第五話 共有
「ただいまー」
「ん、おかえりー」
ちょっと遠くからユイの声が聞こえた。
「ん?ユイどこにいるのー?」
「こっちだよー」
私はユイの声がする方に向かっていく。
そこはキッチンだった。
「ほえー。この家ってキッチンまであるのね…」
「そりゃまあ…。台所と風呂とトイレは流石に…」
「そんなもん?」
「そんなもん」
ふーんと言いながら私はユイに近づく。
「で?で?何作ってんの?」
なにやらユイがフライパンで何かを炒めていたので気になった。
「野菜炒め」
「え、この辺って野菜あんの?」
こっちの世界に来てから食べることが出来そうなのはあの時のイノシシ位だったから、野菜があるのにちょっと驚いた。……あのイノシシって食べれんのかね。
「いや、そりゃあるでしょ。さっき農地の方は見に行かなかったの?」
「農地もあるの?ここ」
「家出て少し歩いて左曲がって真っすぐ行くと突き当りにあるんだけど」
「あ、私多分曲がる所でそのまま真っすぐ行ってるわ」
そりゃあ見てない訳だ。
しかも、時間的にも多分今日はサッと見て終わろうと思ってたし。
「そこで色んな野菜育ててるんだよ。そこの箱開けてみなよ」
そう言われて、そこの箱を開けてみるとキャベツのようなというか、キャベツが入ってた。
「…野菜は普通の大きさなんだね」
なんかホッとしたようななんか損したような。
「ま、まぁまぁ。大きいからって良いとは限らないから」
なんて話している内に野菜炒めが完成して、ユイと一緒に夜ご飯という流れになった。
机の上に置かれる野菜炒め。
こっちに来てから初めてのマトモな食事。
なかなかどうしていい香りが食欲をそそる。
恐る恐る一口食べてみることに。
「あ、美味しい」
「でしょ?」
普通に考えて普通の食事なのに普通じゃない事が立て続けに起きてたものだから、普通の事が最早普通じゃないみたいな。
こっちに来て初めてのマトモな食事に安心したからなのか2人で食べたからなのかは分からないけど、すごい勢いで野菜炒めが二人の胃の中へ消えていく。
「そういえばさ」
ご飯を食べて落ち着いた頃に私はユイに話し出した。
「ここってお金とかってないの?」
私はさっきのブレスレットの件をユイに話した。
「さっき良さそうなブレスレットを家の前に並べてる所があったから買おうと思ったら、なんやかんやあって貰ったんだよね。まあ、お金持ってなかったからどっちみち買えはしなかったんだけど』
「ああ、それね」
水を1杯飲んでユイが話し始める。
「ここはお金ないんだよ」
「あ、やっぱり?」
心の中では(まあ、そうだろうな)とは思っていた。
でも、いざそうやって断言されると。
「アイラにもそれとなく聞いたことはあるけど、どうもお金的なものの存在がここには感じられないんだよね」
そんなことあるのかと思いながらユイの話を聞く。
「それに関連してさ。さっき、農地があるって言ったのは覚えてる?」
「覚えてる」
流石にそれくらいは覚えてる。
「ここの人はそこで作ったもので食を補ってる。前に肉も見たことあるから狩猟もしてるんだろうね」
「さっきのキャベツも」
「さっきのキャベツも」
ふーん。
「だからお金作る必要がないんじゃないかな。共同生活してるんだからわざわざ買うこともないし」
「じゃあこのブレスレットについては?」
「ユキがさっき貰ったっていうブレスレットも売っているんじゃなくて、単純に欲しい誰かにあげるために並べていたんだと思うよ」
「ふーん。なんでだろ」
「そこまでは分からないけどね。多分、自己満足か趣味だとは思うけど」
ふう。と、息を吐いてユイは
「彼らはお金の為に何かを作って売ってるわけじゃなくてあくまでも自分の楽しみの為に何かを作っている。食料とかは平等に分配されている。それほど大きくない集団だから出来る生活だけどさ。皆それほど不自由な感じは無いし、そんな落ち着いた感じの生活が少し羨ましく見えるや」
確かにここの雰囲気はどこか心落ち着く感じがあった。アイラもまだ会って数回の私に明るい雰囲気で気楽に接してくれたし。
「さて、外もすっかり暗くなったことだし、僕はもう寝ようと思うけどユキはどうする?」
ふと外を見ると帰って来た時よりも街中のランタンの灯が闇の中で輝いていた。
「そうだなぁ…。今日はここに来るまでに色々ありすぎて疲れたから私も寝ようかな」
「分かった。ただ元々ここは僕一人が住む予定で建てたから、寝具・寝室は一つしかないんだよね。一応、布とかはあるからそれをかけることは出来るけど…。狭いけど僕と一緒の布団で寝るか、床に布を敷いてそのまま寝るかなんだけど…」
流石に友達と言えど同じ布団に寝るのはなんだかなぁと思い、
「いいよ、私は床で寝るから」
「分かった。そしたら布を何枚か持ってくるから」
そう言ってユイは何枚かの布を私に渡して
「電気消すよー」
布を敷き終わったら灯りは消され私は眠りについた。
そして、目が覚めると見慣れた天井が再び私の目に映りこんだ。
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