第二十九話目 私の日記帳

アイダムに行くメンバーは決まった。

あとはポルポットが言っていたように連絡係を待つことになった。


「連絡係がいつ来るかは分からないけど、1週間かからない位のうちには何かしらの連絡が来るとは思うから、それを目処に各々準備しておくってことで」


そのまま私たちはヤマトの家を出たところで解散した。

ただ、解散したと言ってもみんなで住んでるシェアハウスは1つしかないから直ぐに合流したんだけど。


ヤマトの家を解散したあとはいつものようにみんなで農作業に取り掛かった。

現職である源はその実力を遺憾なく発揮して、いつに間にかゴブリンたちのコーチ的なポジションで溶け込んでいた。

そのおかげもあってか私が来た時よりも更に作業時間が短くなり、その代わりに余暇の時間が増えたのでお互いに知り合う機会になった。


農作業が終わったら今度はユイと源の住む家の建設に取り組んだ。

内装や外装自体は今ある家を参考にしつつも2人しか住まないということで、建設は意外とスムーズに進んだ。

ただ、農作業の後だということもあり今日中に完成させるのは難しく2〜3日かけて作ることにした。

今日のところはメインの柱やら基礎となる部分を完成させたところで一旦終わることにした。

結局、いつもの家にみんなで集まって夜ご飯の時間に。


「しかしなぁ、まさかこんなよく分からんところに来たと思ったら外国との交渉の仲介をすることになとるはなぁ。これでも長いこと生きてきたけど人生何が起こるか分からんとはよく言ったもんだな。今でも夢なんじゃないかって思うよ。……って、そうか。夢だったな」

苦笑いをする源。

「でも夢だって感じはないよ。私たちはここが夢の中だってことは分かっているけど、それでも実際に存在する人とこうやって話したり記憶を共有したりさ。普通の感覚じゃないよ」

「それでもここで寝て起きたらいつもの天井が真っ先に目に入るもんね。それを踏まえたらどうやってもここが夢の世界だってことは否定できないし認めなきゃいけない」

1番最初にここに来たユイがそう言ってるのだし、誰もここが夢の世界を否定するつもりがある訳でもない。


「乗りかかった舟って言葉もあるくらいだしな。ここに来た以上、困ってる現状から目を背ける訳にもいかんし、ここに住んでいる以上は俺たちも無関係じゃないからな」


今日も今日とて肉野菜炒めをみんなで食べて、眠りについた。

次の日、目が覚めるとちゃんと現実の方の天井が目に前にあった。

もう何度目だろう。

流石にあっちとこっちの行き来にも慣れてきた。

まあ、行き来と言っても私自身はここから一歩も動いてはいないのだが。


ベッドから降りてリビングで朝食を食べる。

学校があるからという理由もあるが、私が朝食の時間にリビングにいるのもなんだか新鮮な気分だ。

心なしかお母さんの表情も明るく見える。

めっちゃニコニコしてる。


「美味しい?」

「うん、美味しい」

「そう!良かった」


「ごちそうさま」と言って食器を流しに持って行って、自分の部屋に戻って制服に腕を通して、「行ってきます」と「いってらっしゃい」の2つの言葉を交わして玄関の扉を開ける。

傍から見れば普通に見えるこの光景もこの家ではいつぶりだろうか。

それもこれもアヤと夢の中で会えたことがキッカケだろうな。


学校に着くとまたも校門のところに見覚えのある車が停まっていた。

その停まっている車の中から見覚えのある姿が降りてきて、私の存在に気づいたかと思えば笑顔で手を振りながら私の名前を呼んでこちらに近づいてくる。

アヤと一緒に学校に入って、一緒にお昼休みにご飯を食べて、ユノも昨日の夢のことを覚えていたことや本当にアヤのお父さんと源が知り合いだったこととかお昼休みだけじゃ収まらないんじゃないかってくらいの話をした。


学校が終わって校門までアヤと一緒に向かう。

どうやら今日は習い事が外せないようで少し残念そうに車に乗るアヤとバイバイして家に帰った。


「ただいま」と「おかえり」の聞き馴染みの2つの言葉を交わして私は自分の部屋に戻ってきた。

通学バッグを床において私はベッドではなく机の方に向かって椅子に座る。

もちろん、これまで遅れてた分の勉強もしなくちゃいけないにはいけないんだけど、今日はその前にすることがあった。

机の上にある日記帳に手を伸ばし、まだ何も書かれてない最初のページを開いた。

そう。これまでの夢の中での出来事をこの日記帳に纏めること。

もう何回も夢の中のあの場所へは行ってるから慣れてきているけど、正直アイラ達の存在だって普通に考えて普通のことではない。

向こうのことを日記帳にでも纏めないときっといつか頭の中が混乱する。

うん、ユイは分からないけど私は間違いなく混乱する。

だから、こうやって家に帰るや否や机に向かって日記帳なんか開いてるんだ。


私は初めて夢の世界に行った時のことを思い出しながら日記帳に書き込んでいく。

ああ、そうだ。初めて向こうの世界に行ったときはイノに吹き飛ばされて気絶してたんだっけ。

それで2回目に行った時にユイに会って、それで3回目にアヤに会って……

あれ?3回目だっけ?

なんてことを考えながら日記帳のページを埋めていく。

こうやって纏めてみると色んなことがあったと改めて思うと同時に、夢の世界がキッカケで私もだいぶ変わったなって思った。


夢の世界に行かなければきっと私は今でも寝て起きて気まぐれで何かするみたいな生活をしていたと思う。

それが今となっては夢の中だけど農作業して体を動かしたり、アヤっていうとんでもないお嬢様と友達になったり。

こんな夢みたいなこと、1週間前の私に会いに行って話してもきっと信じてもらえない。


感傷に浸りながらも日記帳を埋めていく。

すると次第にそれまでに書いていた日記の文字が滲んで見える。


あれ、なんか日記の文字が読みにくい…


私はいつの間にか目から涙を流していた。

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