第44話 お探しの本はこれですか?

「ウナちゃん、今なんて言った? 」


 リウが、ネオンを抱き上げているウーナの言葉をもう一度聞き返した。


聞き取れなかったわけではないが、ウーナが重要なことを口にしたのを確認したかった。


「なんて、って。トリモドキだよ〜。図鑑に載ってなかった?

今は全然いないから、もしかしたら載ってないのかな〜」


ネオンの腹から顔を離し、赤ん坊をあやすように揺らしている。


ウーナは特に自分が重要なことを言ったわけではないと思っているような口ぶりだった。



 トリモドキという名前を聞いて、ピンときたのはマックスだけだった。


「トリモドキ? あれは御伽話に出てくる想像上の生物じゃないのか? 」


「魔法使いだって同じようなもんでしょ〜。

魔法使いがいるなら、トリモドキだっているよ〜」


マックスが言うには、魔法使いの子供が読むような絵本に出てくる妖精のような動物だったらしい。


マックスが入学した時に図書館で読んだ絵本で見たというので、絵本を探しに図書館に行くことにした。


大人数で行くと図書館で自習している生徒たちに迷惑がかかると、アズサとマックスは先に寮に戻ると言った。


「なるべく早めに用事を済ませて戻ってこいよ」


中間試験の勉強を放棄するということを、マックスは渋々ながら認めてくれたらしい。


不満そうな顔をしながら、アズサに背中を押されて寮の方向に戻っていくマックスに、ウーナが大きく手を振っていた。



 図書館は、本校舎の地下にある。


寮の建物につながる門から比較的近い位置に、図書館へ降りる階段があった。


フジサキ魔法学校の図書館はリウが入学する前に通っていた図書室の蔵書の量よりはるかに多かった。


魔法道具技師や魔法薬調合師の資格に関する本や魔法使いが書いた小説や絵本、図鑑など、魔法使い特有の蔵書もたくさんある。


何気なく開いた本が、魔法がかけられていて開くとページ毎にシーンが再生される本だった時、リウは読書とは何か考えてしまったこともある。


読書をしに来る生徒、自習しに来るする生徒、調べ物をしに来る生徒、ただ単に地下のような薄暗い場所を好んでいる生徒、図書館を利用しに来る生徒は多くいる。


中間試験前の今は、自習をしに来ている生徒が多い。


図書館内の自習スペースはそんな生徒たちで埋まっていて、リウとエリック、ウーナはそんな生徒達の邪魔をしないよう、静かに絵本が置いてある棚まで移動した。



 さすがのマックスも、数年前に読んだ絵本のタイトルまで覚えていなかった。


リウ達は手分けしてそれらしいタイトルの本を棚から抜き出して、開いて中身を見て探した。


児童書の棚の本をひたすら開いては閉じる作業を繰り返す三人を、自習している生徒が白い目で見始めた。


もうすぐ中間試験なのに何をしているんだろうこの三人は、とでも言いたげな視線を送ってきた生徒に気付いたウーナが、その生徒にウインクをして星を飛ばすと、気まずそうな顔をしてテキストに目線を落とした。


それらしいタイトルの本を探せども見つからず、棚の端から開いて閉じるの作業を繰り返し始めた時、三人に一人の教師が近付いてきた。


緑がかった青い髪、尻尾のように垂らした一房のお下げは赤い。


時期はずれの新任教師、クエンティン・ベラだった。



 三人夢中になって作業を繰り返していたので、リウがクエンティンに肩を叩かれるまで気付かなかった。


肩を叩かれたリウが振り向き、作業を邪魔してきたクエンティンを睨むが、ヘラヘラとかわされた。


クエンティンの軽薄な態度にイラつきつつ、ふとクエンティンが持っていたものに目が行った。


『黄金の鳥にみちびかれて』というタイトルの本で、魔法使いの男が鳥のような生き物に手を伸ばしているイラストが表紙だった。


魔法がかけられている本で、表紙のイラストが動いていた。


「クエンティン、それ……!」


思わずリウが大きな声を出してしまい、また他の生徒から注目が集まった。


生徒だけでなく、司書からも怒りの視線が向けられていた。


クエンティンは媚びるような目を司書に向けた後、リウ達にジェスチャーで「図書館から出ましょう」と伝えた。



 図書館から出ると、ウーナはすぐに魔法でクエンティンの手から本を取り上げた。


「ちょっと、どーしてアンタが持ってんの? 」


ウーナが目を釣り上げ、クエンティンを問い詰める。


いつもニコニコしているウーナの怒りの表情をリウもエリックも見たことがなく、二人で肩をすくめた。


「いやあ、わたくしもあのトカゲのことを探ってまして。

読んだから返しにきたんですよ。ちょっと間が悪かったですねえ」


「あたしのこと邪魔してたんでしょ。ほんとムカつく。

昔っから、あんたらカエル一族はあたしの邪魔ばっかりしてさ、いい加減にしなさいよ。前にあんたらの巣穴の周りを水溜りにしたの、まだ怒ってんの? 」


「住処の周りを池にした挙句、その池の水深を急激に深くしたのなら根に持ってますよ」


ウーナはクエンティンに「しつこい男はモテないから」と言い捨てると、リウに『黄金の鳥にみちびかれて』を渡した。



 まだ腕組みをして睨み合っている二人をよそに、リウはウーナから受け取った本を開いた。


中を読んでみると児童向けの軽い小説のようだ。


マックスの言ったような絵本ではなかったが、挿絵が多く、絵本と間違えて覚えていたのは無理がない。


その挿絵の中にネオンによく似た生き物がいた。


大昔の魔法使いの冒険譚で、宝物を探して霧のかかった森に入り迷った時、黄金色に光る不思議な鳥に導かれて生還したという内容だった。


物語は“あの鳥のような生き物は、とりもどきはとても気高く美しい生き物だった。たからものは見つからなかったが、とりもどきこそがたからものだったのだろう”という文章で締めくくられていた。

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