装の道を進むことに慣れ始めた頃。
「おや?」
これまでとさほど変わらないはずの風景を眺めていたアイラが、急に何かに気づいたように声をあげる。
「ユイたち。あれはいったい何だい?」
アヤはそのまま後ろを向いて私とユイはそれぞれがアイラとアヤの窓から外を見る。
「どれ?」
「ほら、あっちの方に何かキラキラしているものが見える気がするんだよねぇ」
そういってアイラは草原のずっと向こうの方を指さす。
目を凝らしてみると確かに何かキラキラしているものが目に入っている。ような気がする。
というのも確かに何かあるような気もするのだけれど、それはここからはあまりにも遠いところにあって物なのかそれともただの光の反射なのかがイマイチ判断が付かないからだ。
そして、それは横のユイとアヤの顔を見るとどうやら2人も同じような様子であった。
「うーん。よく見えないわ」
3人が更に目を凝らしてその何かをよく見ようとしたその瞬間。
「ん…?」
何か鋭い、しかしわずかな痛みが頭に響いた。
それでも例えてみれば静電気程度の痛み。
少しの違和感こそ持ったが、そこまで気にせず再び窓の外に目を向けた。
しかし、先ほどのキラキラ光るものは既に視界から消えており、結局さっきのキラキラ光るものが何なのかは分からなかった。
「さて、皆さん」
ヒイラギが私たちの方を向いて話し始める。
「もうじきアイダムへと着きます。到着後は公的な来国ではありますが、規定もあるので一旦検問所に立ち寄らせていただきます。とは言っても、既に皆さんがどのような方であるかは王も分かっていますし、私も同伴いたしますので形式的なものであると考えてもらって構いません」
「その後ってフリータイムというか国内を見て回る時間とかってあったりするんですか?」
せっかく来たのだから他の国がどんなものなのか知ってみたいという知的好奇心が私から湧いてきた。
というのは半分冗談みたいなもので、真横でこんなワクワクした顔とかされたら聞かない訳にはいかないでしょ。
「ね、アイラもそう思うでしょ?」
アイラはワクワクした顔のまま私の方にグインと首の向きを変えた」
「え!?」
初めて聞いたぞ。そんな素っ頓狂な声。そんな声出るんかい。普段のアンタはどこいった。
もうこれでもかってくらいツッコミを入れたい気持ちを、ここはグッと抑える。
「だって馬車の中の時からずっとそんな風にワクワクした顔でいるんだもん。みんな分かってたよ」
「そ、そうかい」
ワクワクが顔に出ていたのがみんなにバレていたことに対してはにかむアイラ。
「確かにユキの言う通りだよ。ここが見え始めた時からじゃなくてアタシはあの集落を出発する時からずっとワクワクしていたよ。この乗り物だってずっと落ち着かないんだ。ああ、もちろん良い意味でだよ。だから、どうだい。アタシからもお願いするよ」
「構いませんよ」
サラッとズバッと返答するヒイラギ。
「あ、良いの?」
「いずれにせよみなさんをもう一度あそこへお送りするところまでが私に役目なので、交渉が終わってからまあそうですねえ、2日くらいは自由に滞在してもらっても構いませんよ」
「え、良いの?」
「ええ、構いませんよ。今回の来国のように出発の際にお声がきしていただければ。ただ、みなさん通貨なんて持っていないでしょうからそんなに長居もできないと思いますが」
「通貨?通貨ってなんだい?」
そのアイラの疑問を私たち3人は聞き逃すことはなく、即座にユイとアヤが誤魔化しにかかって私がヒイラギに事情を話すことにした。
「あ、あれよ!通貨っていうのは他の場所での滞在券のことを指すの!そんなもの私たち持ってないでしょ?だからそんなに長居できないのよ!いやー!残念ね!」
なんかちょっと後半にかけていつもの口調が乱れかけたアヤの声が後ろから聞こえてきた
「あ、そーそー!初日は交渉が目的だからいいとしてもそれ以上滞在券無しでずっと国にいたらヒイラギさんにも迷惑かけちゃうからねー!」
最早、ユイに至っては終始いつもの口調はどこへやらといった感じであった。
私はそんな2人の声を背中越しに聞いてちょっと吹き出しそうになりながら、ヒイラギにあの集落にはそもそも通貨は流通していないしこれからも流通させる気は今のところ無いということを伝えた。
「はー、そうですか。まあ、確かにあそこであればわざわざ通貨とか作らなくても大丈夫そうですもんねぇ」
「でもさぁ、わざわざ他の国に大金はたいてまで道を整備するなんて貿易の開始が目的としか思えないじゃないですか」
「まあ、そうですねぇ。趣味で国家レベルの事業をする奴なんていませんからねぇ」
「だからさぁ、今回の交渉で来たは良いけど、そこまで話し合いが上手くいくとはあんまり思えないんだよねぇ」
「まあまあ。何も一つのことだけを話すのが交渉ではないですからねぇ。実際に会って目を見て話してみると意外と新しい発見やらもあるかもしれませんよ?」
「そうですかねぇ」
「そんなもんじゃないですか?っと、みなさん。もう着きますよ」
道中で何かキラキラ光るものや通貨の話とか二悶着くらいあったものの、蓋を開けてみればこれといった事故もなくアイダムに私たちは到着した。
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