第十八話 学校、行ってきます
目が覚めるといつも通りの天井が。
もう3回目ともなれば慣れたものだ。
現状を即座に理解して私は机に向かい、紙とペンを取り出すと紙に11桁の数字を書き出した。
もちろん、アヤの電話番号である。
私は自分の記憶力にそこまで自信が無いことに自信をもっているので、起きたら速攻で数字を書き留めておこうと夢の世界からずっと思っていた。
「よし……」
窓を開けるとまだほのかに薄暗く遠くの方から朝日の明るさが漏れ出しているくらいだった。
紙に番号を書き留めようと考えていたのは正解だったみたいだ。
こんな時間に電話をかけるのは流石に非常識すぎる。
とは言っても今から二度寝するにはもうすぐ夜明けが近い。
たまにはこの時間に散歩でもしてみようかと思って服を着替えた。
そーっと玄関を開けて外に出ると夜明け前の独特な空気と静かな雰囲気が満ちていた。
この夜明け前だけの空気感を堪能するために歩き始めた。
家の近くにある公園。
普段は午後3時くらいになると学校から帰ってきた子供たちで賑やかな公園もこの時間は嘘みたいに静かになってる。
ブランコは誰も漕いでないし、ベンチにも誰もいない。
今ならこの公園も私のもの。
そんな気持ちが湧いてくるほど誰もいないし静寂が公園そのものを包んでいた。
次第に朝日が注ぐ光量が増えてくると早朝ランニングをする人やバイクで仕事をする人たちも増え始めてきた。
軽い散歩のつもりで始めたしそろそろ帰ろうかな。
またそーっと玄関を開けて静かに自分の部屋に戻った。
部屋に入ってからそういえばと思って携帯の画面を見たが誰からも連絡は入っていなかった。
目もすっかり覚めちゃったのに、特にすることも無い。
いい時間だし朝ごはん食べよう。うん。それがいい。
階段を降りてリビングに行くとお母さんが朝ご飯を作っていた。
「あら、起きたの?目玉焼き作ってるけど食べる?」
「食べる…」
「すぐ出来るからそこに座って待ってて」
私はリビングに置いてある机と椅子に向かい座った。
「なんか今日は心なしか顔がスッキリしているように見えるけど気のせい?」
「えー、そう?」
「普段はなんか無気力な感じが出てるけど、今日はなんだか充実してる感じが出てる気がするな」
「あー、そーれはそうかも」
「まあ、何をしてるかは分からないけど、元気が出てきたのなら学校もそろそろ行ってみたら?この間もユイ君の所に言ってたんでしょ?」
「な、なんでそう思うのさ…」
「あんたが行くところなんてそこくらいじゃないの?」
「う」
まあ確かにそうだけどさ。そうだけどさ!
「この間もお父さんはあなたをいじめたくて言ってる訳じゃないのよ。ただ、やっぱり学校は行っておかないと困るのはあなたなのよ?」
「…分かってはいるんだけど……」
「まあ、試しに一回位は行ってみたら?昔とは何か変わってるかもよ?」
「じゃあ、一回行ってみる…」
そうやってお母さんと話しているとリビングのドアが開き、そこにはお父さんが立っていた。
お互いに顔を見合うが特に何か会話が交わされることもなく、お父さんも席に着いた。
お母さんの目玉焼きが出来たから3人で食卓を囲むけど、依然会話が無くテレビのニュース番組の声だけがはっきりと聞こえてくる。
すると急にお父さんが口を開き
「…さっきの話が扉越しに聞こえてきたから重ねてしつこくは言わないが、別に友達を作るなとは言わん。ただ、小さいコミュニティだけに依存するのは良くないからな。学校に行くっていうのはそういう意味もあるんだということは覚えておけ」
「はーい…」
お父さんは話し合えると既に食べ終えていたようで、食器を流しに戻すと自室に戻り会社へ行く準備を始めた。
「ほら、あなたも学校に行くなら制服着ないと!早く着替えないと遅刻しちゃうよ!」
そう言われて私も食器を流しに戻して制服に着替えるために自室に戻った。
部屋に戻ってクローゼットにしまってあった制服を見てみると、シワ一つ無い制服がすぐに目に入った。
というか制服どころかクローゼットに入ってる服が全体的に綺麗なまま掛けられている。
……まあ、確かに普段からジャージorパジャマしか着てなかったらこうなるよね。
もう何ヶ月振りになるかも分からない制服を着てみるとなかなかどうして似合ってる。気がする。
もう今日がどんな時間割かも覚えてないからとりあえずカバンにペンケースとノートと財布と家の鍵を突っ込んで家を出ようした。
すると、お母さんに呼び止められ、
「ちょっと!その髪で学校行くつもり?」
「はにゃ?」
「女の子がそんな髪で学校に行くもんじゃないよ。ほら、髪をとかしてあげるからこっちに来なさい」
もうこれこそいつ振りになるかも覚えてないくらいに久しぶりにお母さんに髪をとかしてもらうことに。
お母さんは私の髪をとかしながら
「別にね?友達を100人作る必要とかは無いけど、何なんかは作っておきなさい。お父さんも言ってたけど遅かれ早かれ他の人と関わるようになってくるんだから、少しぐらいは慣れとかないとね…よし、行ってよし!」
「うん、少しは頑張ってみる…」
お父さんの話とお母さんの後押しで久しぶりに学校に行くために家を出た。
通学路には同じ高校の人がぞろぞろと学校に向かってある人は友達と話しながら、ある人は音楽を聴きながら歩いていた。
私は友達がいるわけもないから1人ひっそりと学校へ歩いていた。
高校自体は徒歩圏内だから10〜20分程歩くと学校が見えてきた。
そういえば正門の場所とか全然覚えてないやなんて考えながら、とりあえず周りの流れに着いて行く。
正門のようなところが見えて学校に着いたんだなって実感していると、学校の前にいかにもな高級車が止まり中から1人の女子生徒が降りてきた。
しかも、その女子生徒なんか見たことあるんですけど。
そう思うや否や、その女子生徒もこちらに気づいたようで、学校ではなく私の方に近づくと、
「ねえ!あなたユキさんじゃない?そうよね?」
「……あ、ハイ。ソウデス…」
その女子生徒はアヤだった。同じ学校だったんかい。しかも同級生。どこの漫画だよ。
周りの生徒たちはお嬢様が全く見たこともない生徒に絡んでいる状況に不思議な様子だった。
「まさかユキさんと同じ学校だなんて思ってなかったわ!どうして今まで気付かなかったのかしら?」
「ネー、ホント不思議。そんなことよりとりあえず学校行こ?もう時間ダヨ」
「そしたらまた後でお昼休みの時間にお話ししましょ?クラスはどこのクラスなの?」
「えーっと…」
今日の時間割も知らないんだからクラスも忘れてるんですよ。
「いいよ、私がアヤのクラスに行くから。アヤのクラス教えて?」
「そう?なら私のクラスは1組だからお昼休みの時間になったら1組の教室まで来てもらえる?」
「うん。分かった」
そう言ってアヤと昼休みの会う予定を作って、一旦アヤと別れた。
私は迷いなくある方向へ歩みを進めた。
そう。職員室へ。だって、クラス忘れたもん。
なんとかそれっぽい方向に行って職員室のドアの前に着いた時にある事実に気づいた。
「(やっべ。担任の顔覚えとらんぞ)」
クラスを覚えてないんだから担任の顔なんて言うまでもない。なんなら名前も怪しい。割と普通な名前だった気はするんだけど…
「………なんとかなるか」
職員室のドアをノックして開けると当然だけど教師たちがいた。
さて、ここからが問題で、どれが私の担任なのかを判断する必要がある。
確か男の先生だった気がする…多分……。
ドアを開けたまま黙って職員室の入り口でキョロキョロしていると
「夜ノ
職員室に入って直ぐの席の1つから私の苗字が聞こえてきた。
「そうですケド…」
「お前の担任の佐藤だけど覚えてるか?」
そうだ、佐藤だ。やっぱ普通だ。
「名前言われて今思い出しました」
「そうか…。今日はどうしたんだ?」
「いや、ま、ちょっと気が向いたんで…」
「まあ来なかった理由とかは特に聞かないけど、出席
日数とかあるからさ。高校にいるうちはとりあえずでも学校に来ないと卒業できるものも出来なくなるからな」
なんだかなぁ。ここしばらく夢の方が楽しかったから、なんかこうやっぱ現実って疲れるなぁ…。とはいえ出席日数は誤魔化せんしなぁ…
「教室は分かるか?」
「覚えてません!」
「お前、清々しいな。職員室出たら右に進む。そしたら階段があるから3階まで上る。3回に着いたら左に曲がって2つ目のクラスな。1-5だからな。お前の先は後ろの廊下側な。OK?」
「OK」
「そこは『分かりました』とか『はい』だ。…まあ、いいや。先生たち、朝の打ち合わせがあるから先に教室に行っといてくれ。OK?」
「はい」
「よし」
失礼しましたと言って職員室を出て、サトセンに言われた通りに教室に向かった。
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