第45話 古狸と化け蛙
「この黄金の鳥がネオンなんだ」
リウは本を開いたまま、喜びの声をあげた。
ウーナがあっさりとネオンの正体を当ててしまったので、拍子抜けしたような気持ちもあった。
「ネオンをもっと早くウーナに会わせておけば良かったよ」
「でも、トリモドキなんて生き物聞いたことないよ」
開いたままの本を横から覗き込みながら、エリックが言った。
「そうでしょうね、トリモドキは今までずっと想像上の生き物だと思われていましたから」
リウたちが本の中身を確認している間、クエンティンはずっとウーナと対峙したままだった。
二人の間にどういった因縁があるのか知らないが、かなり根が深いもののようだ。
「学校の中にずっといたから、取り残されてるんじゃないの?
今はすごく個体数が減って、マジ希少種になっちゃったけど、世界にはちゃんといます〜」
「わたくしたちは契約でこの学校から出られないんです、この古狸!
いつまで学校にいるつもりですか? そろそろ出て行っては? 」
「あたしはここが気に入ってるの! また友達できたし、今年は夏至祭の特別演出のサポートするんだから。
どう? すごくない? フジサキの役に立ってるのはあたしの方なの。
契約なんてとっくに切れてるでしょ、何百年前の話してんの?」
「わたくしだって教員として役に立ってますし、契約したのだって、たった数十年前です!」
リウとエリックが挟まれたまま言い争いが始まった。
なんとか二人の言葉から関係性と、二人の素性を探ってみようとしたが、今いち全体像が掴めない。
少なくとも数十年前からの知り合いで、ずっと学校にいるということはわかった。
ウーナはこの学校の学生ではなく、
言い争いがヒートアップするうち、二人の声は図書館の中まで聞こえるくらいの音量なっていたらしい。
図書館の扉が開き、司書が激怒の顔で現れたので四人はその場から離れることにした。
ウーナとクエンティンが発する険悪なムードを引き連れながら、有志チームのミーティングでよく使っている空き教室に入った。
相変わらず埃っぽく、ガラクタが積まれている。
「ええと、ウナちゃんはクエンティンとどういう関係なの? 」
「このカエルとは古い付き合いなんだよ。
このカエルどもが、前に学校の職員の一人と契約した時からね」
「契約って?」
「わたくしたちは前住んでいた所に住めなくなって、七十年ほど前にこの学校に辿り着いたんです。
その時に、この学校に住む許可と引き換えにある教師と契約をしたんですよ。
もうその教師はこの学校にはいないのですが、契約は続いています。
契約の詳しい内容は教えられないんですが、この学校から出なくて済むような環境を与える代わりに出られないことも含まれてるんです」
エリックはクエンティンが契約した人物のことを聞いたが、それも契約の都合で教えられないと答えた。
エリックはウーナの方にも聞いたが、ウーナも契約した人物について教えてはいけないのか、知らないのかはわからないが、教えてくれなかった。
「契約についてはこれ以上は聞かないよ。
それで、ウナちゃんは何者なの? 」
「ただの古狸です。
わたくしたちが学校に着くより前からいる」
「ウナちゃん、タヌキなの? 」
「こんなに可愛いウナちゃんがタヌキなわけないでしょ、適当なこと言わないでよカエル」
ウーナがクエンティンを睨んだ。
クエンティンは「かわいい? どこが? ババアじゃないですか」ととても失礼なことを言っている。
「ウナちゃんは、この学校を守ってる守護霊ちゃんだよ。
あたしも守護霊の中ではあんまり古株じゃないから偉いこと言えないけど、このカエルよりは先にいるかんね。
ずっとここにいて、暇だから時々生徒と一緒に遊んでんの」
守護霊、とリウがびっくりしていると、エリックが隣でため息をついた。
「魔法生物に守護霊、それに希少生物。
去年まで普通の学校生活だったけど、リウは色々引き連れて入学してきたんだね」
「私、関係あるかな?
みんな私の入学より先にいたんでしょ? 」
自分は関係ないとリウは主張したが、魔法生物と守護霊の二人がその言葉を否定した。
「あたし、懐かしい気配が近付いてきたから久しぶりに顔出したんだよね。
リウちゃん、何か外から持ってこなかった?」
「わたくしも同じです。
昔感じたのと同じ気配がして、あのトカゲが来て、君たちと会いました」
もしかして、とリウは考えをめぐらせた。
祖母からもらったあのペンダントが関係あるのならば、自分が原因であることは間違いないだろう。
しかし、自分が台風の目だと認めたくなくてわざとわからないフリをした。
「さあ? 心当たりはないな」
エリックはペンダントが原因じゃないかと疑っているらしく、口には出さないがリウに意味ありげな目線を送った。
そんな視線を無視して、リウはまた言い争いを始めた二人を諌めるのに専念したのだった。
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