第二十二話 おっきー

「おっきー…」

「大きいなぁ…」

 ユイと2人でほぼ垂直になるくらい首を上に向けて呟く。

 それくらいに目の前に建っているビルは高い。

「ようこそ、我が家に!…と言っても買ってもらった家なのだけれど」

 今、さらっと結構すごいことが聞こえた気がするけど。


 自動ドアが開いて一階のホールに入ると、アヤは手際よく部屋番号を打ち認証画面の方を向いてドアのロックを解除する。

「さ、行きましょう」

 さも当たり前のようにやってのけたが、ここまでのロックがある家庭もそうそうないよなぁとか思いながらアヤについて行ってエレベーターに乗る。


「何階なの?」

「最上階よ」

 エレベーターに乗ると迷わずに最上階のボタンを押すアヤ。

 エレベーターは他のどの階にも止まらず、ノンストップで最上階にたどり着く。

 扉が開きエレベーターから降りると、そこには1つの玄関が見えるだけで他の部屋がある感じではなかった。

「この階の他の部屋は?」

「無いわよ。この階が私の家なの」

 さも当たり前のような顔をしながら、アヤは玄関を開けるためにバッグから鍵を取り出している。


 すると、アヤが玄関を開ける前にガチャっと音がした。

 そして、その現象を不思議に思う間も無く玄関が開き

「ようこそ!お嬢様!ユイ様!ユキ様!イェーイ!!」

 パァーン!!

 突然の歓迎コールとクラッカーの音が階に響く。

「いやー、待ってましたよ、待ってましたよ!お嬢様がご学友をお招きすると聞いて、このマヤが万全の準備をしておきました!」

 なにやら賑やかな人がアヤの家から現れた。


「紹介するわ。こちらは私の家の使用人さんのマヤさん。年は私たちよりも少し上で今は大学生だったはずよ。彼女は使用人さんの中でも特に長いことやってもらってるから、どちらかというとお友達みたいな感覚ね。使用人さんは他にも2人いるのだけれど、別の曜日だから今日はいないわ」

 またも当たり前のことのようにアヤは私たちに説明してきた。


「ちょっとちょっとお嬢様、こんな日に私だけしかいないと思ってます?」

 マヤがそう言うと扉の奥からもう2人使用人が出てきた。

「こっちの長髪で真面目そうな方がミユ。で、こっちのおっとりしている方がユノ」

「お帰りなさいませ、お嬢様。ようこそいらっしゃいました、ユイ様、ユキ様」

「おかえりなさいませ〜、お嬢様。あ、ようこそ〜」


「この2人は私たちと同じくらいの年齢よ。いつもはマヤさんのサポートって感じでやってくれてるわ」

「さ、お嬢様、それにご学友様。固い話は後にして、とりあえず入って入って!」

 マヤさんが私たちを家の中に招き入れる。

「とりあえず靴はその辺に脱いでおいて下さい。私たちが整理しておきますので。そちらで手を洗ってからリビングの方へどうぞ」ミユさんにもそう言われて私たちは手を洗ってからリビングの方へ向かった。


 リビングのドアを開けると机の上には豪華な料理が並べられていて、それ以外にも部屋の中はさながらパーティーのような装飾が施されていた。

「いやー、お嬢様の友達が来るって急に言われたもんですから、私たち3人で腕によりをかけて料理を準備させて頂きましたよ」

「うんうん、マヤさんもすごい張り切ってたもんね〜。絶対に皆さんを驚かせるんだって〜」

「それは言わないお約束☆」

 マヤとユノはお互いにニコニコしている。

「すごいわ!流石マヤさんね!」

 アヤも感心している。

「それじゃあ2人とも、料理が冷めないうちにいただきましょう」

 私たちは使用人さんに席に誘導してもらった。


「あら?マヤさん、ミユさん、ユノさん。どうして席につかないの?」

 アヤが不思議そうな顔で訊ねる。

「いやいや、3人が楽しんでいただくように準備したんで私たちは大丈夫ですよ」

「そうなの…」


 アヤが寂しそうな顔をしたのを私とユイは見逃さなかった。

 見逃さなかったからこそ、台本でもあったかのように私たちは一芝居うつことにする。

「ねー、ユイ。私たちだけじゃこの量はキツくない?」

「うーん、そうだね…。普段、こんな量の料理は食べないからね。いくら3人いてもちょっとこれは大変だね…」

「そうだよねぇ。誰か一緒に食べてくれればいいんだけどねー」

 マヤの方に意識を向けながら私たちはベタな芝居をした。

 アヤもそれを聞いて

「ほら、ユイさんたちもそう言ってるわ!それとも私たちと一緒に食事をするのが嫌なのかしら…?」

 少し悲しそうに言うアヤに

「あぁ、いやいや!嫌って訳じゃなくて私たちが食べるために作った訳じゃないんでちょっと憚られるなーって思ってまして」

「でもそこのユノさんはめっちゃ食べたそうな顔してますよ?」

 さっきから料理をチラチラ横目で見てるのに気づいてた私はマヤにそう言った。

「はっ!バレてた!でも、美味しそう…」


 流石にこれだけ言われて観念したのか

「ま、ここまで言われたら仕方ないですね。私も皆さんと楽しい時間を過ごさせてもらいますよ!ほら、ミユとユノも席について!」

 マヤがそうやって2人に指示する。

 ミユさんは素直じゃないんだからとでも言いたげな微笑をして席につき、ユノさんは早く食べたいなーとでも言いたげな雰囲気を顔に全面的に出しながら席についた。

「それじゃあ、みんなでご飯を食べましょう!」


 合計6人と当初よりも賑やかなアヤの家の訪問になった。

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