第二十四話 メッセージ

 源が集落に一歩足を踏み込むと

「ほー…、こりゃ驚いた。流石にこれは夢の中だという事は認めなきゃいけないな」

 と、言葉だけじゃなく表情からも驚いたという反応を示した。


 ひとまず全員揃ってユイの家に行くとした。

 というか、ここでみんなで話し合う上で他にこれといって適したところがないのだが。


 まずユイが家に入ってその後に私、アヤ、ユノ、源と順々に家の中に入っていく。

「お邪魔しま~す」

「邪魔するぜ」

 最初にここに来たときは私とユイだけだったのがいつの間にか5人にまで増えた。

 そのせいか若干狭さを感じなくもない。


「さすがにこれだけ人が集まると狭いね。最初は僕だけが住む想定で作ったからしょうがないと言えばしょうがないんだけど。そろそろもう一軒隣に建てる事も視野に入れないとかな」

「おー、この家は君が作ったのか。いやいや、良く出来てると思うよ」

「僕だけじゃここまで作れないですよ。ここのみんなと協力して建てたんですよ。良かったら後で紹介しましょうか?」

「そりゃありがたい。ここまで立派なものを作れるんならちょっと話も聞いてみたいしな」


「さて、新しく源さんも加わったということで、改めてこの夢の世界で僕たちが分かったことを説明しますね」

 そう言ってユイは立ち上がってキッチンへと向かった。

 そして、水の入ったコップを持って机の上に置いて再び座る。


「ここが夢の世界だっていう共通認識はここにいるみんなが持っているという前提で話を進めますね。夢の世界ってことは結局はここは僕らの頭の中の世界ということになります。で、あるならば、僕らが考えることは実際にこの世界では反映されるのではないかという仮説を僕らは立ててます」


 そう言いながらユイの目の前ではコップに入っていた水が宙で円を描きながらしている。

 ユノは目をキラキラさせて楽しんでおり、源は驚きはするものの夢の中だからなぁといった表情をしている。


 ユイが水をコップに戻したところで源が口を開く。

「考えたことが実際に反映されるってのは分かった。んで、ここに来た時にもう1個気になったことがあるんだがな。さっきの……、何て言うんだ。彼らは」

「彼らはゴブリンって種族です」

「おお。ゴブリンって言うのか。いやな、ここに来る時に何人かのゴブリンとすれ違ったんだが、どうも彼らの言ってることが分かるんだよ。でも、どう見ても彼らは人じゃないだろ?ゴブリンってのは日本語を喋るのか?」

「正直、そこに関しては僕たちもよく分かってないんですよね。最初は水と同じで話したいって願ったから話せるのものだと思ってたんですけど、アヤさんが特にそういって事をしてないのに彼らの話を理解して会話が出来たんですよ。だから、元々彼らが日本語を喋れるって考えるのが確かに筋は通るんですよね……」


 話を聞き終えると源は

「……ま、難しいこととかよく分からんことはその内に分かるだろ。俺はちょっとここを見てくるわ。その後に、もう一軒家を建てるんだろ。ユイ」

 と言った。

「はい。僕らがこの世界に住んでいくのに、これ以上人が増えると流石にこの家だけではちょっと狭いですからね……。とりあえず男性陣と女性陣で家を分けようかなとは考えてます」


 ユイの話を聞くと源は集落を見るために家を出た。

 するとそれまで静かにしていたユノがアヤに

「お嬢様、私もここ見てきたい」

 と言ってきた。


「そしたらみんなで一緒に行きましょう。まだ、私も全体を見た訳ではないのだし」

 なんやかんやでみんなで集落を見ていくことになった。


 家を出るとアイラと話をしている源の姿があった。


「源さん。アイラと仲良くなったの?」

「ん?おお、君たちも来たのか。いやー、なかなか話の合う人でな。意外とここと相性が良いのかもしれんなぁ」

 少し嬉しそうに源は微笑みを浮かべる。


 再び全員合流したところで改めて集落を見て回ることに。

 と言っても私とユイとアヤは案内みたいな感覚だけど。


 集落の中心地、商店街のような物々交換の盛んな地域、共同農地とこの集落の中でも賑わいのあるところを一通り周った。


 この集落の大体の雰囲気が掴めたところでいい感じの時間にもなったのでユイの家(今となってはシェアハウスのようなものだが)に帰ることに。

 共同農地を出発し再び集落の中心地を通りかかった時に源は何かに気づいたようで私たちに声をかける。


「なあ、ユイ。あの石、いや石碑か?あれは何か知ってるか?」


 源が指さす方向に目をやると確かにそこには石碑のようなものがあった。


「石碑?ああ、本当だ。何か刻まれてますね。知らなかったな」


 その石碑は集落の中心地の隅っこにある。

 石碑には何やら文字のようなものが刻み込まれているようで、近くに寄るとその文字が日本語であることが分かった。

 しかし、所々読めない箇所があった。

 それほど手入れがされていなかったのだろうが、一部は風化していたり中には私の知らない言葉もあった。


「さて、どれどれ……」

 源は石碑の前に座り込み刻まれた文字を読み始める。

 数分の内に源は石碑に刻まれた文字を読み切ったようで、立ち上がるとこちらに顔を向けた。


「こいつは俺たちに向けられたメッセージみたいなもんだな。それも結構昔からの」

「どんなことが書いてあるか読めるのね?」

「流石に消えてたりしてるところは読めないがな。ほれ、冒頭に関しては君たちでも読めるんじゃないか?」


 そう言われて石碑の冒頭部分を見てみると

『我、こ--来たり。こ--そ-証-刻む。いつ---に来-人に伝ふ---に』


「まあ、なんとなく読めるとは思うがそういうことらしい。その後の文章にも『あやしき力』とか書いてあるしな。普通に水を操る力とかその類のことを言ってるんだろう。昔にもここに人がいたってことだ」


「アイラ達が日本語を話してるのも昔にここに来た人が教えたってことって考えれば腑に落ちる…」

「本当に教えたのかは分からないけどな」

「どういうこと?」


「ここに来たばっかの俺の考えだがな。ここが夢の中なら誰かが何かを生み出した起点が必ずあるはずだ」

「確かにそうね。どんなものでも遡り続ければ起点に辿り着くわ」

「そう考えれば、誰かが彼女たちに言葉を教えたんじゃなくて…」

 源の言葉をそこまで聞いた瞬間にその場にいる全員も同じ仮定を考えついた。

 確かにその仮定も考えつくはずなのに。

 考えつくはずなのに、私は無意識か意図的かその仮定を排除していた。

「最初から日本語の知識を持ったものとして生み出された存在だとも言えるんじゃないか?」








 石碑に刻まれた文字

 我、こ--来たり。こ--そ-証-刻む。いつ---に来-人に伝ふ---に。

 この---は、-い--怪し-力--。

 い--来-る友の---------す。

 願わ--彼---


 -はかすれていて読めなかった。

『彼』のあとも文章が続いているようだが、判別ができない。

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