第二話 既知のような未知との遭遇
目が覚めるとそこには見慣れた光景があった。
見間違えるはずがないほど見慣れた光景が。
その光景はカーテンが閉められ机の上には必要最低限の物しか置かれていないような何とも殺風景な部屋である。
カーテンを開けるとサラリーマンや学生、朝早くに散歩をする老人などが道を行き交っていた。
当然ながらあの大きなイノシシはいない。
「夢だったのかなぁ…。それにしてはやけにリアルだったような……」
それでも夢で良かったと安堵してカーテンを閉め、もう一眠りしようと再びベッドに向かった。
ベッドに乗って横になろうとした時に腹部に鈍い痛みを感じた。
「あれ……?」
もちろんどこかにぶつけた記憶は無いし、傷つけられた記憶も無い。
が、そこでふと夢の事を思い出した。
そういえば夢の中でイノシシに吹っ飛ばされて思いっきり体を地面にぶつけたなと思い出す。
「そんなまさかね…」
私の頭の中に一つの仮説が立てられた。
目が覚めた事からあれは夢の話だと思ったが、本当にあれは夢だったのだろうか?
やっぱり私は異世界に行っていたのではないか?
という仮説である。
ただ、そう考えるには不審な点がある。
仮に異世界に行っていたとしよう。
そうであるならば少なくとも私の体は実態があったわけで、最後の記憶はもう死を覚悟していたし骨も折れていたような気がする。
それなのに私の体は自分でカーテンまで辿り着く事は出来たし、あれほどのダメージが腹部の痛みで済むようだったとも考えにくい。
そうなると、やはりあれは異世界ではなくて体が痛いのは寝ている時にどこかにぶつけたのだろうと考えるのが妥当であると思って、痛みはそれで解決したものとした。
「さてと」
改めて私はベッドに寝転がった。
私がベッドに戻ったのはもう一眠りするためであった。
自分の部屋というのは最高だ。
誰に邪魔される訳でもなく、社会の空気感に無理に自分を合わせる必要もない。
私はこの部屋にいるだけで最大の幸福を得られる。
ああ、あとはあれだ。
気心の知れた少しの友人がいれば尚良い。
私と気持ちを共有してくれたり一緒にいても苦にならないような友人がいるとはとはなんと素晴らしいことか。
私は幸福感に満たされながら再び眠りについた。
「……」
どこかで聞いたことのあるような声が聞こえたような気がした。
そうして目が覚めるとどうだろう。どこか見た事のある風景が広がっていた。
どこまでも澄み切った空とどこまでも広がる草原が。
「マジか…」
そう。眼前に広がる景色は私が昨日夢で見た景色そのものであった。
「じゃあ、やっぱり昨日私が見たのは夢だったのか…」
そう考えていると私はある事を思い出した。
今、私の眼前に広がる景色は昨日とまったく同じものである。
ということはだ。
私は遠くの方に目を凝らした。
そうすると、やっぱりいた。イノシシ。いた。
「やっば…」
私は直ぐにイノシシとは正反対の方へと駆けだした。
「いくら夢とはいえもうあんな痛い思いはこりごりだね」
そうして私は視界からイノシシが消えるまで走り続けた。
数分走った辺りで視界からイノシシは消えていた。
私は息を整え状況を整理する。
二日連続でここまで全く同じ夢を見るというのは中々考えにくい。
それに異世界である可能性も低くなった線を考えると、先ほどの腹部の痛みはこの夢とリンクしていたのではないか?とも考えられる。
「とりあえず状況が掴み切れない内はヘタな行動はしないようにしよう。うん」
現実とのリンクがある可能性がある以上は迂闊な事は出来ない。
それにこの世界で知っている事と言えば、あの大きなイノシシがいることくらいしかないので、とりあえず情報を少しでも得なければと思い私は再び歩き始めた。
「とりあえずアイツと会うのはヤバいから、とにかくアイツとは反対の方に行かないと…」
そう思いながら少し歩き続けたが、どこまで行っても目の前に広がるのは澄み切った空とどこまでも続く草原。
「夢だったらさぁ、そろそろ誰かに会っても良い頃じゃないの…?」
そんなことを呟きながら歩き続けると、これまでとは違うものが目に入った。
ここまでは草原が広がっていたのに、そんな草原に急に舗装された道が見えてきたのだ。
「あれって自然には出来ないよね…。ってことは誰かいるんじゃない…?」
自分以外の誰かの存在に期待しつつも、それと同時に人じゃなかったらどうしようという恐怖を抱きながらも、それでもこの道を辿らない訳にはいかないと思い舗装された道を辿っていく事にした。
「おやぁ…?」
そうしてしばらくの間、舗装された道を辿っていくと建築物が見えてきた。
それも一つではなく数個建っているように見える。
「集落か…?」
その集落には門や監視などは見当たらなく、私は恐る恐る集落へと近づいた。
すると、視界に人影が一つ見えた。
私は咄嗟に建物の陰に身を潜めた。
それも私の視界に入ったのが人ではなく、ゴブリンのようなものであったからだ。
もしこの集落が人によって作られたものであれば話が通じるかもと思ったが、相手が人外であるのならば話は違う。
「(ゴブリンいるのか…。ってことはやっぱりこの世界って異世界…?)」
なんて事が私の頭を駆け巡り混乱していると、視線が私に向けられているような気がした。
私はフッと視線を感じた方に目をやると先ほどのゴブリンが近づいてこちらを覗きこんできていたのだった。
「(終わった)」
そう私が思ったのは、先日のイノシシのようにこちらの世界で話が通じない相手は問答無用で襲ってくると思っていたからである。
しかし、私に近づいてきたゴブリンは私を襲うことはなく、一通り私を眺めた後に集落の中の方へと姿を消していった。
「助かった…のかな……?」
そう安堵しているのも束の間。
ゴブリンが向かっていった方から再び人影が見えた。
先ほどのゴブリンが仲間を呼びにいったのか。
いずれにせよ万事休す。
もうダメだと思いながらも目の端にあるものを捉えた。
その一瞬を見逃さずあるものに目を向ける。
「大丈夫?」
と、そのヒトは私に話しかけてきて、やっと話が通じる人に出会えたと思ったのと同時に
「ユイ…?」
と、私は思わず言葉を漏らすのであった。
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