第三十話 あったかいシチュー
涙を拭いとりあえず今日までの出来事を日記帳に記録した。
そのままこれまでの勉強の遅れを復習する。
……分からないところは今度ユイに聞こうかな。
私の部屋のドアがノックされる。
「なにー?」
「もうすぐご飯出来るから降りておいで。お父さんもそろそろ帰ってくると思うから」
机の上に広げていた日記帳とノートを閉じて1階のリビングへと降りる。
リビングのテーブルには家族3人分のシチューが既に並べられている。
お母さんは席に着いてゴールデンタイムのバラエティ番組を見ながら笑っていた。
こちらに気づくと
「もうお父さんも帰ってくるから座ってなさいな」
と言ってきた。
私が席に着くと数分もしない内にお父さんも帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
お父さんは着ていたスーツをハンガーにかけてラフな格好に着替えてからリビングに来た。
「さ、冷めない内に食べちゃいましょう。いただきます」
「「いただきます」」
夢の方の世界の食材で作った料理も美味しかったけど、やっぱりお母さんの料理が1番美味しい。
なんだろうな。安心感というか慣れ親しんだ味だからなのかな。
「ところでユキ。最近、学校に行き始めたが何かキッカケでもあったのか?」
「キッカケって言うかなんていうかさ。友達が出来たんだよ」
「そうなのか。それはユイのことではないのか?」
「ううん。違うよ。でも一緒にいて居心地が良い友達なんだ」
「それは良かったな」
お父さんはいつものような口調で話してくるが、少し嬉しそうな雰囲気を感じた気がした。
「その友達はアヤって言うんだけどね。御影グループってあるじゃん?そこのお嬢様なんだよ。家にも行ったことあるんだよ」
私の言葉を聞いてお母さんとお父さんは同時に手にスプーンを持ったまま固まった。
「あらあらまあまあ」
「………」
「ん?どしたの?」
「………まあそのなんだ。お前のことだから無いとは思うが、ご迷惑だけはかけないように気をつけるんだぞ」
「分かってるよ。そんな心配しなくても」
お父さんは表面上、平静を装っているが若干手に持っているスプーンが小刻みに震えていた。わざわざ言わなくてもよかったかな、これは。
対して、お母さんは平静を装いつつ
「すごいお友達が出来たのねぇ…」
と言って再びシチューを食べ始めた。
久しぶりに家族全員で和やかな食卓を囲めた。
ちょうどみんなが同じくらいのタイミングでご飯を食べ終えた。
食器を流しで水に浸けて、しばらくリビングで3人でテレビを見る。
その間も3人でなんてことはない些細な話をして、部屋に篭っていた頃は思いもしなかった空間が確かにここにある。
番組が終わったので部屋に戻ろうとしたところで、お父さんが私に声をかけてくる。
「ユイ」
「何?」
「……正直なところ、お前が部屋からなかなか出てこなくてもそれで楽しいなら構わないと思っていた。しかし、今日、改めてお前の顔を見るとその考えはどうやら違っていたようだ。良い友達が出来たんだな」
「うん。うん、そうだよ」
「………それだけだ」
お父さんと久しぶりにまともに話した気がしてなんだかむず痒い気持ちになりながら自室へと戻る。
その後はお風呂に入って髪を乾かしてベッドの上に寝転んだ。
寝転がって天井を眺めながら夢の世界のことをぼんやりと考えていた。
流石に夢の中のことを話しても信じてもらえないだろう。
それに話したところでどうなる訳でもなし。
そんなことよりも私たちには大変な仕事が残っているというのだ。
ぼんやりと天井を眺めている内にいつの間にか寝ていたようで、気づけば夢の世界で目が覚めていた。
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