第40話 次男のお買い物

 ヒューゴとイジーは外出の届け出を提出し、学校近くにある村の魔法道具店に来ていた。


目的はもちろん、ミラーボールの材料の買い出しのためだ。


中間試験が近い現在、外出届けを提出しても許可されにくいのだが、特別演出のためと言うと簡単に許可が下りた。


こうして、ヒューゴとイジーは学校の門を出て、村まで小走りでやってきたのだった。



 魔法道具店には、既製品の魔法道具や、魔法道具の製作に必要な材料が置かれていた。


ヒューゴは必要になるはずだった媒体の棚を見ていたが、ガラスのショーケースの中はからっぽだった。


ネオンの羽根が手に入って良かったと胸を撫で下ろしていると、店主に話しかけられた。


「いらっしゃい。きょうは何を持ってきたんだい?」


「きょうはハコを買い取ってもらいに来たんじゃないんだ。

ちょっと、材料を探しに来たんだ」


ヒューゴは村に来るたび魔法道具店を訪れていたので、店主に顔を覚えられているくらい常連となっていた。


「そうかい。ゆっくり見てってくれ」


ヒューゴが店内の商品をチェックしている間、一緒についてきたイジーと取り止めのない話をするのも店主の楽しみらしい。


きょうも、店のカウンターの近くにイジー用のイスを出して二人を歓迎した。


「何を作るんだい? いつもハコを持ってきてくれるし、お安くしとくよ」


「ミラーボールを作るんだ。鏡はある?」


「鏡なら、この前屋敷を整理したって人がうっかり割っちまった鏡の破片が山ほどあるよ。

ミラーボールを作るんなら、破片でも大丈夫だろう? 」


「ああ、破片で大丈夫。それを一山、あとボールを」


店主が棚に置いてあった、中が空っぽのプラスチックのボールのようなものを取って、ヒューゴに渡した。


「これぐらいの大きさでいいかい?」


「うん、充分」


店主は皮の手袋をつけて、店の奥から大きな皮袋をガチャガチャ言わせてカウンターの近くまで引きずってきた。


袋の口を開き、カウンターに麻袋を出して口を開くと、割れた鏡の破片を慎重に詰め込んだ。


「それにしても、ミラーボールを作るなんて驚いたよ。君たちなら作れそうだけどね。

媒体は切らしてるけど、大丈夫かい?」


「媒体のアテはあるんだ」


「なら良かった。ミラーボールはあれに使うんだろ。 

あれだろ、夏至祭の特別演出」


店主はズバリと言い当てた。


ヒューゴが頷くのを見て、店主は笑顔を浮かべた。


「そうだよなあ。去年は君のお兄さんがやってたものなあ。

俺も招待されて行ったよ。見事なものだった。今年も期待してるよ。

この前、今年もよろしくって夏至祭のお知らせと招待状を置いてったんだ」


店主は麻袋に鏡の破片を詰め終えると、麻袋が運んでいる間に破れないよう魔法をかけた。


空っぽの球体を紙袋に入れると、カウンターの上に麻袋と並べて置く。


しまった、とヒューゴは思った。


本来、有志チームがやらなければならないのに、マックスが先に手を回して村に夏至祭の周知を済ませていた。


手が回らないと判断したのかはしらないが、後回しになっていたのは事実だ。


ヒューゴは代金を払い、釣り銭を受け取ると店主が言った。


「ちょっと村に来たついでだったみたいだよ。

可愛い女の子と一緒だったから、ありゃデートだな。

あ、俺が言ったってこと内緒にしといてくれよ。いや、もう知ってた? 」


マックスが女子生徒と来たと聞いて、ヒューゴとイジーはすぐにアズサだな、と思った。


付き合い始めたどうかは知らないが、あれから二人は急接近しているように見えた。


夏至祭の準備で風紀委員として活動しているというのもあるが、食堂や喫茶室で二人一緒にいることを見かけることもあった。


マックスがアズサと出かけるついでに来たというのなら、負い目を感じる必要はないなとヒューゴは思った。


「良い情報をありがとう」



 ヒューゴはカウンターの上の物を取って、店を出た。


イジーがヒューゴを追って店を出てきたが、振り向かなくてもわかるくらい、イジーがニヤニヤしている雰囲気を感じる。


振り向くと、案の定イジーはニヤニヤしていた。


「あのお堅いマックスについに春が来たか。

結構モテてたのに、あんなんだからさ」


「兄貴も人間だからな」


「ヒューゴには内緒だったけど。マックスが誰かと付き合うかどうか、みんな賭けてたんだよ。

みんな負けだ。まさかアズサちゃんとはな。

これでヴァーグナー三兄弟の中で独り身はお前だけだぞ」


ヒューゴがえっ、と驚いたのを見て、何故かヒューゴも驚いた顔になる。


「待った、エリックもだろ」


「え、リウちゃんと付き合ってるんじゃないの? 

いつも一緒じゃん」


確かに、リウとエリックは常に一緒だ。


けれど、それで二人が付き合っているという判断をヒューゴはしていない。


今までマックスにべったりだったのが、リウに代わっただけだと思っている。


「あれはどう見ても違うだろ」


「んー、まあ、二人ともそういうつもりじゃないみたいだしな。

ヒューゴが違うっていうなら違うのかもな」


「絶対違う」


村の広場を通ると、看板に夏至祭のポスターが張ってあった。


“春が来た”マックスによって持ち込まれたポスターは、夏至祭の知らせなのにどこか春めいた桃色の空気を纏って掲示板に貼り付けられているように見えた。

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