第十六話 お嬢様の初体験

「しかし、あの子は元気だね。あれだけ元気なら農作業も賑やかになりそうだね」

 ワクワクしながら急いでユイの家に着替えに向かっていくアヤの後ろ姿を見ながらアイラが呟いた。

 アイラ以外の他のみんなも着替えたり道具を準備したりして、いつでも作業を始められるようにしている。

 私はもう普段からジャージだし、ユイは私が来る前に貰ったと思う服で作業をするから、アイラと3人で他愛のない会話をアヤが来るまでしていた。


「さ!やるわよ!」

 後方から元気な声が聞こえたかと思えば、アイラに貰った服をバッチリ身につけて帰ってきたアヤが立っていた。さっきまであったお嬢様感は無くなって、村の少女感が増した。


「おー、似合うじゃん」

「うん。似合ってると思う」

「当たり前よ。私はどんな服でも着こなしてみせるわ」


 今日もみんなで農作業。作業内容はアヤが来た午前中に作業が一時ストップしてたからその続きから。

 ここではさっきも食べた(多分)キャベツとか色んな野菜をみんなで育ててる。


「そういえばさ、ここの農地しか食べ物作ってるところ見たことないけど、肉とか魚とか他の食べ物とかって無いの?」

 シンプルに気になったから思い切ってアイラに聞いてみた。


「そうだねぇ。鳥とかはここでも飼育しているけど、大きめの獣とかは定期的に狩りに行くから、その時に上手く狩れると少し豪華になるくらいかねぇ。魚は取りには行かないけど、たまに釣りが好きなやつが取りに行ってるのは見るねぇ。大量の日だとみんなに配ってる時もあるね」

「ふーん」

「特にイノに関しては狩れたらみんなで集まって宴会になったりするからねぇ。最近、宴会もしてないからたまにはしてみたいもんだけど、そう簡単に狩れるものでもないからなぇ…」

「イノ?」

「見たことないかい?茶色くて毛深くてユキよりも何倍も大きな獣なんだが…」

「めっちゃ見たことある」

 私がここに来た時に会ったやつだ。


「見たことあるなら分かると思うけど、まあイノを狩れたらその辺の獣数匹分にはなるからねぇ。ただし、その分狩るのも難しいんだがねぇ」

「そしたら牧場みたいなの作ってここで育ててみれば?」

「それは昔に考えられたみたいなんだがね。そうなると場所も必要になるし、鳥だけでも足りてるから結局は無かったことになってるんだよ」

 確かに見方によってはだだっ広い牧場で放し飼いしているみたいなものか。


「ねえー!?この道具はどうやって使うのー!?」

「アヤもやる気満々みたいだし、そろそろ作業始めようかね」


 アヤのやる気をキッカケにみんなで午前中で中断していた農作業を再開した。

 今日の作業は収穫と次回に備えて農地を耕すことが目標である。

 真っ先に道具を手に取ったアヤは農地の耕し係になった。

 私とユイは収穫を担当して今日決まっている区画の収穫をした。

 横では恐らく人生初である耕しを楽しんでいるアヤの声が聞こえるが私は知っている。

 初心者が農作業で最初からブーストをかけたらどうなるかを。


「さ!みんなお疲れ様!ユイ・ユキに加えてアヤも加わったけど、みんなちゃんと働いたからね!帰る前にご飯でも少し食べていきな!」

 そう言って私たちはアイラの作ってきたご飯を堪能した。

 横ではアイラのご飯を堪能しつつ今日の農作業にボコボコにされたアヤがいる。

「の、農作業って疲れるのね…。でも、アイラさんのご飯も美味しいから頑張れるわ…」

 ……多分、この人はそれなりの報酬があればどこでも頑張れるんだろうなぁ…。

 なんて思いながら私はアイラの作ってきたご飯を食べた。

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