第十二話 また1人

「ごちそうさまです」


 朝からドタバタしたけど、こっちに来てから適度過ぎる運動と一日三食食べれてる辺り現実の世界より充実してる生活が送れてる気がする。

 ビバ!夢の世界!

 ぶっちゃけ現実の世界に戻れなくても良いんじゃないかまで思ってなくもない。


 朝ご飯を片付けて、

「さて、僕は今日も手伝いがあるからそろそろ出る準備でもしないと」

「ん。頑張ってきてねー」

「君も筋肉痛を治すのを頑張るんだよ」

「えへへ」

「じゃ、行ってくるね。もしお腹減っても野菜炒めくらいは作れるでしょ。その辺の箱の野菜は適当に使っていいから」

 ユイは今日もここのみんなと作業をするために出かける。


 私もリビングから部屋に戻って机に向かう。

「さーてと、昨日の続きでもしますかね」


 せっかく時間もあるのだから物体操作の練習でもしよう。

 最初から水みたいな流動性のある物質はめちゃくちゃ操作が困難なのは昨日の練習で嫌というほど分かったから、素直にユイに言われたとおりに石から始めることにする。

 それでもそれなりに集中力を使うんだけど。


 とりあえず目の前の石に意識を集中する。

 そしたら、そのまま目線を上にずらす。

 ここまでは慣れたもので石の上下運動程度は問題なく出来るレベルにはなった。


「で、こっからが大変なんだよなぁ…」

 ここからやる練習は上下だけじゃなくて、もっと自在な動きな練習をする。

 そうなると上下運動みたいな単調な動きじゃなくなるから、その分、集中力も必要になる。

 結果、めっちゃ疲れる。


「でもユイはそれを水でやったからなぁ。なんかもうあれはセンスな気もするけど…」

 と言いつつも、他にやることがある訳でもなし、練習の続きをしようと思うした時に、



「誰かー?誰かいないのー?」

「え?」


 誰の声だ?

 口調的にユイじゃない。

 じゃあアイラか?

 いや、アイラもこんな口調じゃないし、ここに住んでるのに『誰かいないのー?』って発言はおかしすぎる。

 だからアイラ以外のゴブリンでもない。


 そうなると考えられるのは人間しかありえない。

 この世界でユイと会えたのだからおかしな話じゃない。

 ただ、聞こえてきたその声は私がこれまでに聞いたことのない声だった。

 私はまだ少し筋肉痛の残る体を動かして声の聞こえてきたであろう方向へ向かった。

 心なしか声が聞こえたであろう方向に向かっていくと少しずつ他のゴブリンが増えていってるような

 気がする。


 そして、何やら人混み、いやゴブリン混みが目に入った。

「絶対あそこだ…」

 私は不安な気持ちと好奇心を持ってそこへ向かった。

 私がそこに着くと1人の女の子がアイラ達に囲まれていた。


 女の子は私と目が合うと

「まあ!あなたは仮装してないのね?」

「え?仮装?」

「だって、ここのみんなは人間以外の見た目なのに、あなたは人間のままじゃない」

「いや、仮装じゃなくてゴブリン…」

「あ!あなたはイベントの関係者なのかしら?それなら仮装してなくて当然ね!」

 この人はアイラ達のことを仮装している人だと思っているのか。


「で?あんたはユキの知り合いなのかい?」

 アイラが女の子にそう尋ねる。

「ユキ?知らないわ?よく聞く名前だけど私の知り合いじゃないと思うわ」


 あれ?何かおかしくない?

 何でこの人アイラと普通に話せてるの?


「おや、そうかい。ユキやユイと似たような見た目だったからてっきり友達かなんかだと思ったよ」

「この方がユキさんという方なの?よろしくね。私は御影絢って言うわ。アヤって呼んでくれて構わないわよ?」

「は、はぁ」

「それにしてもここの人達はみーんな同じような仮装をしているのね。なんだかみんな楽しそうね!」


 えーっと、どうしよう。

 きっと後でユイとも相談することになるんだろうけど、もう呼んできちゃおうかな。

 でも、体痛いしなー。

 あ。


「なんか騒がしいね。何かあったの?」

 ユイがゴブリン達と一緒にこちらに向かって来る。


「あれ、ユキじゃん。アイラもいる」

「おや。ユイじゃないか。この子はアンタの知り合いじゃないのかい?」

「やあ、アイラ。どの子のこと?」

「この子だよ。ユイとユキに見た目が似てるもんだからさ」


 そう言うとユイはアイラの方に向かって行って、アヤの目の前に立った。

 しばらくアヤのことを見ると

「いや、知らないな」

 と言った。


 アヤもアヤで

「まあ。あなたもユキさんと一緒でこのイベントの関係者なのかしら?」

 とユイに言った。


「あー…、まぁ。はい」

 流石にユイも歯切れの悪い返事をした。


「日本にもこんなテーマパークがあったのね。ガチャガチャしてないし、良い雰囲気の場所ね!」

 アヤもアヤでここが日本だと思っている。

「でも、困ったわ。朝、起きたらここにいてメイドさんも1人もいないのよ。ユイさんとユキさんは見てないかしら?」

「見てないです」

 メイドさんもいるらしい。そりゃ喋り方もそっち側なわけだ。


「あれ?御影絢ってあの御影グループの?」

「ええ、そうよ」

「御影グループ?」

「ほら。よくCMのスポンサーに出てる」

「あー、あの御影グループね……。ちょええええええ!?あの御影グループ!?」

「まあ!面白い反応ね!」


 御影グループと言えば、色んな業界の親会社として1大財閥となっている、日本に留まらず世界的に超有名なグループだ。で、目の前にいるのがそこのお嬢様ってこと。


 すると、ユイが口を開いて

「あの、1つ聞きたいんですけど、なんでそんな大企業のお嬢様が1人でこんなところにいるんですか?」

「それがね?分からないの。起きたらこの状況なのだもの。あ!もしかしてこれが噂のドッキリというものかしら?」

「そうなんですね…」

 この人はまだここが現実でドッキリを受けている最中だと思ってるみたいだ。

 まあ、そりゃあ、私たちがいるんだから夢の中とは思わないよね。

 だって、会った事も無い人と夢の中で会って会話が普通に成立してる辺りは現実感があるし。


「んーーと。そしたらいったん僕らと一緒にこっちに来てくれますか?」

「ええ、構わないわ」


 なんかこのお嬢様、順応性が高いのか警戒心が薄いのか。

 とにもかくにも厄介な状況に発展する前にアイラ達と離れさせることに成功した。

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