第九話 想像
「で?ユイは何作ってんの?」
「サラダ。とりあえず何か食べたいでしょ。これならすぐに出来るから」
「分かってるぅ~」
野菜を切り終え見栄え良く盛り付けるとユイは私にサラダを手渡す。
「じゃ、これ運んでね」
「了解です!」
私はさっきの疲れはどこに行ったんだと言わんばかりにいそいそと料理を運ぶ。
お腹ペコペコな私にとって作ってもらう以上は何が出てもありがたかったけど、思ったより本格的に料理が出てきそうでワクワクした。
「あ、お水とかある?」
「あるよー。あ、そっちに確かコップがあったと思うんだけど…」
「えーっと……。あ、あった。そっち持ってくね」
すると、キッチンの方に向かう私をユイが制止する。
「大丈夫、大丈夫。そしたらコップを机に置いてくれる?」
「え?うん。置いたけど…」
ユイは料理の手を止め体をこっちに向けて腕を伸ばした。
すると、キッチンの方から水が溢れだしそのまま机の上のコップの中へと流れ込んだ。
「……ッ!」
「あれ?ビックリした?」
「いや、するでしょ!」
さも当たり前のように言うユイに思わずツッコんでしまった。
水が?溢れて?宙を舞って?
は???
「目の前でありえないことが起きたのに驚かない方がおかしいでしょ!」
「でもそれを言ったらアイラ達と話せるのもありえないよ」
「それは……」
確かにそう。アイラと話せるのも本来おかしな話だ。
「それに会話が出来たっていうのも今の現象のキッカケでもあるんだよ」
「え?どういうこと」
水が宙を舞ってグラスに注がれたこととアイラ達みたいな異種族と話せることに共通点が?
どう考えてもありえないことって共通点しか分からない。
キッカケとか皆目見当もつかない。
分からなすぎてユイの方を向いたままフリーズした。
「ま、まぁご飯も出来るから詳しい話は食べながらでも」
そう言われフリーズが解けると今度は急に空腹感が再び私を襲ってきた。
すっごい良い匂いするんだけど。
ユイは手際よく料理を作り終え机に並べ終えると机を挟んで私の前に座った。
ユイが作った料理は畑で採れた野菜を使ったサラダと丸焼きの肉。
この肉ってどっから取ってきたのだろう。
これまでに会った肉って言うとあのデカいイノシシしかいないけど、あれって狩れるものなのかな。
ま、いっか!
「もーお腹限界!いただきまーす!」
丸焼き肉にかぶりついた。
めっちゃ美味い。
何だこれ。
現実とは全然違う。
「じゃあ、さっきの話の続きをしようか」
「さっきの話……。あ、水のことか」
「そ。簡単に言っちゃえばカラクリ自体はアイラ達と話せるのと同じだよ」
「お、おおお?」
同じって言われてもどうもピンとこない。
「ユキはさ、アイラと話せた時にどんなことした?」
「え?あの時は確かユイに言われて喋りたいって思ったから…」
「そう、それだよ。僕がさっきやったのもそれと同じ理屈」
「水を動かしたいって思ったってこと?」
「まあ、簡単に言えばそうだね」
とは言っても相当難しいことをやっていたってことは私でも分かる。
だって、現実の世界ではアリエナイことをやったんだから。
水を触らないで動かすってどういうことよ。
え、でも待って。ということは。
「アイラ達と話せるのと水を動かせることの共通点が、『そうなりたい』と願ったからってことは…」
「うん。ほぼ間違いなくユキが思ってる通りだと思ってる。さっき見せた水の現象も僕が頭の中で腕からコップまでの軌跡が繋がる様にイメージした結果なんだよ。だからほら」
そう言ってユイが目の前のコップに目を向けたかと思うと、コップの中の水がそのまま持ち上がり空中で円柱の水になった。
「これも同じ。こうなるように僕が頭の中で考えた結果が現象になってるの」
いや、理屈は分かったし、ユイの言ってることも分かる。
ただ、やっぱり頭が追い付かない。
「え…?うん……。いや、理屈は分かったけどそんな簡単に出来るの…?」
「いやー、僕も出来るまでちょっと時間はかかったけど、アイラと話すことが出来たんだから試しにやってみなよ」
「まあ、そう言うなら…」
ま、物は試しって言うしね。
どうせ初めからさっきみたいなことは出来ないと思っていたから、とりあえず最初はコップの水の表面が波打つのをイメージして……
するとコップの水の表面がわずかではあるが波打ち始めた。
「おっ…!」
しかし集中力が切れると急激に疲れを感じ、水も元の状態に戻ってしまった。
「うわ、すっごいキツイよ!」
「そりゃあね。現実の世界ではどうやっても出来ない事をしてるし、集中力も段違いだからね」
「さっきみたいなこと出来るのすごいね」
「僕も最初はユキと同じ感じだったよ。それでもコツさえつかめればユキも直ぐに出来ると思うよ」
「そんなもんかぁ…」
「そんなもんだよ」
フフッと2人で笑って
「さて、もう少しこの話をしてもいいんだけど、それだとせっかく作った料理が冷めちゃうからね。とりあえずご飯を食べてからにしようか」
ユイは机の上のまだ並んでいるご飯に目を向けてそう言った。
「そうだった!まだご飯食べてる途中だったじゃん!こんな美味しそうな料理を冷めてから食べるなんて勿体ないね!」
そういって目の前の肉に再びかぶりついた。
「う~ん。やっぱり美味しいねぇ」
この世界の肉が美味しいのかユイの料理が美味しいのか、それとも両方なのか。
私には分からないが、とりあえずこの世界に来て初めて料理とも言えるものにありつけた上に、こんな美味しいものを食べれた感動を噛みしめてご飯を食べ終えた。
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