第48話 試験でおつかれ

 ヒューゴが一枚の紙を持って抜け道に戻ってきた。


草の上に紙を広げると、ベンチに座っていたエリックとVJがよく見ようとしてベンチから降りて草の上に座った。


一枚の紙を囲むように覗き込んで、五人は頭を寄せ合った。


学校の敷地内の地図に、ぎっちり書き込みがされている。


赤いペンで大きな文字が、青いペンで小さな文字が捕捉のように書かれている。


リウが目を細めて小さい文字を読んでいると、VJも同じように目を細めていた。


イジーがそんな二人を見て笑い、「小さく書きすぎだよな、ヒューゴ」と言ったので、青い文字はヒューゴの書いた文字のようだ。


「ほんとだよ。読む人のことも考えてよ」


「これの写しはないの? 

こんなにいっぱい書いてあっても覚えきれないよ」


リウとエリックが文句を言うと、ヒューゴが肩をすくめた。


「今までのミーティングのまとめみたいなもんだから、全部わかってることのはずだぞ。それに、中間試験の後だからこれくらい頭に詰め込めるだろ」


「ヒューゴ、中間試験はもう終わってるよ。

これ以上頭に詰め込むスペースなんてないよ。僕、紙取ってくる」


エリックは「二度手間じゃないか」とぶつぶつ言いながら、カラス寮の方に走って行った。



 エリックがカラス寮を囲っている茂みの中に消えていくのを眺めながら、ヒューゴとイジーはまた草の上に寝転んだ。


「兄貴に似て細かい男だな」


「そうだな。もう一人兄貴がいるらしいんだけど、その兄貴はきっと拾われっ子なんだろうな。全然似てないし」


「僕から見たら三人ともそっくりやって。銀髪プラチナブロンドで細身でカッコいい」


寝転んでいたヒューゴが首だけVJの方に向け、ウインクした。


「おっ、ファンサを欠かさない男」とイジーが冷かし、VJがクスクスと笑った。


「女子やったらきゃーって言うてたろうね。残念やったね」


「女子といえば、ウナちゃんは? 試験前に生物のカンペみたいなのくれた時から会ってないけど」



 先日発覚したことだが、ウーナはこの学校の守護霊だった。


生徒ではないので授業も受けていないし、当然ながら試験も受けていない。


カワセミ寮の生徒だと言っていたが、守護霊も寮に所属させられる決まりでもあるのだろうかとリウは思った。


当の本人は「試験中は皆必死でつまんない」と、姿を消したままだった。



 ダラダラしているうちに、エリックが紙を数枚取って戻ってきた。


指で紙をトントンと叩き、ヒューゴの持ってきた配置図を転写した。


エリックが転写した紙をリウとVJに配り、二人が寝転んだままなことを除けばやっとミーティングらしい雰囲気になった。


ヒューゴは寝転んだまま、配置図を指差して説明をし始めた。


この時間帯は庭園に人が集まるだとか、演劇部の公演中は邪魔にならないように控えめにするだとか、九割五分以前のミーティングの確認だった。


一通り説明すると、ヒューゴもイジーも完全に寝る体勢に入った。


「ここで寝るつもり? 」


「無理もないよ、毎日徹夜で前日に暗記して詰め込んでたから」


「前日に? それはまた思い切ったね」


「ずっとミラーボールで遊んでたんやって。

ベラ先生に手伝って作ってもらったとか言って」


リウも呆れて、草の上に寝っ転がった。


制服のシャツの背中にちくちくと草が刺さる感触がするし、地面の土から湿気が染み込んでくる気がした。


青臭いし、蒸し暑いし、寝るのには少し不愉快な環境だ。


「こんなにゆるくて大丈夫なんかな」


VJが不安そうに言ったが、上級生二人の耳にはすでに聞こえていなかった。


「大丈夫、何があってもヒューゴがなんとかするよ」


エリックもそう言って草の上に倒れ込んだ。


「なんとかできればね」


リウの捕捉を聞き、草の上で寝る四人を見て、アホらしくなったのかVJも草の上に横になってしまった。



 屋外で昼寝を決め込んだ五人は、ウーナとネオンに叩き起こされた。


「どこにもいないと思ったらこんなとこで寝てるし〜

そんな余裕こいてていいの〜?」


「しけんで疲れてたのか? 」


ネオンに顔の上に乗られて、イジーはたまらずに起き上がった。


他の四人も、ウーナに魔法で水の泡のようなものをかけられてしぶしぶ体を起こした。


「みんな、試験はおつかれだったけど、夏至祭はまだまだこれからだからね。

後夜祭の買い出しだってまだでしょ」


「後夜祭?! やばい、今何時?! 」


後夜祭と聞いて、リウとエリックは跳ね起きた。


夏至祭の翌日は食堂も休みになってしまうので、寮ごとに食事を用意するのが恒例行事だった。


リウとエリックはその買い出しの荷物持ちとして、アズサとマックスと一緒に村に行く約束をしていたのだった。


ウーナは時計も見ずに、そろそろ正午だと言った。


「正門集合だったよね? 走れば間に合うよ! 」


「行こうリウ! マックスに怒られる! 」


「そういうことだから、みんな、後でね! 」


リウとエリックは正門の方に向かって全速力で走り出した。


リウの背中にネオンが張り付いたので、重心が後ろに傾いたリウは転びそうになった。


慌てる二人を、カワセミ寮の三人とウーナが手を振って見送った。


一度体を起こしたヒューゴがまた草の上に倒れる。


「後夜祭のメシ、今年は何だろうな」


「毎年カレーだろ。今年もカレーだよ」


「こんなとこでダラダラしてないで、前夜祭やろうよ」


「前夜祭って、何するん? 」


ウーナはバチっとウインクを飛ばし、自信満々に言った。


「そりゃもー、パーティっしょ。

ぱーっとぱーっと。飲もう! 」


「未成年だぞ」


「ソーダ水で乾杯だよ! 食堂いこー!」

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LとE〜魔法学校に入学したけれど、杖もホウキも使わず、大層な魔法は使わない。〜 佐藤祥万 @daigo_yori

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