第三十二話 ヒイラギ

集落の前に立っているその人は紺色のローブを纏っており、ローブから見える顔も中性的な顔立ちで男性とも女性とも取れなかった。

ただ、明らかにここの者ではないことはその顔立ちから明らかであった。


「私は」


話が通じそうな私たちが来たからなのかは分からないが、そのローブの人が口を開いた。


「アイダムから遣わされた”ヒイラギ”というものです。本日は交渉の準備が出来たのでその迎えとして来ました」


集落の前にいたのはヒイラギという名前のアイダムからの遣いであった。

あれ、でもこの間は確かポルポットさんが来てたはずなんだけどな。


「この間はポルポットさんが話に来てたと思うんですけど、今日はいないんですか?」

「隊長は今日は別の任務が入っておりまして。私が代理として立候補してきました。勿論、隊長の命で来ているのでご心配なさらず」

「はあ」


確かにあの人もリーダー的存在だったけど、結構というかやっぱり多忙なんだな。


「準備のこともあるでしょうから今すぐの出発というわけではありません。ですが、こちらとしても準備が整っている以上、早くて明日、遅くても3日以内にはアイダムへと向かいたいと考えております」

「アイダムには馬車とかなんかそういうので向かうんですか?」

「はい。馬車をご用意させていただきました」

「ちなみにその馬車って何人くらいまで乗れたりするものです?」

「そうですね…。体格などの関係もありますが、4〜5人程度だと考えていただいて構いません」


いずれにせよ源の提案した人数での出発になりそうだ。

そこでそれまで黙って話を聞いていたアイラが私に話しかけてきた。


「私はあんたたちの話は全く分からないんだけど、あの人は誰だい?またあんたたちの知り合いなのかい?」

「ううん。この間、アイダムって国からポルポットさんが来たの覚えてる?」

「馬で来てた人のことかい?」

「うん、そうそう。で、今日は他の仕事で来れないからって代理のあの人が来たってこと」

なんか毎回こうやって通訳みたいなことするなら、ここの皆に日本語教えてもいい気がしてきた。

会話ができるくらいで良いから。


「それで今すぐに出発するにも準備の事もあるだろうからって3日くらいは待ってくれるらしいんだけど…」

「そうだねぇ…。今日はちょっと厳しいけど多分明日には準備は終わるだろうから。あとはユキ達次第だねぇ」


私はユイとアヤの方に目を向ける。

「僕はある程度準備はしてたけど、どれくらい向こうにいるのかとかは分からないから1日は欲しいかな」

「私も」


3人の話を聞いて最低でもあと1日は欲しいことをヒイラギに伝える。


「そうですか。それでは出発は明日の13時でどうでしょう。もちろん、皆様の都合に合わせますが」

「いや、その予定で良いですよ。こういうことは早く済ますに越したことはないので」

「では、私は明日の12時30分にはこちらの方で待機しておりますので、何かありましたら私の方まで来ていただければ」


そこでアヤが不思議そうに

「あなたは今日どこで寝るの?」

「私ですか?私は乗ってきた馬車の中で寝させていただきます。食料なども3日分は積んでいますので特に問題などh…」

「別に馬車じゃなくて私たちと寝ればいいじゃない」


アヤがヒイラギの言葉をズバッと遮る。

ヒイラギはキョトンとした表情をする一方で、アヤはさも当たり前のことを言ったような表情でいる。


「し、しかし私はアイダムから遣わされた者でここの者ではありませんし…」

「でも、別に交渉の遣いでここに来たのであって、敵対している訳ではないのでしょ?あなただって1人で馬車で寝るのは寂しいと思うのだけれど…」

「ですが…」


アヤはアイラの方を向いてヒイラギを集落の中に入れても構わないかを尋ねる。

「その辺のよそ者なら入れないけど今回は交渉相手の国から来てもらってるいわばお客さんみたいなものだからねぇ。"お客さん"として入れるのであれば問題は無いよ」

「流石アイラさん、話が分かるわね」

「ただ、1つ条件として基本的にはアンタたちはまとまって行動してもらえるかい?前にも言ったと思うけどアンタたちを快く思っていない奴らもいるからバラバラに行動されると何が起きるか分からないからね。特にえーっとそこのお客さん…」

「ヒイラギさんだよ」

「そのヒイラギさんはユイたちと行動してもらえるかい。お客さんっていうのもあるけど、ちょっとユイたちと雰囲気が違うからユイたちといてくれた方が余計な問題とかも起きなそうだからね」


アヤは再びヒイラギの方を向きなおす。ニッコリとしながら。

「さ!そういう訳で私たちと一緒に明日まで過ごしましょう!」

「は、はぁ」


分かる。分かるよ。

アヤって元気のカタマリみたいだよね。

裏表のない素直の権化みたいな人に真っ向から相対すると戸惑うよね。

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