第三十六話 出発前夜

キッチンの方から湯気に塗れた何かがやってくる。

もちろん、それは料理を持ったユノであるのだが。


「はい。野菜炒めですよ〜」

うん。

いやま。

私が作ってもユイが作っても源が作っても多分同じものが出来てるんだろうけどね。


「それにしてもいつも似たような料理ね」

アヤがみんなが思ってはいたけど中々口には出せなかった言葉を発した。


「みんなお腹空いてそうだったから直ぐに出来るものの方が良かったと思ったんですけど、もっと凝った料理の方が良かったですか?」

アヤの言葉に対してユノが少し不安そうに聞き返す。


「いいえ。決して否定的に言ったわけではないのよ?毎回、作る人が変わるからそれぞれの特徴を楽しむことが出来ているわ。ただ、材料が似たり寄ったりだから、バリエーションが増えたらもっとみんなの料理の特徴を感じることが出来ると思っただけよ」

ユノの言葉に対してアヤが少し慌て気味にフォローする。


「まあ確かにアヤの言う事も1理あるな。俺はユノの野菜炒めを食べたことが無いから、俺にとってはユノの野菜炒めはいつもと違う料理になるし、ユキ達だってそうだろ?」

「ユノの手料理は食べたことあったけど、確かにそう言われてみればいつもと違う料理な気もしてきた」

多分、源は素で言ってるんだろうけど、ユノがちょっと嬉しそうに笑っていたしまあいっか。


「それじゃあ、いただきまーす!」

まず一口。

「ん!?」

流石、超一流グループのお嬢様の元でメイドをやっているだけある。

普段はあんなにおっとりしているけど技術は格段に上だ。

キャベツなんて炒めたにも関わらず、なんだこの食感は!

確かにここのキャベツはそもそも質は高いけど、私やユイが作った時と比べて圧倒的に美味しいのが分かる!

有り体に言えば素材の味が直接右ストレートを打ってきている感じ。

調味料とかで誤魔化さないでその素材が持っているポテンシャルを最大限引き出せるような調理技術を存分に活かしている!

源の言っていたことが分かる。

確かにこれは野菜炒めだ。

野菜炒めなんだけどこれは全くの別料理。

むしろこれが本当の野菜炒めなんじゃないかと思えてしまうほどに完成されている野菜炒め。

この間、わずか2秒。


「「「おいしー!!」」」

「おお!こりゃ美味い!」

アヤ以外は食べた瞬間に素直な感想を口から溢れだす。

アヤは何も言わずにただ食べ進める。

感想とか言わないのかなと思ってユノの顔を見てみると、ユノはアヤの方を見てニコニコと笑顔を浮かべていた。


気づけばこの空間の雰囲気がなんとなくふわふわしてキラキラしているように感じた。

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