第三十五話 共通点?
またもシンとした雰囲気がその場に広がる。
「ああ、勘違いしないでくださいよ。何も斬った倒したを楽しんでいるんじゃないんですからね」
ヒイラギは腰あたりに手を動かして話を続ける。
「日本に住んでる皆さんなら分かるでしょうけど、いわゆる騎士団なんてものは僕達の故郷には存在しない。なのに、この世界には公に認められた存在である。純粋に適性があって所属できたら楽しいったらこの上ないわけですよ。だって、現実であれば絶対に実現できないんですから」
ヒイラギは身に纏っているローブのようなものを私たちに見せるようにする。
「これもですよ!まあこれに関しては元の世界でも手に入れることはできるんですけど、こんな格好が普通に受け入れられているのは良いですねぇ」
「騎士団なのにそういう格好していていいの?なんというか鎧とかそういう雰囲気のものじゃないの?」
「んー、他のところは知らないですけど、僕の国はいわゆる一般的なイメージの隊に加えて裏方部隊もあるんですよ。結構、秘密裏に動く系の。僕、そっちなんですよねー」
ここにきた時とはだいぶ印象が変わってきた。
あんなに最初来た時は不思議な雰囲気を漂わせていたのに、今となってはまるで同級生みたいな感じまでする。
それくらいとっつきやすいというかなんというか。
「そんじゃまー、出発の日までは僕もここでお邪魔させてもらいます。何か出発までに分からないこと、聞きたいことがあれば聞いてください」
そりゃあ聞きたいことはまだある。
ここにいるみんながここに来て日が浅く、その中でも長い方のユイよりもこっちの世界のことを知っているヒイラギに聞きたいことはたくさんある。
でも、ここにいる大きな違いとして私たちの誰もがヒイラギと面識がない。
ただの偶然かもしれないが、ここにいる私たちは誰かが現実世界において接点を持っている。
でも、それはヒイラギには当てはまらない。
それはこちらも世界に来た時のいわゆる初期位置の違いなのだろうか。
とすればこの世界には私たち以外にも接点が無いだけで、現実から迷い込んだ人はまだまだいるだろう。
「ヒイラギさんは私たち以外にも現実の世界から来た人と会ったことはあるの?」
「ええ。ありますよ」
こういう時にズバッと話を切り出すのはいつだってアヤだった。
「とは言っても大抵は同じ国の中ですけどね。今回みたいに他の国で僕たちみたいな存在に会ってのは片手で数えられるくらいじゃないですかね」
ヒイラギは片手の指を折りながらそう言ってきた。
右手の指の薬指が折られたり折られなかったりする辺り、3~4人なのだろうと予想出来る。
「あ、それじゃあ私も質問いいです?」
「いいですよ」
「その同じ国で会った人は全員面識があった人達だったりします」
「ん?んーっと…」
ヒイラギは腕を組みやや左上の方を見ながら少しの間、考え込む。
「あー、確かにそうですねぇ。言われてみれば。ってことは皆さんもそういう?」
「はい。そうなんですよ」
ヒイラギは腕を組んだまま少しニヤッとする。
「これはたまたまなんですかねぇ?それとも何か法則性があるのか?いずれにせよちょっと面白い共通点ですね。やっぱりちょっと無理言って今日ここに来て良かったかもです!」
その場で小さくしかし楽しそうに揺れるヒイラギ。
「あの~」
今度はこれまで発言を控えていたユノが口を開く。
「そろそろご飯が出来そうなので準備してもらってもいいですか~?」
「おお、そうだったな。話に夢中だったけどそういえば腹減ってたんだ、俺」
お腹の辺りを円を描くように撫でる源ともう湯気に半分顔が隠れているユノ。
「それじゃ、細かい話は後にして今はお腹を満たすとしましょうか」
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