第十五話 お嬢様

 ユイがキッチンで野菜炒めを作っている間に私はアヤに話しかける。


「いやー、それにしても私でも分かる大企業のお嬢様に会えるなんてね」

「ええ、私も同じくらいの年齢の人とこんなに話したのは久しぶりだわ」

「え、そうなの?」

「そうね…。普段は学校に行くにも自家用車で行ってしまうし、帰りもそのまま自家用車で送ってもらうから…。家に帰ったら基本的には暇ではないし…」


 なんだろう。予想通りすぎるんだけどそんな漫画みたいなコテコテのお嬢様が本当にいると思ってなかった。


 相槌を打ちながらアヤの話を聞いているとアヤが続けて

「でもここはなんだか落ち着いた雰囲気で居心地が良いわ!常に気を張る場所でもないしゆったりした雰囲気が良いわ」

「ふーん、そんなもんなんだね」

「そういうものよ」


 そんな感じでアヤと他愛のない話をしていると、キッチンの方から

「出来たから運ぶの手伝ってー」

 と呼ぶユイの声がした。


 3人分のご飯をリビングに運び込んで昼ごはんを取ることにした。

「本当だわ!美味しいのね!」

「ね。ユイの腕が良いんだよ」

「それほどでも…。そもそもここの野菜の質が良いんだよね」

「ここは野菜も作ってるのね」

「少し歩いた所に農地があるんですよ。どうせ午後も仕事があるんでみんなで行きます?」

「ぜひ、行ってみたいわ!」

「じゃあ、ご飯食べたらみんなで農地の手伝いに行きましょうか」


 私たちはご飯を食べ終わると食器を片付けて農地の方へみんなで向かった。

 農地に向かう途中でここに住んでるみんなとすれ違ったけど、誰も興味深々にこっちを見てくる感じは無かった。

 初対面の時は野次馬もあったからみんな集まっていたけど、姿形が似てる私とユイがいて軽く話をしながら歩いているのを見て不信感や興味がそれほど大きくなくなったからだろう。

 なんてことを考えながら農地に到着した。


「さてと、まだみんなが集まってないからちょっと早かったかな。今のうちに服でも着替えて…」

「そういえば服無いね」

「どうしましょう…」


 ユイは既に数回ここに来てるから農作業をやるような服は持ってるし私はジャージだから問題無かったけど、アヤは普通に私服だった。しかも、農作業に向いてないような白い綺麗な服。


「まあアイラ辺りに聞けばどこかで服は用意出来ると思うけど…。ちょっとユキとアヤの2人で探してきてよ」

「ま、服が無いと作業も何も無いからねー。じゃあ、探しに行こうか」

「ええ、行きましょう。ごめんなさいね」


 とりあえずは前にブレスレットを貰った所に向かおうとしよう。多分あの辺なら他にも物を売ってる(?)はずだろう。そう思ってアヤの腕を引いてあの場所に行こうとすると目の前からアイラが近づいてるのが遠くから見えた。なんか持ってるように見える。

「おーい!ユキ。おや、さっきの子も一緒かい。ちょうど良かったよ。はい」


 そう言うとアイラは手に持っていた物をアヤに渡した。それは服だった。お嬢様が着てるようなものというよりかは機能性に重きを置いた感じの服で、THE農作業着と言った感じの服だった。


「どうしたの、これ」

「この間ユキが農作業を手伝っていたのを思い出してね。それならアンタも農作業やると思ってね。その服だと汚れたら困るだろう?これなら汚れてもそんなに目立たないし、多分その服よりは動きやすいと思うよ」

「ありがとうございます!おいくらかしら?」

「ん?ああ、それならあげるよ。前に作ったは良いんだけど中々貰う人がいなくてね。サイズがちょっと小さかったのが原因だとは思うけど、家にしまっとくのも勿体無いからね。使っておくれよ」


 私はアヤの耳元で

「ここはね、お金とかが無いの。だから、みんな物を作ったら誰かにあげるか自分で使ってると思うんだ。だからここは素直にお礼を言うと良いよ」

 と囁いた。

 アヤも小さな声で

「そうなのね。分かったわ」

 と囁き返す。


「アイラさん…だったかしら?立派な服をどうもありがとう!」

「いやぁ、喜んでくれたみたいで良かったよ。作った甲斐があるってもんだね。ま、農作業頑張って」

 そう言ってアイラも農地の方に向かった。


「え?アイラも農作業すんの?」

「何言ってるんだい。私はサポーターだよ」

 そう言うとアイラは農地にある休憩スペースに向かった。


 そして、服とは別に手に持っていたカゴを置いて

「さ!今日もご飯を作ってきたからね!食べたかったらさっさと今日の分の作業を終わらせるよ!」

 とみんなに言った。


「いやー、アイラのあのカリスマ性って言うの?すごいねー。一瞬でみんなのやる気引き出したよ」

「まあ、それに伴う信頼があるんだろうね」

「私もアイラさんのご飯食べてみたいわ!」


 アヤはいそいそと準備を始めようとして、

「そしたら服を着替えてくるわ!ちょっと待っててちょうだい!」

 と言って再びユイの家に戻った。

「すっごい元気だね〜。じゃ、私たちも農作業頑張りますか」

「ん、そうだね。今日も農作業頑張ろうか」




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 集落の名前ー不明

 集落の規模ーおおよそ40〜50人

 人間3人、ゴブリン多数

 共同農地有り

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