第41話 一長一短

 代表生徒とのテストが終わると、ヒューゴは完成したミラーボールのハコを持ってベラ先生の元を訪れた。


は完璧ですね。で、これがあのトカゲの羽根ですか。

良いですね、ばっちりです。一級品の媒体と同じくらいですね」


ベラ先生はネオンの羽根をくるくると回して、よく観察して言った。


羽根は角度を変えるたび、違う色を見せた。


元の鱗と同じように、光を反射している。


ヒューゴが作ったハコに、魔法を込めた媒体を融合させたらミラーボールは完成する。


通常のミラーボールと違い、魔法のミラーボールは球体の内側に鏡が貼ってある。


球体には穴が二箇所開いていて、片方の穴に魔法を流し込むと、内部で反射してもう片方の穴から出てくるという仕組みだ。



「始めていいですか? 」


「お願いします」


 ベラ先生が羽根を両手で挟み込んで魔法を使うと、両手の隙間からキラキラとした光が漏れてきた。


そのまま両手を開き、ハコを両手で包み込むようにして力を込める。


両手の平にべったりと絵の具のようについていた魔法が、ハコに移っていく。


しばらくして表面の光が落ち着いて、ハコの内部から光が溢れてくるようになると、ベラ先生は手を離した。


これで、ミラーボールは完成ということらしい。


「どうでしょう。これで大丈夫だと思うんですが。

試してみてください」


ベラ先生からミラーボールを受け取ったヒューゴは、穴の中に簡単な光の魔法を撃ち込んだ。


ミラーボールがすぐさまヒューゴの撃った魔法を反射して、光の球を返してきた。完璧だった。


ミラーボールの出来栄えに、ベラ先生は満足して目を細めた。


「完璧です」


ヒューゴは興奮で顔を赤くしながらミラーボールをうっとりと見つめた。


「なら良かった。

将来、魔法道具技師を目指すなら、媒体にかける魔法も自分でできるようにならなければいけませんね」


ベラ先生の言うとおりで、ヒューゴはハコを作るのは得意だが、中身の魔法の方は人並みだった。


魔法道具技師になるとはっきり決めたわけではないが、選択肢には入っている。


「ベラ先生は生物学が専門なのに、魔法道具を作る魔法も使えるんですね。

魔法道具技師の資格を持っているんですか? 」


ヒューゴが聞くと、人差し指を口元にあてて、精一杯お茶目さを演出してベラ先生は言った。


「闇道具技師ですよ。食い扶持を稼ぐために必死なんです。

それに、媒体も生物の一部ですからね」


――


 ヒューゴがミラーボールを完成させた頃、リウ達は抜け道でこっそりと練習に励んでいた。


リウはどうしてもVJのような多色の花火が出せず、躍起になって魔法を撃ちまくっていた。


それでも単色のものしか撃てなかったので、リウはとうとう草むらに寝そべって休憩し始めた。


「おや、花火ですか。今年の夏至の祭りは花火なんですか」


頭のすぐ近くの草むらから声が聞こえたと思ったら、水辺の隣人ゲローダ・メ・マギの長でクエンティン・ベラの父親であるギーだった。


小島から対岸であるここまで来たのか、と思ったが水辺の隣人ゲローダ・メ・マギの魔法だったら転移も余裕だろう。


VJに見られたらまずいな、とリウは少し体を捩って草むらに顔を近づけた。


「そうなんだよ。いくら頑張っても一色のやつしか出せなくて。

何か良い方法を知らない? 」


ギーは顎のひげを撫で、目を細めながら言った。


「若いですなあ。

良いじゃないですか。混じりっ気のない、ただ一色の花火も」


VJが離れたところでピンクと水色の可愛らしい花火を撃ったのが見えた。


ギーはVJの花火を見て「おや、器用な方もいるみたいだ」と首を伸ばして空を見た。


「イメージすることが大切ですな。見た人がどういう表情をするのか、させたいのか……。

ところで、うちの息子は上手くやっておりますかな」


ギーは、息子であるのことを口に出した。


「上手くやってるよ。女子生徒と特にね」


「結構、結構」


「あ、じいさん! 」


頭上から幼い男の子の声とともに、ネオンが降りてきた。


「ああ、あの居候……。

ずいぶん毛深くなった。そちらは寒くなる準備は万端ということかな」


ギーは目を凝らすようにして、ネオンの首元を見た。


羽毛に埋もれてはいるが、ネオンの首にはあのペンダントがかかっている。


「それは……また、珍しいものをお持ちですな。

昔、この学園に同じものを持ち込んだ生徒がいたような……」


「リウ? 誰かと話してる? 」


ギーと話していると、エリックが草むらを歩いてこちらの方に歩いてくる音がした。


「お友達が集まってくる前にお暇しますかな。

では、夏至の祭り、楽しみにしておりますのでな」


ギーはふぉっふぉと老人のような笑い声を残して、泡が爆ぜるような音を立てて消えた。


エリックがリウの近くに立って、こちらを見下ろした。


「ちょっと、大丈夫? また池に落ちたのかと思ったよ」


リウが草を払って立ち上がると、VJが駆け寄ってきた。


「じいさんが……」


「ちょっとネオンと話してたんだよ。

さて、練習を再開しようか」


VJのいる場で水辺の隣人ゲローダ・メ・マギについて話すのはまずいと思い、リウはネオンが言おうとした言葉を遮った。


VJがリウを見て心配そうに言った。


「リウ、だいぶ疲れたんとちがう? 

きょうはもう終わりにする?」


VJがそう言ってくれたはいいものの、リウは自分がVJのように上手く花火を出せないことが不満で「もう少しだけ」と言って練習を続けることを選んだ。



 小一時間ほど休憩を挟みつつ練習したが、結局リウは単色のものしか出せなかった。


疲れ果てて魔法も上手く撃てなくなったところで、三人は練習を終えて夕飯をとるため食堂へと向かった。


夕食を終えて出ていく者の方が多く、食堂内にはほとんど生徒はいなかった。


リウたちはいつもの指定席ではなく、適当な大きなテーブルに陣取って座った。


「ねえ、リウ、あんまり僕みたいな花火を出すのにこだわらなくてもええと思う」


VJが夕食のグリルチキンを切り分けてながら、リウに言った。


「得意なことを伸ばす方がええと思うよ」


エリックはリウがやりたいと言ったことを否定するつもりはなかったが、VJの言うことに同意した。


「僕もそう思うよ。アズサに喜んでもらいたいのはわかるけど、リウらしい花火を見てもアズサは喜ぶと思うんだ」



 二人の言葉を黙って聞いていたが、リウはまだ納得いかないというような顔をしている。


そんなリウを見て、エリックはネオンを諭すときのような口調で言った。


「リウ、諦めろって言ってるんじゃないよ。これは、役割分担だ。

VJが得意なことは、VJに任せる。リウにはリウが得意なことをしてほしいんだ」


リウは口に入れた鶏肉と一緒に、エリックの言葉を噛み締めた。


鶏肉は噛むたびに肉汁が出てくる気がして、いくらでも噛んでいられる気がした。


エリックの言葉も、何度も噛んでからようやく腑に落ちた。


「わかった。私は私ができることをする」


「そうそう、チマチマしたやつはVJに任せてさ、

リウちゃんはでーっかい花火を思いっきりやっちゃって! 」


いつの間にか現れたウーナが、リウの両肩を後ろから思いっきり叩いた。

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