第八話 Give and Take
明らかに私が住んでいる世界ではない。
うん、そうだ。
だって、家を出てもひっっっとりも人間がいないんだもん。
なのに、3回目にしてもうこの世界に慣れ始めてる。
慣れって怖いな。
そういえば、ユイはどこに行ったんだろ。
なんてことをふっと思いながら家の外に出る。
「ま、どこにユイがいるかは分からないんだけど」
とりあえず集落の中をブラブラしてみよう。まだ見れてないところもあるし。
「あ」
ぶらぶらしているとアイラが歩いているのが目に入った。
「おーーーい!」
「おや。ユキじゃないか」
アイラの方も気づいたようでわざわざ振り返ってくれた。
「うん、おはよう」
「おはよう。今日は何をしているんだい?」
「んーと、ユイを探しながら、まだここで見てない所を回ってるところ」
「そうかい。ユイなら確か農地の方に向かっていたと思うけど…」
「そうなの?そしたらそっちの方に行ってみるね!」
ばいばーいとアイラと別れを済まして、農地の方へ向かった。
農地に向かうとユイと何人かのゴブリンが集まっていた。
「おーーーーーーーい!」
「あ」
「アイラにここに来てるって聞いたから来てみたけど、何してんの?」
「これから農作業だよ。僕は手伝いだけど」
「えー、楽しそうじゃん。私もやりたい」
「そしたら彼らに話してきなよ。道具とか諸々あるから」
ユイと一緒にいた彼らに農具一式を借りて私も農作業に参加することに。
「で?今日は何をやる予定なの?」
「今日は田植えですね」
ユイと一緒にいたゴブリンに今日の農作業内容を聞く。
農作業をするなら軽装の方が動きやすいし汚れてもそこまで困らないってことで、一旦ユイの家に帰って着替えることに。
前にアイラから貰った服がまだ余ってるらしくそれに着替える。
「ただいまー。さ、やろうか。って、機械とかそういうのは…?」
ユイはにっこり笑うと
「さ!行こっか!」
楽しそうなユイに手を引かれて私も農作業に参加した。
ま、他にすることがある訳でもないし…
なかなか日常生活では経験できないって考えればいいか。
「いやー、助かりますね。こういう作業は人海戦術が有効ですから」
「そんな変わるもんかね」
「特別な技術とかは必要ないからね。いた方が効率上がるよ」
雑談しながら私とユイとゴブリン達で田植えをしていく。そう、田植えを。
「たまにはこうやって普段しないことをしてみるのもいいね」
「意外と食わず嫌いなだけで実際にやってみると面白い時もあるよね。ま、僕はそれだけじゃないけど」
「そうなの?」
「ほら、前にも言ったじゃん。僕の家を作るのを手伝ってもらう代わりに何か手伝うって約束があったからね。そうじゃなくてもここで過ごしていくには協力は不可欠なんだけど」
「あー、なんかそんな話聞いたね。そしたら私ももっと頑張らなきゃ。私もそこに住まわせてもらってる以上はね」
「頼もしいじゃん」
いつに間にか作業も一段落ついたところで、みんなで田植えをして一段落がついたところで休憩することになった。
「いやー、助かったよ!どうしてもこの作業は腰が痛くなるからね。1人でも増えてくれて大助かりだったよ!えーっと、君の名前は……」
「あ、ユキです。ユキって言います」
「あー!そうだった、そうだった。いやー、アイラからもユイの友達ってことで話は通っていたんだけどね。明るい良い子だって言われてたけど、今日の作業が出来るってことは中々気合と元気もある子だねぇ!」
「あ、アリガトゴザマス…」
すると一緒に休憩していた他のゴブリンが私たちに話しかけてくる。
「そういえばせっかく2人集まってるから聞きたいんだが、ユイとユキは何処から来たんだ?」
「あえーっとぁ……」
素直に言うなら別の世界から来たって言うんだけど、そんなこと言える!?いやいや、無理無理。そもそも私たちだってこの現状を完全に把握しているわけでもないし、でもでもこのまま何も言わないでいるのもそれはそれで変だし……
なんて1人でわちゃわちゃしていると、
「僕はここから遠く離れたところから旅をしてきたんです」
「え…?」
ユイが突然そんなことを言うもんだから困惑していると
「ユキもそうだよね。旅をしててたまたまここに着いたんだよね」
と言ってきた。
当然、まだ困惑していたがとにかくここは話を合わせようと
「う、うん!そうそう!私も旅をしてたらたまたまここに着いたの!いやー、まさかユイに会うとは思ってなかったからビックリしたなー!」
「ほー、そうかそうか。まー、でもどうしてここに寄ろうと思ったんだ?」
「んー、どうしてって理由がある訳じゃないんですけど、単純に僕の旅の目的にこが合っていたからなんですね」
また、ユイが話しだした。
「僕たちのいたところに面白さが感じられなくなってから、何か面白い場所はないかと探し始めたのが旅の始まりなんですよ。それで旅を続けてたらたまたまここを見つけただけです」
「ほー、そうか。この辺は俺たち以外は獣くらいしかいないだろ。そうなるとだいぶ長いこと旅をしてきたんでねえのか?今度、話でも聞かせてくれよ」
「そうですね。今度、時間があれば」
そうだな!と1人のゴブリンが言う。
「今日の仕事の大変な作業はもう終わったから残りは俺たちの方でやるか。ユイはどうか分からんがユキは疲れてると思うだろうから、ゆっくり家で休んでくれ」
「そうですね…。もう足に疲労が溜まってたんでこれ以上作業があったらどうしようかと思ってたところでしたよ……」
「ハッハッハ!それでも初めてであれだけ出来れば十分よ!しっかり休んで疲れを回復してくれ」
そう言ってゴブリンたちは残りの農作業を再開した。
「じゃあ、僕たちは帰ろうか」
「うん」
足にまあまあな負担を感じながら家に帰ることに。
その道中。
「ねえねえ?」
「うん?」
「どうしてさっきは本当のことを言わなかったの?」
私はユイに尋ねる。
「別に本当のことを言わなかったわけじゃない」
とユイが返した。
「考えてもみなよ。あの場で急に「僕たちは別の世界から来たんです」なんて言ったらみんなの混乱を招くし、最悪の場合は不信感を受けかねないと思ったからだよ」
「それはまあ」
「それに嘘はついてないしね。現実の世界も考えようによっては遠い世界でしょ」
「う、うーん。そんな気もする…」
「ま、これ以上の話はご飯でも食べながらゆっくり中で話しようよ」
気づけば私たちはいつの間にかユイの家の前に着いていた。
「ただいまー!うぅ…ベットがないのが切ない……」
「はいはい、そこは布で我慢ね」
一緒に家に帰って来たはずなのに、ユイはいつの間にか持っていた毛布を私に手渡す。
「もうクッタクタなんだけど…。なんでユイはそんなに元気なの…」
「ユキよりも先にここに来てるからね。今日以外でもみんなの手伝いはしてたし」
「あぁ…もう動けないまである。毛布持ってきて…もう寝れる自信ある…」
もう瞼が閉じる寸前までいった時に私のお腹が雄叫びをあげた。
「ふっ…ふふっ…、そしたらとりあえずご飯食べようか」
ユイに軽く笑われた。
「笑うなよー!!」
もうなんかちょっと恥ずかしいんだけど。
「さ、ご飯作りますか。何か食べたいものとかある?」
「んーん。もうここまでくるとぶっちゃけ何でもいい気がする……」
「おっけー。じゃ、何か適当に作りますか」
「果たして私の舌を唸らせることが出来るかな?」
「もうすっかり元気になってるじゃない」
なんてユイと笑いながらご飯が出来るのを待った。
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