第三話 会話

「え…ユイ……?」

私がそう言葉を漏らすと、ユイの方も

「ユキか…?どうしてここにいるんだ?」


それはこっちのセリフでもあるのだがと思いつつも、

「いや、それがさ、目が覚めたと思ったらだだっ広い草原にいたもんでさ。ここは一体どこなんだろうって散策がてら歩きまわってたら、なんか舗装された道が見えたの。で、道があるってことは人がいるんじゃないかって思って道を辿っていたらここに」

と、ユイにこれまでの道程をありのまま伝え、

「それよりもさ、この世界は一体何なの?ユイは何か分かる?ていうか、何でユイがここにいるの!?」

「まあまあ少し落ち着いて」

「落ち着けるか―!」


それでもユイは落ち着いた口調で話し始めた。

今思えばあれは私を落ち着かせるためだったような気もしなくもない。

「僕もさ、確証がある訳じゃないよ?でも、僕はこの世界は夢の世界だと思ってるんだ」

と言った。

『実はね、僕も目が覚めたら森の中だったんだ。それで僕もユイと同じで現状を把握するために散策していたらこの集落が遠くに見えてね。最初は(良かった。とりあえず人に会えれば今の状況が分かるかもしれない)と思って集落に近づいたんだけどね。誤算だったね』

『さっきのゴブリンたちのこと?』


ユイは小さく頷くと、

『そう。彼らの存在が誤算だった。人ならまだしもゴブリン相手だと意思疎通も怪しくなる。最初は別の街でも探そうと思ったよ』

ユイは更に続けて、

『でもさ。思ったんだよ。さっき、この世界はもしかしたら夢の世界だと思ってるって言ったでしょ?もしそうであるなら何か都合の良いように出来るんじゃないかと思ったんだよ』


『例えば、彼らと意思の疎通が出来るのであればこの街を避ける必要もなくなる。だから、ゴブリンと、なんだったら異種族と会話が出来るようになりたいって願ったんだよ。それから集落の中でも比較的小さくて弱そうなゴブリンに近づいて話しかけたんだよ。万が一、意思疎通が出来なかった時に大きくて強そうな相手だったらとんでもない事になりかねなかったからね。まあ、結果的には杞憂だったけどね』


そうして、ユイは私の方を向きなおして

『出来たんだよ!会話が!いやー、まさか本当に出来るとはね。ビックリしたよね』


笑いながらそう話すユイは続けて

『でも、同時に「ああ、やっぱりこの世界は夢か異世界なんだ」って実感したよ。最初から薄々感づいてはいたけど、そもそもゴブリンなんて現実にはいないし、こんな都合の良い能力が直ぐに身に付くわけも無いし、何よりその後この集落で眠りについた後に起きたら自分の部屋の天井が目の前にあったからね。もちろん現実世界のだよ』

そうしてユイが話に一段落を付けた。


『はー…。やっぱりこの世界は現実世界じゃなかったんだね。あー、そうか…。いや、まあ、そりゃそうなんだけど…』


自分でもそうだろうとは思ってはいたけど、改めて自分が今いる世界が現実ではないと分かると頭が追い付かない。まさか、自分がそんな異世界ファンタジーみたいな出来事に遭遇するなんて思わなくない?


『それよりもさ、ユキも異種族と会話が出来るようになりたいって強く願ってみなよ。そうすればユキもさっき見たゴブリンとかとも会話が出来るようになると思うよ』


そうユイに言われたものの、願っただけで異種族と会話が出来たら苦労しないだろ…なんて思いつつもやるだけやってみるかと思って、とりあえず会話が出来るようになりますようにと強く願ってみた。


そして実際に出来るようになったかどうかを確かめるために再び集落のゴブリン達に近づくことにした。もちろん何かあった時の為にユイに同伴してもらって。


『ユイがいるなら誰でもいいか…』

そう思って自分の近くにいた私とそこまで背の変わらない一体のゴブリンに話しかけた。


『や、やぁ……』

……自分でも酷い挨拶をしたものだと思った。

いや、でもさ!相手はゴブリンだよ!?こうなるでしょ!!と、心の中で自分にツッコミを入れると、

『おや、また別のニンゲンかい?ユイが一緒にいるってことはあんたたちは知り合いなのかい?』

と、思ったより友好的に返してきた。

というか、会話出来てるし。マジでか。


本当に会話が出来るか半信半疑だったので、いざ会話が出来るとなると上手くしゃべれなくなって、とりあえずコクコクと頷くと、

『そうかい!私はアイラっていうんだ。ユイとはもう知り合いになってるからね。ユイの知り合いなら大歓迎さ!まあ、そのなんだよろしく頼むよ。っと、あんた、名前は何て言うんだい?』

と、聞かれたので

『あ…ユキです。ユキって言います』

『ユキね…。よし、覚えたよ。それじゃあ、ユキ、改めてよろしくね。ユイの知り合いって事は、しばらくはここにいるのかい?』

『そうですね…。とりあえずはこの辺りにいようかなとは思ってます』

『まあ、なんかあったら気軽に声でもかけてくれよ。じゃあね』

そういってアイラとお別れをした。


今の短い時間の中で起きた非日常的な出来事に私が立ちすくんでいると

『さて、どうだった?』

『うひゃあ!急に話しかけないでよ!』

『ゴメンゴメン。でもゴブリン相手に会話出来たでしょ?』

『いや、まさか本当に会話出来ると思わなかった…』

本当に会話が出来た事に驚きつつも、じゃあ何で前にイノシシに襲われた時は何も能力が出なかったんだろうと思ってが、まあ生きてるし別にいっかと深く考えないようにした。

そして、この瞬間に別の問題が生まれていることに気づいた』

『あ。そういえば今日どうしよう!』

そう。泊まるところが無い問題が生まれていた。

前回は気絶して起きたら自分の部屋だったが、今回はそんな雰囲気もないからこの世界がどうであれ衣食住の住が無いと色々メンドクサイ事になる。


『ねぇユキ?この辺に泊まれそうな所ってない?…あ、でもお金とか持ってないしな……』

私が悩んでいると

『いいよ。今日は僕の家に泊まっていきなよ』

と言って私を連れて歩き始めた。

『え!良いの!?助かる!』

この世界に来た時は右も左も分からなければ人にすら会えない絶望的な状況だったにも関わらず、それが今となってはユイに会えるとは何とも棚からぼたもち状態である。


『ユイはもう自分の家があるって事でしょ?凄くない!?』

『まあ、ユキよりは早くここに来てるからね。僕も最初は話こそ通じたけど、寝る場所が見つからなくて仕方なく野宿しようかと思ってたところにアイラが知り合いを引き連れて、家を建てるのを手伝ってくれたんだよ。もちろん、家を作るのを手伝う代わりに今度は僕が何かを手伝うって条件でね』

『ふーん』

『僕としても野宿はしなくていいならしたくなかったからね。もちろん承諾したよ。で、出来たのがこの家』

そうして、ユイが指差す方に簡素ながらも1人住むには十分な一軒家が建っていた。

『僕がここで1人で寝食する場所だからね。簡素でも野宿に比べれば何百倍も幸せだね』

笑いながらユイはそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る