第十四話 仮定≠真実

 やっぱり何か変だ。

 ユイと私はここに来た時にアイラ達の言ってることが分からなかったけど、話せるようになりたいって願ったから何を言っているかが分かるようになったし、その仮定をひとまず正しいものとして物体操作に繋げてきた。

 でも、ここに来たばかりのアヤはそんなことは知らない。

 なのに、アヤはアイラの言っていることが分かってたし、会話も出来ていた。


「ねえ、アヤ?アイラ達は日本語を話していたの?」

「ええ、日本語だったわ」


 私とユイはお互いに顔を合わせてそのまましばらく黙ってしまった。


 私たちが前提にしていた仮定が1つ破綻してしまった。


 そして、更に新たに1つ疑問が生まれた。


 人種が全く違うはずのアイラ達がどうして日本語を知っているのかということだ。


 そして、その疑問を解決する仮定は…

「既にここでは日本語が話されている……」

 アヤとの話の中で驚きからか黙っていたユイがそっと口を開いた。


「え、でもさ。日本語だったら私たちも初めて来たときに分かるんじゃないの?」

「うーん。ただ、僕たちは初めて来たときは動転してたからなぁ…。その点、アヤさんはただの仮装だと思ってたから比較的落ち着いていたと思うし…」


 兎にも角にもアヤがアイラ達と話せた以上は多種族と会話が出来るという仮定は成立しなくなる。

 ただ、さっき見たようにユイが水を自由に操作出来たのを考えれば、何かを念じることでその通りに現象として現れるという仮定自体はとりあえずは成立するのだろう。

 沈黙が続く中でアヤが口を開いた。


「それよりも夢の世界ってすごいのね!水を自由に扱えるなんて普通じゃ出来ないわ!」

 アヤはさっきユイがやった水の操作を見てワクワクが抑えられないようだ。

 水が自由に動いているのを見ていた時こそ驚きのあまり唖然としていたが、少し時間が経って落ち着きを取り戻せば驚き以上に興味が増してきたようだ。


「私にも出来るかしら?ちょっとそのコップを貸してもらえる?」

 そう言うとユイはアヤにコップを手渡した。もちろん中には水が入ったままで。

 アヤは自身の前にコップを置いてそのコップに意識を集中させる。

 しばらくすると水面がわずかに波打ち始めた。

 だが、そこからが長く、何度か水面が波打ちこそすれそれこそユイのように自由に水を操るレベルまでにはいかなかった。


 まあ、私ですら出来てないんだからそんな簡単に成功されると私的にもくるものがあるんだけど…。

「ん~~~~~!駄目だわ!これ以上はもう出来ないわ!」

 遂に集中力が限界に達したようだ。


「ユイさん!あなたって凄いのね!あんな簡単そうに水を操作できるなんて!ユキさんも出来るの?」

「あー…。アハハ…、いやいや私もアヤさんと同じで水面が少し波打つくらいですよ…」

「そうなの?なら、どちらが先にユイさんに追い付けるか勝負という事ね!」

「いやいや!そんな勝負だなんて」

「こういうことは相手がいた方がやる気が出るものよ。もちろん大事なのは勝敗だけじゃないわ。一緒に協力しながらユイさんを目指してみましょう?」

「確かに…。まあ、そういうことなら…」

 なんかいつの間にかアヤと仲良くなれているような気がする。

 コミュニケーション力侮りがたし!


「さて!」

 ユイが両手をパンと叩いてこちらの意識を引いた。


「ひとまず一通り自己紹介みたいな感じで済んだから、お昼ご飯でも食べようか?アヤさんもお腹空いたんじゃない?」

「言われてみれば空いてない事もないわね…。ユイさんは何か料理が作れるの?」

「ふっふっふ…。アヤさんはユイの料理のおいしさを知らないもんね。ユイの料理はすっごく美味しいんだよ!」

「まあ!一体どんな料理を作ってくれるのかしら」

「野菜炒めだよ!」





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 集落の名前ー不明

 集落の規模ーおおよそ40〜50人

 集落にいる種族ー人間3人、ゴブリン多数

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