第二十七話 長老 ヤマト

私たちはそのまま集落の入り口から長老の家に向かうことになった。


「ただねぇ、最近は長老も元気が無くなってきてるから、今日も行ったところで会えるかどうか分からないんだよ。もし、体調が悪いようなら日を改める必要もあるからその時はまたあんたたちに知らせるよ」

「長老って何歳くらいなの?」

「どうだろうねぇ。私たちも一緒に住んでいる訳じゃないし正確な歳は分からないけど、最後に会った時にはもう80歳くらいだった記憶があるよ」

「80って俺よりも上だな。そりゃあ調子が悪い時があるのも分かるな」


そういえば源さんっていくつなんだろ。

見た目は年齢よりも若そうに見えるけど。

ていうか、源さん以外は現実で接点があるから分かるけど、源さんだけ急に年代が上がってるんよなぁ。


長老の家はこれまでには行った事のない場所にあった。

それでも周りの家とはなんか違うっていうのが一発で分かるくらいの雰囲気が溢れ出ていた。

「ここが長老の家なんだけど……。ちょっとあんたたちはここで待っていてもらえるかい?今、大丈夫かどうか確認してくるから」


時間にして10分くらいは待っただろうか。

ようやくアイラが出てきたかと思えば、そのまま私たちは長老の家の中に誘導された。

家の中に誘導されたのを考えるに今日は長老の調子が良いのだろう。

もうここに来て数日経つユイにとってもここで長老とコンタクトを取れるのは大きな進展だろう。

もっとも、ここで長老の賛同を得られるかどうかにかかってはいるが。


長老の家に入るとアイラに誘導されるがままに長老の部屋に誘導される。

家の中には襖や囲炉裏といった和風なテイストのインテリアが広がっていた。

アイラに案内されて長老の部屋に行く途中に、小さめだけど庭も見かけた。しかも、枯山水がある。

すごいな。この家は随所に日本的な要素が散りばめられている。


「さ、ここだよ」

通路の突き当たりの部屋に辿り着いた。

扉を開けて中に入ると、集落のみんなよりも明らかに年老いたゴブリンが1人椅子に座っていた。

私たち5人の後にアイラが入るとドアを閉める。


「君たちが噂になっている人間だね?」

その年老いたゴブリンが私たちに問いかける。


「そうです。今までご挨拶出来なくて申し訳ないです。もし、差し支えなければ名前を聞いても?」

と、ユキが尋ねる。

「私の名前はヤマトという。君たちの名前なども聞いていいかな?」


私たちはそれぞれ順番に自分の名前と簡単な自己紹介をした。


「なるほど。自己紹介ありがとう。それで今日はどういう要件で来たのかな?」

ヤマトは椅子に座ったまま。


「ヤマトさんはアイダムって国のこと知ってます?」

「いや、知らないな……。その国がどうかしたのか?」


私はさっきまでのことをヤマトに伝えた。

「そうか…私の知らない間にそのようなことが……」

「それであちらさんの話してる言葉が分からないから、ユイたちに代わりに聞いてもらってたんですよ」

「向こうの要求としてはこの集落に繋がる道路の整備とそれに伴って貿易の開始が主な要求でしたね」


そこでヤマトが

「初めて聞く言葉があったのだが貿易とは何かな?」

と聞いてきた。


見る限り、ほぼ自給自足で社会が成立しているここに存在するはずもない"貿易"という単語を知らなくても無理はない。


「簡単に言うと相手と私たちで物を交換することだと考えてもらえれば大丈夫です。例えば、ここで育てている野菜と相手が持っている野菜を交換するのも一種の貿易の形と言えます」

「なるほど。それだけ聞くと悪くない話のようではあるが…」

「ただ、もちろん良いところもあれば危ないこともあるので、ちゃんと考えてから答えを出すべきと考えます」


ヤマトは腕を組みしばらくの間、考え込む。

アイラを含めて私たちはただ黙って待っている。


答えが出たのかヤマトは口を開ける。

「正直、この場で答えを出すのは難しいと思う。ただ、君たちの話を聞くに私が相手の提案に応じるにしても分からないことが多すぎる。そこでだ、君たちにあちらさんとの交渉を代理でやってほしいと思うのだがどうだろうか」

「え?いや、別に私はそれでも良…」

「駄目だ」


これまでの会話でほとんど言葉を発していなかった源が私とヤマトの会話を遮るようにしてヤマトの提案を否定した。

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