第二十六話 発展と譲歩

自己紹介も終えて意外なつながりがあることを知った5人。

すると、ユイを呼ぶ声が家の外から聞こえてきた。

窓から外を見てみるとユイを読んでいたのはアイラだった。


「ユイー?いるかい?ちょっと頼みたいことがあるんだけど出てこれるかい?」

ユイは1階に降りて玄関を開けアイラの話を聞きにいった。


しばらく話した後で再び2階に上がってくると私たちに向かって

「この集落の入り口に他の国から人が来ているみたい。何度か来ているらしいんだけどあんまり話が噛み合ってなかったみたいで、僕たちに仲介してほしいみたい」

「人ってことはアイラたちみたいにゴブリンじゃないってこと?」

「うーん、多分そうだと思う。アイラが『あんたたちと同じような見た目』って言ってたから」


ユイは私たち4人の返事を待つ。

「ま、行くだけ行ってみるか。どっちみち話が噛み合ってない以上、いつかは仲介することになるだろうしな」

結局、源の一言に全員同意し、私たち全員で家の外に待っていたアイラに着いて行くことに。


「しかしあれだねぇ。だんだん増えてきて賑やかになってきたじゃないか。でもね」

アイラはやや神妙な感じで話を続ける。


「先に言っとくけどね。別にあんたたちが悪いって訳じゃないんだけどね。最近、ちょっとあんたたちをよく思ってないのもいるってのを聞くことがあるんだ」

「俺らよりも前からここにいるあなたたちからしたら俺たちは移民って感じだからな。快く思わないやつが出るのも分かる話だ」

「そうかい?まあ、あんたたちが理解しているんなら穏便に済む話ではあるんだけどね。そういうのもちょっといるってことは知っておいてほしいと思ってね。ああ、前に農作業を一緒にやったアイツらはむしろ歓迎しているくらいだから心配しないでほしい。アイツらからしても頭数が多い方が楽できるからだろうね」


アイラはちょっと笑いながらそう話を締めると、行こうかと言って集落の入り口まで案内した。


集落の入り口には4〜5人ほどの人影があった。

確かに人である。

日本人というよりかは外国人に近い。

多分ヨーロッパの方。

ただし容姿は中世を思わせるような服装で、近くには恐らくここまで乗ってきたのであろう人数分の馬が壁の側で待機していた。


「ヤバいよ。私、そんな英語得意じゃないから話分からないかも」

「いや、逆にこれはチャンスだ。願ったら本当に他の言語が理解出来るかを試す絶好の機会だよ。ほら、強く願って」


ユイにそう言われてハッとした。

そうだよ。ピンチをチャンスにとはよく言ったものだよ。

……別にピンチではないか。


「そしたらあんたたちに頼んでもいいかい?一応、私も側にはいるけど話は分からないからね」


心の準備ができたところで私たちも彼らの方に歩み寄る。


「すまんが俺は外国語に関してはどうも苦手で。君たちに任せていいかな?」

「ここではお互い協力が大事よ。ここはわたしたちに任せてちょうだい」


源とユノ以外の3人が多分向こうのリーダーっぽい人の前に立つ。

なんか1人だけちょっと服装が豪華に見えたんだよね。


その向こうのリーダーが私たちに話しかける。


「初めまして。私たちはアイダムという国から来ました。私の名前はポルポットです。よろしく」

あれ、ポルポットさんの言ってることが分かるぞ。

やっぱりユイの仮説は正しかったんだ。


「よろしくお願いしますね。ポルポットさん」

最初のコンタクトは良さそうな感じの好印象。


「ここにも人間がいたんですね。見た目からしてアジアの方かな?それも日本人?」

「ええ、そうです。ここにいる5人全員が日本人です」

「おー!やっぱり!なんだかそんな感じがしたんですよね!」

さわやかな見た目に明るい雰囲気はこういう初対面の場で効果を発揮するよね。


「あはは、ありがとうございます。それじゃあ用件を聞かせてもらってもいいですか?こんな他愛無い話をするためにここまで来た訳じゃないでしょう?」

「おっと、そうだったね。初めてここで人間と会ったからちょっと興奮していたようだ。私たちが来た理由は2つ。1つ目は我が国との間の道を整備することに関しての同意。2つ目はそれに伴って我が国との貿易の開始です」


急に真面目な話になり私たち3人の表情も真剣になる。


「そうですね…。僕たちもここに来てまだ日が浅いし権限もないので僕たちが決めることは出来ないんですけど…。ポルポットさんたちの国、えっと…なんだったっけ」

「アイダムです」

「そう、アイダム。その国はここから見てどこにあるんですか?」


ポルポットは後ろを振り返って指差しながら私たちに説明する。


「いま、私が指差している方向に、そうですねぇ…馬で30分くらいですかね。馬車ですと1時間かからないくらい進んだところにあります。馬だけだったらいいんですけど、流石に馬車とかになるとちょっと悪路なんですよね」

「仮に道を整備するとしてそれはどっちが負担するんですか?」

「最終的には両国のトップの決断によるんですけど、今のところ国力にも差があるので多くはこっちが負担する予定ではあります。実際、私たちの足元のこのわずかに舗装された道も過去に我が国の主導で始まったプロジェクトだという記録がありますからね」


初めて来た時にここだけ雰囲気は違うなとは思っていたけどそういう事だったのか。


「私からもいいかしら。仮に貿易をするとして交換手段はどうするの?私たちの方には通貨が無いから貿易もそう簡単に出来るとは思えないのだけれど」

「その点に関してはこちらの通貨を公的通貨としてそちらにも流通してさせていただくのが1番シンプルな方法だと考えています」

「なるほどね…」


「あ、じゃあ私からも質問が。どうしてアイダムは私たちとの貿易をしたいの?」

「それに関しては国王が決めていることなので私にはお答えすることができません」

「そうですか…」


ひとしきり質問を終えたところでポルポットが口を開く。

「もちろん、この場でご決断していただかなくても構いません。ですが、私たちとしてもそこまで長い期間待つわけにもいきませんので…」

「そしたらまた話し合いの場を設けるのはどうかしら?またこちらに来てもらうのも申し訳ないし今度はこちらからそちらに出向いても良いのだけど」

「そうですね…。私の一存では決められないので、一旦この場で話し合ったことは国に持ち帰らせていただきます。それでは改めて、連絡係に仔細を伝えさせますね」

「ええ、よろしく頼むわ」

「いえいえ、こちらこそ。今日はあなたたちに会えて良かった。やっと、話し合いが進展した気がしますよ」


そう言ってポルポットは4人の部下を連れてアイダムへと帰っていった。

私たちはアイラ、源、ユノの3人に今までの話を説明した。

「そうかい。そんな話だったんだね……。確かに私たちだけで決められるような話じゃないねぇ」

「でも貿易ができればこっちとしてもいろんな物資や食材を手に入れられるかもしれないし道路の整備も向こうが多く負担してくれるんだろ?中々悪い話じゃないように思えるがな」

「でも、その時には向こうの通貨がここでも流通することになるわ。それがここで良い方向に転ぶとは限らないわ」

「確かに僕もそこは引っかかってる。わざわざここで通貨を流通させるメリットが果たしてどれだけあるか…」


アイラも含めて私たち6人はこの難しい課題に頭を悩ませる。

と、そこでユノがアイラに1つ質問する。


「ね〜、アイラさん?ここで1番偉い人って誰なの?」

「おや、ユイに前に紹介してなかったかい?」

「いや?」

「そうだったかい。てっきり前に紹介したと思ってたよ。そうだねぇ…、いずれにせよここでの話も伝えることになるだろうしね。あんたたちもここに住んでることになってるし、長老にあんたたちを紹介しようかね」

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