第46話 スパルタ勉強会

「で、あのトカゲはどこにいるんですか? 」


 クエンティンに言われて、リウはネオンがいなくなっていることにやっと気付いた。


図書館に行った時には既にいなかった気がする。


「まあ、いーじゃん。ネオンちゃんには後で伝えたら。

あたし、そろそろ行くね。カワセミ寮でVJ達が勉強してるだろうし」


「そうですね、リウ君もエリック君もお勉強に戻った方がいいんじゃないですか。わたくしがアズサさんに渡した教材は活用してますか? あれ、先生の作ってる試験用紙を見て作ったんですよ」


クエンティンの言葉を聞いて、リウは呆れた顔をした。


「なんだかズルしてるみたい」


「ズルでもなんでも、赤点取ったら有志チームから脱落しちゃうんだからなんでも利用しなきゃ。それ、二年生の試験用紙しか見てないの? 三年生のと四年生のは?」


ウーナがVJとヒューゴ達用の教材を要求したが、クエンティンは首を振った。


「用意したかったんですが、まだ作成途中だったみたいで見れなかったんです」


「今作ってるなら、このまま見に行ってくる。

情報ありがと、カエルせんせー」


ウーナがその場から霧のように消えていった。


「守護霊って本当だったんだね」


エリックが影も残さず消えたウーナの正体を確認するように呟き、リウも同意した。


きっと、学校中をああやって現れたり消えたりしながら移動しているのだろう。


ウーナの前ではどんなに頑丈な鍵でも意味を成さないだろうなと考えながら、リウとエリックはカラス寮に戻った。


 

 カラス寮のラウンジに入ると、アズサとマックスが大きなテーブルに陣取って待っていた。


テーブルの上には教科書や参考書、ノートなどが山のように積まれていた。


どこから入手したのか、去年の試験の問題用紙も置いてあり、勉強するには十分すぎる体勢だ。


アズサはリウの手元の絵本をチラリと見て、魔法で自分の手元に引き寄せた。


リウが抵抗する間もなく『黄金の鳥にみちびかれて』はリウの手から離れていってしまった。


「おかえり、二人とも。これは私が持っておくね。

本を探しに行った分の遅れを取り戻すから、頑張ってね」


アズサが言い終わると同時に、マックスがリウとエリックに数学の問題がびっしりと書かれた紙を差し出した。


アズサとアズサのスパルタ塾が始まった。



 リウの頭の中が数字と記号でいっぱいになった頃、ようやく昼食の時間になった。


リウがペンを握りしめたままノートに顔を突っ伏す隣で、エリックは静かにペンを置いた。


アズサが使った参考書をまとめてトントンと机でならした。


「解き方さえ覚えたら、あとは当てはめるだけだからね」


「苦手なんだよね、数学」


エリックは午前中に解いた問題を見返すようにノートを開いていたが、閉じると雑にテーブルの上に投げた。


「リウの得意な科目なんてあるの? 」


「これから作るところなの! 」


「早く作れ」


マックスはそう一言言い捨てると、代表生徒用の事務室に引っ込んでいった。


アズサが「じゃあまた午後ね」と言ってマックスについて行ったので、やっとリウとエリックはスパルタ塾から解放された。



 アズサもマックスも一緒でないのをいいことに、抜け道を使ってさっさと食堂まで行った。


VJとヒューゴ達のテーブルでウーナが何か紙を渡しているのが見えた。


生物教師から盗み見してきた試験問題でも教えているのだろう。


疲れていたリウは昼食も取りに行かず、指定席に座った。


エリックが「僕が二人分取ってくる」と言ってくれたので、お言葉に甘えてそのまま座っていることにした。


エリックを待っていると、どこからかネオンが現れた。


「また、どこ行ってたの。ネオンのこと調べてたのにさ」


「おれ、図書館のせんせー苦手。

前すっげー怒られたから」


「図書館でうるさくしてたらそりゃ怒られるよ」


誤魔化すように器用に後ろ足で頬を掻いているネオンをひと睨みし、窓の外を見た。


普段は裏庭で遊んでいる生徒達がいるのだが、今は試験前の自習期間ということもあり、誰もいない。


しばらくして、両手にトレーを持ったエリックが席に戻ってきた。


「でた、トリモドキ」


トレーの片方をリウの前に置き、隣に座った。


聞き慣れない言葉で呼ばれたネオンが首を傾げた。


「とりもどき? それが俺? 」


「そうなんだって。伝説の生き物みたいな感じらしいよ」


「へー、おれってすごーい」


重大なことだと思っていたのに、「そうだね」とリウに冷たくあしらわれたネオンは不機嫌丸出しになった。


リウの頭は午後からの試験勉強のことでいっぱいだったので、ネオンに対応する余裕がなかったのだ。


本もアズサに没収されたままで、手元にない。


ネオンはぷんぷんと怒り出し、どこかに行こうとしたのでリウが引き留めた。


「ちょっと、どこに行くの? 一緒に勉強するんじゃないの? 」


「カナコのところ。カナコの方が勉強教えてくれるから楽しい」


べーっと舌を出して、食堂の外に飛んでいってしまった。



 午後はマックスがいなかったので、午前中よりはゆっくりしたペースで勉強できた。


驚くことに、アズサはちゃんと三時のおやつの時間を取ってくれたので、休憩時間さえあった。


午後の勉強をこなし、夕飯後の歴史の語呂合わせもこなし、消灯時間近くにスパルタ塾は解散となった。

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