第二十八話 象徴
突然の源の発言にヤマトを含めてその場にいた全員が源の方に目を向けた。
「ヤマトさん。あなたはここの長老なんだろ?間違っても俺ら以外のここの住人にそんなことをいっちゃいけない」
「そうは言っても私たちではあちらさんの言ってることが分からないのだ」
「あんたが言ってることも分かる。ただ、もし俺たちが必要なら、あくまでも補助的な立場で相席させるべきだ」
源はヤマトの言い分を理解しつつも話を続ける。
「今の俺たちはここの住民からしてみればよそ者だ。そんな奴らに自分たちの住んでる所の代表として相手側と交渉するなんて必ず気に食わないやつが出てくる」
今のたちはアイラを始め農作業を一緒にしたゴブリン達からは信頼されている。でも、さっきアイラが言ったように私たちがここに馴染んでいくのを快く思ってないゴブリン達もいる。
「さっきアイラさんからも聞いたが既に俺たちのことを気に食わない存在だと思っている住人だっている。もちろんそういう考えが出てくることは想定していた。ただ、その声を押しつぶして俺たちが代表として交渉の場に立ってしまったら、交渉成立云々の前にこの集落が内部崩壊する。ヤマトさんもそんなことは望んでないだろう?」
「私は日々のほとんどをここで過ごしているから外の雰囲気を全く知ることが無かったのだが、彼が言ったことは本当なのか?アイラ」
アイラは私たちが目の前にいるからか若干気まずそうにしている。
「正直に言うと、ユイたちを迎え入れている者もいる一方でそう思っていない者がいるのも事実です。ですが、ユイたちの助力が無ければ相手側との交渉が出来ないのもまた事実です」
「分かった。ユキたちに不信感を持っている者たちのことは私の方で何とかしよう。とにかく今はユキたちの力を借りてあちらさんとの距離を詰める必要がある」
双方の折り合いがつき、こちら側からはここの住民が代表としてアイダムとの話し合いの場につき、私たちはあくまでも通訳やらなんやら諸々のサポーターとして同席するということになった。
「ユキ。話し合いはこちらでやるのか?それともあちらさんの方まで赴く必要があるのか?」
「話し合いは向こうの国で行われます」
「それではこちらからはアイラを代表として向かわせようと思うのだが…。アイラ。君の意見はどうかな?」
「私ですか?」
「君も分かっているように私はそこまで自由に動くことができない。それが体調という意味だということは知っているだろう。ここに通っている君であれば私の代わりに話し合いに向かっても問題ないと考えているのだ」
「それなら構いませんけど…」
そういう訳でアイダムへと向かうメンバーはアイラと私たちということになった。
でも、なんだろう。さっきのヤマトの発言に引っかかる何かがあった気がする。
ただの杞憂なら良いんだけど。
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