第六話 意識と夢の混濁
そう。目が覚めるとそこには見慣れた天井があった。
前に気絶した時と同じで直ぐにここが夢の世界ではないことに気づいた。
「そしたらやっぱりあれは夢の世界な………」
そう言いながら前に目覚めた時に夢の世界の痛みをこっちの世界でも引き継いでいたことを思い出す。
「ちょっと待ってよ…?向こうの世界と繋がっている可能性があれば、こっちの世界にいるユイとたまたまあっちの夢の世界でも出会っているってことになる……?」
私はそう思うや否や自分の部屋を飛び出し、そのまま家を出た。
今が何時なのか、家には誰かがいるのかそれともいないのか。
そんなことは今の私には些事に過ぎなかった。
私は急いで玄関へと走り出し、ユイの家に向かうために家を飛び出した。
外に出ると太陽の陽射しが痛いほどに私の体に降り注ぐ。
「眩しい……!」
こんな快晴の日に外に出るなんて一体いつぶりだろうなんて思いながら、私はユイの家に駆けだした。
しかし、ずっと引きこもっていた私にいつまでも走る続ける体力が残っている訳もなく、次第にペースは落ち、遂には歩いて向かう事にした。
「まあ、別に急がなくても時間はあるし……」
そう考えることにして昨日の夢の事を一旦整理することにした。
昨日の夢の中での大きな出来事は大きく3つあった。
1つ目は社会があったこと。
それほど大きな共同体でこそなかったが、集団生活や共同農地があったことからも確かにあの場所には社会があった。
こっちの世界に比べれば発展途上の段階ではあったが。
2つ目はゴブリンと会話が出来たこと。
夢の世界でユイに教えてもらうまではそういった超能力の類は考えもしなかったから、あの時はビックリした。
いや。初めて夢の世界に行った時も『何か出ろ!』って考えたな。
何であの時は何も出なかったんだろ。不思議。
3つ目は私以外の人間、つまりはユイがいたこと。
ゴブリンがいて彼らと会話が出来ただけでも十分に凄い事ではあるとは思うが、それ以上に自分の夢の中にこっちの世界の人がいるなんて夢にも思っていなかった。夢だけに。
「そう考えると昨日は初めて夢の世界に行った時と比べて、たくさんのことが起きすぎでしょ…。てか、あっつい……」
なんてことを考えている内にユイの家の前に着いていた。
「そういえば何も言わないで来ちゃったな…。まあユイの事だからいるとは思うけど」
ユイの家のインターホンを押してしばらくするとドアが開き、ユイの顔が見えた。
「お、来たね。昨日のあの感じだと来るかなーとは思ってたけど」
「さっすがー。理解が速くて助かるけどとりあえず家に入れてもらえるかな…。あっつくて…」
どうぞ、と言ってユイは私を家の中に招き入れた。
「先に部屋に行っといて。僕は飲み物でも持っていくから。麦茶で良い?」
「何でも助かる…。とにかくキンキンに冷やしたやつを…」
ユイはキッチンに飲み物を、私は二階のユイの部屋に向かった。
「はい。キンキンに冷えた麦茶とお菓子も少し持ってきたよ」
「あ、ありがと」
私は麦茶を貰うや否や一口でそれを飲み切った。
「ふぅ~~…、生き返った~」
「さて、生き返った所で話を聞こうかな。大方、昨日の夢のことでしょ」
「そうそう。その言い方だと昨日私が会ったユイは私の夢が創ったユイじゃなくて本物のユイだったってこと?」
「そうなるね。僕もあの世界は夢の世界だとは思ってたけど、まさか夢の中でユイに会えるとは思わなかったよ」
「夢の中で会ったのがお互い本物だったってことはさ…」
「うん、そうだね。僕たちはそれぞれ独立した夢を見ていたんじゃなくて、少なくとも僕ら2人の夢の世界は共有されているってことが分かったってことだね…」
私の方は驚いているっていうのに、ユイはなんだか落ち着いた感じで話してくる。
「少なくともってことは、他にも共有している人がいるってこと?」
「そこまでは分からない。でも、僕ら2人が共有出来ている以上は、他にも共有している人がいてもおかしくない」
「確かに…」
それでも夢の世界がユイと共有されているかもしれないことに少し驚いたが。
「そういえばユイは夢の世界には何回行ってるの?」
「僕?僕は4回くらいかな。あの街自体には2回目には着いていたけど」
この男。意外と経験豊富だった。
「ふーん。ちなみにアイラ達と話せることに気づいたのはどの段階?」
ユイは少し考え込む。
「あー。あれは確かユキと同じような状況になってさ。話せないとヤバイと思ったから、一か八かでアイラ達と会話が出来ることを強く願ったら彼女たちが言っていることが断片的だけど理解出来たんだよね」
「あ、だから私に初めて会った時も同じようなことを言ったんだね」
「そういうこと。まあ、あの時は僕の仮説が正しいかを判断したかったっていうのもあった。本当に願ったことが原因なのかを」
昨日の夢での大きな出来事の1つだった会話の問題はとりあえず解決した。のかな?なんて思いながら、私は初めて夢の世界に行った時のことを思い出す。
「あ、でも私も初めて夢の世界に行った時にでっかいイノシシに追いかけられてね。その時にヤバイと思って「何か出ろ!」って強く思ったんだけど、なーんも出なかったんだよね。何が違ったんだろ」
「うーん。それに関しては実際に僕が見た訳じゃないから分からないなぁ」
それもそうだ。ユイだって夢の世界に行ったのは4回くらいなんだから。何でもかんでも分かってたらそっちの方が凄いというものだ。
「そしたら、僕からも1つ聞いても良いかな」
「うん?何?」
「ユキはさ、毎回寝るたびに夢の世界に行ってる?それとも何回かは別の夢とかも見てる?」
えーっと、と言いながら私は初めて夢の世界に行った時のことを思い出す。そして初めて夢の世界に行ってからは寝るたびに夢の世界に行っていたことに気づいた。
「初めて夢の世界に行ってからは毎回寝るたびにあっちの世界に行ってるかも…!」
「そっか。ユキもなんだね。実は僕も初めて夢の世界に行ってからは寝るたびにあっちの世界に行っていてね。たまたまと言ってしまえばそれっきりなんだけどユキも同じなのであれば何か理由があるのかなって」
「うーん」
その後、2人で少し考えてみたけど、結局その理由は分からなかった。
そして、私とユイは昨日の夢の世界のことや夢の世界に関しての情報はひとしきり共有し、その後は夢の世界以外の話をしたりお菓子を食べていたら次第に窓の外が暗くなってきていた。
「あ、もう外も暗くなってきたからそろそろ帰るね」
「あれ。いつの間にかこんな時間に。近くまで送ろうか?」
「大丈夫。1人で帰れるよ」
「じゃあね。バイバイ」
「うん。またね」
私はユイと夢の世界の情報を共有出来たことである程度はあの突飛な夢の世界に関して整理出来た気持ちになった。
それでもこの2日で起きたことは確実にこれまでの人生の中でも衝撃的で濃密な2日であったことは間違いない。
私は今でもこの2日のことが未だに信じられないでいた。
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