第二十五話 ここでいきてく

 夢も結局は人の想像力によって創られたものだから、そこにいるアイラたちも創られた存在であるのは別に不思議なことではない。

 少しの沈黙が流れた後にアヤが口を開く。

「源さんの仮説を興味深いのだけれど1つ気になる点があるわ。そうだとしたらどうしてアイラさんたちはずっとここにいるのに、人は誰もいないのかしら」

「それは知らん。ただ、夢の中のしかもここに必ず来れるわけじゃないんだろ?ここに来る時にユノから色々聞いたが、お嬢さんのとこには他にも使用人がいるんだろ?そいつらと同じでたまたま長い間ここに来る人がいなかっただけじゃないのか?」


 ここでこのままお互いに話し合っていても結局は仮定の域を過ぎない。

「源さんの仮説にせよユイの仮説にせよ、この石碑があるのが分かった以上はアイラたちが日本語を話していた理由が分かった気がする」

「でも、あの石碑の文章とは雰囲気が違ったわ。なんというか石碑に刻まれた時よりも現代的というか」

「俺たちと同じで時代が経つにつれて言葉も変化してきたんだろ。別に不思議なことじゃない」


 分かったことが増えた一方で新たな仮定も増えた。

 埒があかないので今日はもうユイの家に帰ることに。


「歩き回ったり頭使ったりしてお腹空いちゃった。何か食べようか」

「それなら俺に作らせてもらっていいか?一宿一飯の恩って言うと堅い感じがするが、普通にお礼くらいに考えてほしい」

 源は一応ここの家主であるユイの方を向いて交渉した。


「良いですよ。食材はキッチンの箱に入ってるので適当にそこから使ってください。あと、味噌的なものが調味料として使えるのでそれも適当に使って良いですよ」

「お、ありがとう。じゃあ作らせてもらうがアレルギーとか君たちはあるか?」


 源以外の全員は声を揃えて無いですと返すと源はキッチンに向かった。


 源が料理を作っている間に私たちはアヤとユノのこれまでの話や、ユノが源と会った時の話などをして時間を潰した。


「よーし、君たち今から熱いの持ってくから気をつけてな。ユイ、何か布みたいなものとかないか」

 ユイは部屋の隅に畳んであった手拭いのようなものを源に手渡すと、源はそれを持ったまま鍋を机の上に置いた。


「結構色んな食材があったからな。豚汁を作ってみた」

「「おー」」

「せっかくこんなにいるんだからみんなでつつける料理の方が良いかと思ってな。まだ君たちから話も聞いてみたいしな」

 源は手拭いを畳みながらそう言って座った。


「お〜、おいしそ〜!」

「じゃ、源さん、いただきまーす」

 流石にこの人数分の小皿は無かったのでアヤとユノ、私とユイ、源の3組で小皿を使い分ける。


「おいしー!」

「おお、我ながらこれはいけるな」

「こんなに具が入って美味しいのは良いわね」

 各々、それなりの好感触の感想を口に出しながら箸をすすめる。


 みんなの箸も落ち着いてきたあたりで源が口を開く。

「そんじゃ、さっきも言ったように改めて自己紹介をしたいんだがいいかな?もちろん言い出しっぺの俺からするつもりなんだが」

 源以外の全員は特に異論もなく源の提案に同意した。


「よし。じゃあ俺の自己紹介から。坂木さかき げん。まあ気楽に源さんとでも読んでくれて構わない。普段は農業と趣味程度に猟をやっている。見ての通りジジイだが君たちみたいな若い子たちとも関わっていきたいから、遠慮とかはしないでほしい。ざっとこんな感じか。何か質問とかあるか?」

 源は全員を見渡す。

「急に言われてもそう簡単には思いつかんか。無いようなら質問は最後にまとめてやるか。そしたらここからは時計回りでいいか。じゃあ、ユイ」

 自己紹介は源→ユイ→ユキ→アヤ→ユノの順番に行われる。


「源さん以外は今更感あるけど。東雲しののめ ゆいって言います。よろしく。趣味って感じのは特に無いけど普段は機械周りをいじったりしてるから強いて言えばそれが趣味かな」

「あー、私か。夜ノ原よのはら 由希ゆきって言います。私もこれといった趣味とかは無いんだけど面白そうって感じたことには結構やる気出すタイプです。ここでの皆との生活も新鮮な感じがして結構楽しいです。はい」

「次は私ね。私は御影みかげ あやと言うわ。習い事の類は色々とやってきたから大抵のことは出来るのだけど、自分からやりたいと思ってやってきたことはほとんど無いの。でも、ここでの生活は全部私たちで協力して作っていくから私もユキさんと同じでここでの生活を楽しんでいるわ。これからもよろしくね!皆さん!」

「あ、えっと、私の名前は小林こばやし 攸乃ゆのです。普段は学校が終わった後にお嬢様の家で仕事をするかお家に帰ってイラストを描いてたりしてます。特技は家事全般です。激しい運動とかはあんまり好きじゃないけど、ここはそういうのもあんまりなさそうだからゆったりできそうで楽しみです。よろしくお願いします」


 最後にユノが一礼をしたところで自己紹介が終わった。

 それと同時に源がアヤに質問をする。

「なあ、アヤ。まさかとは思うんだが君の親ってあの御影財閥のことか?」

「ええ、そうよ。わざわざ言わなくてもいいと思っていたのだけど。それがどうかして?」

「こりゃまた意外な繋がりってものはあるもんだな。俺は神の親父さんとは昔からの知り合いなんだよ」


 源の発言にこの場にいた全員が驚き、注目は再び源に集められた。


「君がどれくらいアイツのことを知っているかは分からんが、そうだな…」

 源はアヤの父の出身地・出身校・好み・昔の話などをアヤに説明した。


「改めてお父さまに確認しないと分からないけれど、私が知る範囲では確かに源さんの言っていることは間違ってないわ…。まさか、源さんがお父さまと知り合いだったとは思わなかったわ…」

「とは言っても、君はまだ産まれてもなかったし面識があるわけでもなかったからなぁ。信じてもらえるかは怪しいところだが、今度アイツと会ったらよろしく言っといてくれ」

「ええ、分かったわ」


 ここに集まったそれぞれがお互いになんらかのつながりを持っている。

 これは必然か偶然か。








 お互いが自己紹介と質問を終えた丁度その時。

 集落の入り口に近づく複数人の人影があった。

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